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援軍

 魔獣対策分隊が村に逗留することになって四日目の朝。カストリア防衛隊でも大きな動きがあった。

レプリベラグの格納庫の前には、巨大な金属製の箱のようなものが二つ置かれていた。

格納庫から出てきたレプリベラグがその箱に背中から入って行くと、整備士達がレプリベラグを箱に固定し始めた。

固定が終わり、整備士や操縦士達が箱から出てくると、レプリベラグを隠すように箱は音を立てて閉じていった。

ガタンという音と共に箱が完全に閉じると、今度は箱が持ち上がり、ゆっくりと横倒しになっていった。

箱の正体はレプリベラグ専用運搬車両、魔導キャリッジだった。

魔導キャリッジが二台、レプリベラグを載せ出発準備を進めていた。

二日前、アベル商会によりもたらされたミルダ村の情報を元に、昨日援軍派遣について作戦会議が行われた。

会議の結果、2個分隊の派遣が決定し、今朝の出発となった。

整備士達は作業を続けていた。魔導キャリッジの後ろに隊員と補給物資を運ぶためのカーゴが連結される。

隊員達は一様に緊張した表情をしている。レプリベラグを超える大きさの魔獣との戦いはいつ以来だっただろう。

補給物資の積み込みが終わると、次々と隊員達がカーゴに乗り込んで行く。

最後の一人が乗り込んだのを確認するとカーゴの扉が閉まった。

レプリベラグの魔力動力炉の技術を転用した魔導エンジンがその出力を上げる。

ミルダ村に向けて魔導キャリッジがゆっくりと動き出した。


 穏やかな風が吹き、太陽が中天に差し掛かろうとする頃、村の外れにある魔獣対策分隊の野営地では、今昼食の準備をしていた。

補給担当のマルコの指示の元、準備が進められているが、その中にミアの姿があった。

「マルコさん、味、みてもらってもいいですか。」

ミアは持ってきた小皿をマルコに渡した。

「どれどれ。」

マルコは、ミアから受け取った小皿を口へと運び、味を確かめる。

「うん、ミアちゃんバッチリだよ。」

マルコはその細い目をさらに細めて、ミアに向かって親指を立てた。

ミアもマルコに褒められて、誇らしげに親指を立てる。

「ミアちゃんも、だいぶ馴染んだわねぇ。」

「せやな、あの子は素直やから、人に好かれるんやろな。」

そんな様子をセリスとロッタは少し離れたところから見ていた。

最初は、フィンに会うと言う理由だけで分隊の野営地に来たミアだったが、セリスとロッタと出会い、フィンが分隊を手伝っている姿を見て、自分も何か手伝うと言い出した。

ミアはフィンとは違い、普通の村の子供だった。

突然手伝いたいと言われ、セリスとロッタも困ったが、何とかしてやりたいと思い、マルコに相談したのだ。

ミアはマルコの下で支援班の手伝いを始めた。働き始めたミアはその持ち前の性格で、すぐに他の隊員とも馴染んでいった。

炙ったチーズのいい匂いがしてきた。ミアはテーブルに皿を並べている。皿には炙ったチーズを乗せた黒パンが乗っていた。

マルコは、ミアの作った干し肉と豆を煮込んだスープをスープ皿に装っている。

「マルコさん、フィン達呼んできますね。」

準備を終えたミアは、勢いよく飛び出して行った。

「もう行っちゃったか、ミアちゃんは本当に元気だな。」

マルコは、ミアの飛び出して行った出入り口を見ながらハハハと笑った。


 丁度、みんなが昼食をとり終わった後だった。

フィンとミアは聞いたことが無かったが、ガルド達にはよく知っている音が聞こえてきた。

魔導エンジンの重くて低い規則正しい鳴動音と地響きのような振動。

「来たようだな。」

ガルド達は様子を見るために外に出た。

音の正体は魔導キャリッジだった。

「セリス姉、あの大きいの何?」

ミアは隣にいたセリスに尋ねた。

「ミアちゃんは初めて見るわよねぇ。あれは魔導キャリッジって言うのよぉ。」

セリスはミアに魔導キャリッジについて簡単に説明した。

村の方では近づいてくる魔導キャリッジを見てちょっとした騒ぎになっている。

騒ぎを収めるためシェイドが村に向かう。

リュークとカイルはガルドの指示を受け、受け入れの為レプリベラグに向かった。

他の隊員達もそれぞれ動き出す。

「ガルド分隊長。俺はどうしたらいいですか。」

フィンはこういう時どうしたらいいのかわからなかった。

「お前らは黙ってみてろ。なあに、見るのも仕事のうちだ。」

ガルドはフィンとミアにそう言った。

魔導キャリッジが分隊の野営地に到着すると、牽引されたカーゴから隊員達が降りて来た。

カーゴから降りた隊員達の中から二人、ガルドに向かって歩いてくる者達がいた。

二人とも歳は三十くらいだろうか。一人は精悍な顔つきに、体格もガルドに負けないくらいがっしりとしている。

もう一人は女性だった。こちらは、どことなくエルダに似た雰囲気があり、その佇まいには威厳の様なものがあった。

「よう、エドガー、レイナ、お前達が来たか。」

エドガーとレイナは、二人とも魔獣対策分隊の分隊長だ。

「よう、ガルド、こうして一緒に仕事するのはいつ振りだ。」

エドガーはそう言うと、ガルドに向かって拳を突き出した。

「忘れたのか、大討伐以来だから、1年ぶりだ。」

ガルドも拳を突き出し、エドガーの拳と合わせた。これが二人のいつもの挨拶だ。

「ガルド、どうして部外者がいるのかしら。」

周囲を冷静に観察していたレイナは、フィンとミアを見ながらそう言った。

「なあに、こいつらは現地協力員だ。」

気にするなと言わんばかりに、ガルドはレイナの肩を叩いた。

「まあ、詳しいことはエルダに聞いてくれ。」

「わかりました。」

レイナは理解した。つまり、この場で詳しい説明はできないと言うことだ。

レイナは視線だけでフィンとミアを見た。見た目は普通の村の子供にしか見えない。

視線を向けられ、フィンはその鋭さにドキリとした。ミアも何だかそわそわしている。

「おいおい、レイナ、そんなに睨んだら、子供がかわいそうだろ。」

見かねたエドガーがレイナに声をかけた。

「あら、ごめんなさいね。怖がらせちゃったかしら。」

レイナは、ほんの少し口元を緩め、フィンとミアに優しく微笑みかける。

その微笑みを見て、フィンとミアの緊張の糸も解けていった。

他の隊員達はそんな様子を尻目に自分たちの作業を進める。

魔導キャリッジは隊員達が降りたカーゴを切り離し、開けた場所に移動する。

移動を終えると、魔導キャリッジはレプリベラグを格納している荷台をゆっくりと立ち上げた。

遠巻きに見ていた村人達がその様子を見て騒ぎ出す。

立ち上がった荷台はレプリベラグの整備用ハンガーになった。

何もなかったところに、自分たちの家よりも大きな建造物が現れたことで、見ていた村人からは驚きの声が上がる。

そんな騒ぎをよそにして、整備士達が拘束を解除すると、ハンガーからレプリベラグがゆっくりと出て行く。

今、村人達の前には4体のレプリベラグが並んでいた。

フィンとミアも、ガルドの近くでその様子を眺めていた。

「はは、俺たちは見慣れちまったが、初めて見るお前達には壮観だろう。」

ガルドはフィンの肩に手を置きながらそう言った。

「はい。」

目を輝かせながら、フィンもガルドに答えた。

フィンや村人達が見守る中、空いたハンガーにリュークとカイルのレプリベラグがかわりに収まっていく。

「何をやってるんですか?」

ハンガーに収まったレプリベラグを見てフィンはガルドに尋ねた。

「リュークとカイルのレプリベラグの整備だ。魔獣との戦闘で傷だらけなっちまったからな。」

ガルドの答えを聞いて、フィンは改めてハンガーを見た。

村人達の喧騒の中、整備士達が各々作業に取り掛かる。


 時は四日前に遡る、森の奥では、何かを探し彷徨っていたあの鎧熊が目的の場所に辿り着いていた。

それは歓喜なのか、何かの合図だったのか、鎧熊は大きな咆哮をあげた。


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