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村での日々

 フィンは今、エリスとレプリベラグに乗っていた。

「分隊長、報告はどうやら本当みたいですね。」

ガルドは驚いていた。エルダの言う通りカイルの報告は正しかった。

フィンの操縦するレプリベラグの動きは、まさにそれを証明するものだった。

「動きに澱みがないな。」

ガルドの言うように、フィンは指示を受ければ、それをそのまま実行する。まるで自分の体を動かすかのように。

「もういいぞ、降りてきてくれ。」

ガルドの指示を聞いて、フィンはレプリベラグを待機状態にして、エリスと降りてきた。

「エリス、どうだった。」

フィンは言われたままに動かしただけで、自分の操縦がどうだったのか分からなかった。

「フィン、あなたの操縦はとても自然でした。過度な緊張や力みもなく、無駄のないものでした。」

エリスは率直な感想をフィンに伝える。

「そっか。」

悪くない評価のようでフィンはほっとした。

そんなフィンの様子を少し離れたところで見ていた人影が三つあった。

「あの子、すごいわねぇ。」

「あない、簡単に動かせるもんやったんか?」

「ねえ、セリス姉、ロッタ姉、あの子、誰?」

セリスとロッタとミアだった。

「あの子はレプリカントよ。識別番号はER-PX-0137。でもぉ、フィン君はエリスって呼んでるわねぇ。あの子、私がミーナちゃんて呼んでも受け入れてくれなかったのに、なんだか妬けちゃうわぁ。」

ミアの疑問にセリスが答える。

「レプリカント?」

ミアは初めて聞いた言葉を繰り返した。

「そっか、ミアちゃんは知らんか。レプリカントっちゅうのは、レプリベラグを動かすのに必要で、ああ見えて、人とはちゃうんやで。」

「え?」

ミアはロッタから人とは違うと言われて困惑する。

「ゆうても、生まれかたが特殊っちゅうだけで、お腹が減れば食事もするし、夜になれば眠るんや。」

ロッタは困惑するミアを見てそう付け加えた。

「フィンはああいうのがいいのかな?」

ミアがボソリとそう言うと。

「もぉ、ミアちゃんたら、可愛いんだからぁ。」

「ほんま、可愛いなあ。」

ミアはいきなり二人から可愛いと言われ抱きつかれた。

「え?ちょ、ちょっと待って。どうしたの?」

ミアは訳も分からず二人にもみくちゃにされた。

ミアがそんな目に遭っていた頃。

「エルダ、報告を纏めておいてくれるか。」

ガルドはエルダに指示を出していた。

「わかりました。しかし、これは大変な事になりそうですね。」

エルダは手元の書類を確認しながら言う。

「そうだな。能力だけ見れば、即戦力と言ってもいいんだがな。」

ガルドは笑顔でエリスに話しかけているフィンを見る。

「しかし、前例がありません。ああして見ると、年相応の少年にしか見えません。」

エルダもガルドの隣でフィンを見ている。

「俺たちが来なければ、多分あの少年は、自分の力に気づくことは無かったはずだ。」

気づかなければ、普通の村人として、この村で一生を過ごしたのだろう。ガルドはそう思った。

「ですが、私達は知ってしまいました。知ってしまった以上、報告しない訳には行きません。」

エルダにも思うところはある。

「私に出来ることは、彼の意向に出来るだけ添えるように、この報告を纏めるだけです。」

エルダはそう言うと、報告を纏めるためにこの場を後にする。

ガルドはエルダを見送ると、再びフィンに視線を戻した。

「エリスは村でどこか行きたいところはある?」

「……」

エリスは答えられなかった。

「あー、こんな何もないとこじゃ、聞かれても困るよね。」

フィンは黙ったままのエリスを見て困らせてしまったと思った。

「何もない?それは違う。あなたの家や家族がいる。」

エリスはただ、客観的事実を述べた。だが、何もないと言うフィンの言葉に何か言わなければと思ったのも本当だ。

「……そうだね。うん、エリスの言うとおりだ。」

エリスの意外な言葉にフィンは戸惑ったが、次第に嬉しさが込み上げてきた。

「そうだ、エリスに村を案内するよ。あ、でも、どこから案内しよう……」

思いついたのはいいが、どうしたものかとフィンが悩んでいると、騒がしい声が聞こえてきた。

「もう、セリス姉もロッタ姉も、いい加減にしてよ!」

「ミア!?」

セリスとロッタから逃げるようにミアがフィンの前に現れた。

「あ!フィン、ちょっと助けてよ。」

「え?」

ミアはフィンの影に隠れるように助けを求めた。その様子を見て、セリスとロッタはニンマリしている。

「セリス……さんと、ロッタさん?」

いきなり現れた三人にフィンは驚いた。

セリスとロッタは分隊員なので、いても驚くことはないのだが、そこにミアがいたのが意外だった。

「もぉ、ロッタったら、そんなにミアちゃんをからかったら、かわいそうでしょ。」

セリスは一歩下がりながら、ロッタの肩を軽く叩く。

「はぁー?なにうちだけ悪者にしとんねん。」

ロッタは勢いよく振り返ると、しょうもないことをするなと言わんばかりにセリスを叩いた。

「なによぉ、ひどいじゃない。」

「ひどいのはどっちや。」

二人の睨み合いが始まった。

「フィン、今のうち行こ。」

ミアはフィンの袖を引っ張りながら言う。

「え?」

フィンはミアと睨み合ってる二人を交互に見ている。

「ねえ、あなたも一緒に行こ。」

ミアはエリスに手を差し伸べる。エリスは差し伸べられた手をキョトンと見ていた。

「ほら。」

ミアは強引にエリスの手を取って、ニッと笑った。

「行こ。」

ミアはエリスを連れて走り出した。

「あ、ミア、エリス、待ってよ。」

フィンも後を追って走り出した。

「行ったようやな。」

ロッタはゆっくりと振り返って、走り去る三人を見た。

「そうねぇ。」

セリスもロッタの隣に立って三人を見ている。


 三人はしばらく走ったところで立ち止まった。

ミアは切れた息を整えるために大きく息を吐いて、ゆっくりと吸った。

「私はミア、よろしくね、エリス。」

ミアはエリスに笑顔で名乗った。

「ミア。」

エリスはどう答えたらいいかわからず、ただ、ミアの名前を呼んだ。

「どうしてミアがエリスのことを知ってるんだ?」

フィンは驚いてミアに尋ねた。

「セリス姉に聞いたんだ。」

何故か誇らしげにミアは答えた。

「セリス姉って、あの人おと……」

ミアはピンと伸ばした人差し指をフィンの口に押し当てた。

「フィン、それ以上言っちゃダメだよ。セリス姉はセリス姉なの。」

フィンが頷くとミアは指を戻した。

「それにしても、いつの間にあの二人と仲良くなったんだ?」

「それは、内緒だよ。セリス姉がね言ってたんだ、いい女はね、秘密が沢山あるんだよ。」

あの人はミアに何を教えたんだろう。フィンはため息をついた。

エリスはそんな二人のやり取りを黙ってみていた。

エリスは不思議だった。ミアと名乗った少女はどうしてこうも表情が変わるのだろうか。

フィンも何だか楽しそうにしている。楽しそう?

楽しそうとはなんだ。今までそんな事を考えたことがあるだろうか。

「ねえ、エリスもそう思うでしょ?」

突然ミアに声をかけられて、エリスの思考は遮られた。

「……」

思考に耽っていたため、エリスはミアが何に同意を求めているのかわからなかった。

「もしかして、話聞いてなかった?」

ミアはしょうがないなと言うように続けた。

「そう言う時は素直にごめんなさいって言って、聞いてなかったって言っていいだよ。」

ミアは笑顔でエリスに言った。

「それは、ミアがいつも人の話を聞いてないからそうなるんだろ。」

フィンにそう言われてミアは憤慨する。

「いつもじゃないもん。」

「話を聞いてないことは認めるんだ。」

「もー、なんでフィンはいつもそんな事言うの?」

エリスはまた不思議な感覚を覚える。今までも騒がしい人達はいた。

けれど、今までこんな感覚にはならなかった。この感覚は何なのだろう。

「あー、今エリスが笑った。」

ミアが突然エリスの顔を見て叫んだ。

「え?」

フィンは慌ててエリスの顔を見たが、いつもの表情に戻っていた。

「ねえねえ、エリス、もう一度笑ってみてよ。さっきの笑顔、可愛かったよ。」

ミアは目をキラキラさせて、もう一度笑ってとエリスに迫る。

「私、笑っていたの?」

エリスは戸惑った。自分は本当に笑っていたのだろうか。

笑う。先ほどの感覚がそうさせたのだろうか。わからない。

「エリス、こう、こうだよ。やってみて。」

ミアはエリスに向かって笑顔になって見せる。

「こう?」

笑えるのなら、今、目の前にいるミアのように、自分も笑えるのだろうか。

エリスはミアに言われたように、ゆっくりと口角を上げてみた。

笑顔と言うにはまだぎこちなさの残る表情だったが、それは今のエリスにとって、精一杯の笑顔だった。


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