変わる日常
ミアは家の手伝いをしながら一人考えていた。カイル兄が村に帰ってきてくれたことは嬉しかった。
しかし、アリシアはカストリアに帰ってしまったし、フィンもあんな事があってから、討伐隊のところに行ってしまった。
ミアだけ一人取り残されたような、そんな気分になっていた。
「ミアにだって……」
何が出来るんだろう。考えても何も出てこない。自分は平凡な普通の村人なんだ。フィンだって普通の村人だと思ってた。
だから、このまま普通に大きくなって、この村でずっと一緒に暮らしていくんだと思ってた。思ってたのに。
「うー、ダメだダメだ。よしっ!」
決めた。フィンに会いに行こう。会ったことで何が起こるかなんてわからない。わからないけど、何もしないよりはマシだろう。
ミアはそう決めると、家の手伝いを早々に終わらせてフィンに会いに出掛けて行った。
村人達が討伐隊と呼んでいる魔獣対策分隊は、今、村の外れで野営をしている。
行けば会えると思っていたミアだったが、フィンの姿が見当たらない。
「もー、せっかく会いに来たって言うのに、どこに行ったのよ。」
あてが外れたミアは、思ったことを口に出していた。
「あ〜ら、こんなところで、どうしたのぉ?」
ミアは急に声をかけられ驚いて振り向いた。
そこに立っていたのはセリスだった。
「ヒィ!?」
ミアはセリスを見て涙目になる。
「コラ!何、女の子泣かせてるんや。」
どこからともなくロッタが現れ、セリスの頭をパシッと叩いた。
「堪忍してぇや、こいつ悪いやっちゃないんよ。」
ロッタは屈んでミアと視線を合わせ、そう言った。
「ちょっとぉ、私は何もしてないわよぉ。」
頭をさすりながらセリスはロッタに抗議する。
「ちょっと、黙っといてくれる。あんたの話し方が怖がらせてるんよ。」
ロッタはミアとセリスの間に入り、セリスを黙らせようとする。
「そんなぁ、ねぇ、そんなこと、ないわよねぇ?」
セリスは身体を左右に振りながらミアの顔を見て話そうとするが、ロッタもそうはさせじとセリスに合わせて動く。
セリスはさらに上下の動きまでいれ、ロッタのガードを掻い潜ろうとする。
バシッ!
「あー、もー、鬱陶しい!」
ロッタは先ほどよりも激しくセリスを叩いた。
ミアはポカンとして二人のやり取りを見ていたが、なんだか急におかしくなって、気がついたら笑っていた。
ミアの笑い声を聞き、二人は顔を見合わせて、肩をすくめた。
「ごめんなさいねぇ、なんか怖い思いさせちゃったみたいで。私はセリス。支援魔法士をやってるのよぉ。」
セリスはミアが落ち着くのを待って声をかけた。
「うちの名前はロッタいいます。こう見えて魔法士なんよ。」
ロッタもセリスに続いて名乗った。
「あっ、えっと、私の名前はミアです。」
二人の名乗りを聞いて、ミアも慌てて名乗った。
「ミアちゃんか、ええ名前やね。そんで、ミアちゃんは、どないしてここに?」
ロッタは優しくミアに話かけた。
「……フィンに会いに来ました。」
フィンに会いに来た、そう聞いて二人は顔を見合わせてニンマリする。
甘酸っぱい匂いを嗅ぎつけた二人はミアに詰め寄る。
ミアは二人の勢いに驚き一歩後ずさる。
「そっかあ、ミアちゃんは、フィン君に会いに来たんやね。」
ロッタはうんうんと頷きながらミアに話しかける。
「でもぉ、残念ねぇ、彼、今森の方に行ってるのよぉ。」
セリスは本当に残念そうにフィンの不在をミアに教える。
「フィン、いないんだ……」
ミアはフィンがここにいない事を知って目を伏せた。
「なんであんたは、いっつも余計なことを言うんや。」
落ち込むミアを見てロッタはまたセリスを叩いた。
「でもな、でもな、もうすぐ戻ってくると思うんよ。ほんで、ミアちゃんは、フィン君に会って、どないするつもりやったんや?」
ロッタは慌ててフォローして、話題を変える。
「えっ……」
会ってどうするか、そう聞かれてミアは言葉に詰まらせる。フィンに会った後の事を考えていなかったのだ。
「もぉ、あんただって、何してるのよぉ!」
今度はセリスがロッタを肘で小突いた。すると、「なんやの。」「何よぉ。」とミアを放って二人の言い争いが始まった。
言葉に詰まっていたミアだったが、二人の言い争う姿を見て、慌てて止めに入る。
なんとか強引に間に入って二人を止めたミアだったが、どうして自分はこんな事をしているのだろうと思うと、自然と笑いが込み上げてきた。
笑い出したミアを見て、二人も釣られて笑い出す。
三人は一頻り笑うとお互いの顔を見た。
「私、いろんなことがあって、わからなくなっちゃったんです。フィンに会えば、何かわかるんじゃないかと思って。だから、会ってどうしたいとか考えてなかったんです。」
ミアは、思ったことをそのまま口に出していた。
「せやな。ミアちゃんの気持ち、うちにはようわかるんよ。」
うんうんとロッタは一人で頷いている。
「あの……」
一人で納得しているロッタにミアが話しかけた。
「なんや?」
ロッタはすぐさまミアに向き直る。
「私にも魔法って使えますか?」
「へ?ミアちゃん、いきなりどないしたん?魔法に興味あったんか?」
ミアの唐突な質問にロッタは間の抜けた返事をし、質問に質問を返していた。
「私、何もないから、このままじゃ、フィンだけがどこかに行っちゃうような気がして、だから、何か特別なことが出来ればって……」
ロッタはミアの言葉を聞いて、ゆっくりと話しだす。
「あんなあ、ミアちゃん。ミアちゃんが魔法を使えるかどうかは、正直わからん。魔法を使うには才能も要るけど、ほんまにめっちゃ勉強せなあかんのや。せやかて、その勉強もどこでも出来るわけちゃう。」
ミアはロッタの言葉を黙って聞いている。
「うちもな、ミアちゃんの力になりたいんよ。うちらがおる間なら教えられるかもしれん。けどな、おらんようになったら、教えられんのや。中途半端が一番ようないんやで。わかってくれるか。」
ミアは黙って頷いた。
「しょうがないわねぇ。私がとっておきの魔法、教えてあげちゃう。」
セリスが落ち込んでいるミアに声をかける。
「あんたなあ、うちの話聞いてなかったんか。」
セリスはロッタの言葉を制止して話を続ける。
「いいのよ、だってこれは、女の子だったら誰でも使える魔法なんだから。」
そう言うとセリスは化粧道具を取り出した。
「まずは、綺麗にしないとねぇ。」
セリスは生活魔法を使ってミアの顔を洗う。
「若いって、いいわねぇ。お肌が全然違うわぁ。」
ミアはセリスにされるがままになっている。
「これなら、口紅だけでいいわねぇ。」
セリスは手慣れた手つきでミアに口紅を引いた。
「女の子はねぇ、こうやって自分に魔法をかけるのよ。いい、ミアちゃん。男ってのはねぇ、いい女の元には必ず帰ってくるのぉ。だから、焦って追いかける必要はないのよぉ。だって、私が追いかけると何故かみんな逃げちゃうんだからぁ。」
セリスはミアに手鏡を渡す。ミアは鏡に写った自分の顔を見て自然と笑顔になる。
「いい顔になったわねぇ。」
「ほんまや。」
フィンには会えなかったけど、ここに来て本当に良かったと思った。
フィンにはまた会いに来ればいい。それよりも、今はこの二人に会えたことが何よりも嬉しかった。
ミアはこの出会いを一生忘れないだろう。




