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要請

 一夜が明けた。フィンは昨夜起きた事を思い出していた。

初めて乗ったレプリベラグでフィンは魔物を倒したのだった。

レプリベラグから降りると、カイルとミアがいた。ミアは泣きながら抱きついてきた。

森の方もいつの間にか静かになっていた。あの後、討伐隊は森から戻ってきたらしい。

らしいと言うのは、戻ってきた時にはフィンは眠っていたため、先ほどその話を聞いたからだ。

「夢、じゃないんだよな……」

夢だった。そう言われた方がまだ信じられた。

「そうだ、カイル兄さんのところに行ってみよう。」

カイルに会えば、何かわかるかもしれない、それに、あの少女エリスの事も気になった。

フィンは討伐隊のところに向かって歩き始めた。


 カイルは今、レプリベラグに乗っていた。

これはリュークの指示だった。リュークが言うには、戦場で強い恐怖を感じた操縦士は、間をおかずレプリベラグに乗らなければ、二度と乗れなくなるのだと。

「どうだ、調子は。」

「大丈夫そうです。」

カイルはリュークの言葉にそう返した。応急処置により左腕は動くようになったが反応は悪い、本格的な整備が必要だった。

それは、リュークの乗るレプリベラグにも言えた。盾は無くなっており、装甲もいたるところが傷だらけになっている。

カイルが離脱したあと、ガルド達の支援はあったが、リュークは一人であの鎧熊の攻撃を耐え忍んだのだ。


 フィンが討伐隊のところに着いた時、そこにはアベル商会の荷馬車も停まっていた。

「あら、フィン。お見送りには来てくれないのかと思いましたわよ。」

アリシアはいつもの調子でフィンに声をかけてきた。

「アリシア、そうか、今日帰るんだよね。」

フィンはアリシアに声をかけられてその事を思い出した。

「フィン、大丈夫ですの?ミアから聞きましたわよ。昨夜の事。」

アリシアは心配そうにフィンの顔を覗き込んできた。

「……」

「フィン?」

フィンは言葉に詰まった。アリシアは本気で心配している。色々ありすぎて考えがまとまらない。

「お嬢様、そろそろお時間です。」

商会の従業員がアリシアを呼びにきた。アリシアは従業員にすぐに戻ると伝えた。

「フィン、私達はカストリアに帰りますわ。防衛隊の方々に頼まれましたの、援軍を呼んできて欲しいと。」

アリシアは続ける。

「しばらく、ここにいるそうですわよ、カイルさん達。お話ししてみるのもよろしいんじゃないかしら。」

アリシアはクルリと振り返るとフィンにそう言った。

「ありがとう。アリシアも気をつけてね。」

フィンは笑顔で見送る事にした。

「ええ、フィンも、又の再会、楽しみにしてますわよ。」

アリシアはフィンとの別れの挨拶を済ますと、踵を返して馬車に向かって歩き始めた。

フィンはアリシアを笑顔で見送ると、カイルを探すためにまた動き始めた。

レプリベラグはその大きさからよく目立つので、カイルはすぐに見つかった。

「カイル兄さん、エリス、ここにいたんだ。」

フィンはレプリベラグの足元にいたカイルとエリスに声をかけた。

「フィン、昨夜もそう言ってたけど、エリスって?」

カイルはフィンにそう尋ねた。

「エリスはエリスだよ。ねえ、エリス。」

フィンはエリスに向かってそう呼びかける。

「私は……」

エリスという名前ではありません。普段ならそう続けていただろう。何故かその言葉を口にすることができなかった。

「エリス。うん、いいなそれ。」

カイルもエリスという名前が気に入ったようだ。

「カイル兄さん、しばらくここにいるって本当?」

「ああ、でも、誰に聞いたんだ?」

カイルもその話は朝聞いたばかりで、まだ村人達には知らせていないはずだった。

「さっき、アリシアに聞いたんだ。」

「ああ、アベル商会のお嬢さんか。」

カイルは納得した。レプリベラグの整備が必要だったが、このまま村を離れるわけにも行かない。そこで、カストリアに帰るというアベル商会の馬車に連絡員を便乗させてもらい、援軍を要請することにした。援軍が到着するまで村の防衛と森の監視が新しい任務となったのだ。

「あのカイル兄さん、昨日の事なんだけど……」

「……」

フィンに昨日の事と言われ、カイルも言葉が詰まった。分隊の仲間達にフィンの事をどう説明したらいいのかわからず、村に現れた角狼の事はフィンの事を伏せて報告していた。

「俺、ただ、皆を守りたかったんだ……ねえ、俺どうしたらいい?」

フィンはすがるようにカイルにそう尋ねていた。

「フィン……お前はよくやったよ。」

カイルはフィンの頭を撫でながらそう言った。カイルもどうするのがいいのか、何が正解なのかわからない。

けれど、自分たちを守ろうと戦ったこと、その想いに対してまず褒めてやるべきだろう。

「すまないな、フィン、俺にもよくわからないんだ。昨日のことで、お前には操縦士としての才能があることはわかった。」

フィンには適性がある。その秘めた才能は自分より高いのだろう。

「でもな、操縦士はとても危険なんだ。」

危険という言葉を口にしてカイル自身も気付く。言葉ではわかっていた。しかし、それを実感したのは昨日だった。

「カイル、昨日の事とはなんだ。」

リュークが声をかけてきた。

「リュークさん、それはその……」

カイルがフィンのことをどう説明したらいいか悩んでいると。

「俺がこれに乗って戦ったのは、俺が勝手にやったことで、カイル兄さんは関係ないんです。だからカイル兄さんを責めないでください。」

フィンは自分のせいでカイルが責められると思い、リュークに必死で訴えた。

「フィン、いいんだ。」

カイルは思わずフィンを制止した。

「カイル。」

リュークはカイルの言葉を待つようにそのまま黙ってカイルを見ている。

「リュークさん、黙っていてすみません。昨夜、この村で角狼と戦ったのは俺じゃないんです。」

カイルはリュークに昨夜起きたことを正直に話した。リュークはそれを最後まで黙ったまま聞いていた。

「そうか。」

リュークはその一言を発するとまた黙ってしまった。

「この話は、分隊長達にもするべきですよね。」

「それはお前自身で決めることだ。今ならまだ、俺の心のうちにしまっといてやる。」

リュークから思ってもいない答えが返ってきてカイルは驚いた。

「まずは、じっくり話してみろ。その時間くらい俺が作ってやる。」

リュークはそう言うと、天幕に向かって歩き始めた。

「フィン……大きくなったな。」

話をしよう。リュークに言われたからではない。五年前、自分が村を出た時は、まだ小さかった弟分の確かな成長を感じ取って、カイルはそう思った。

「フィン、久しぶりにあの場所、行かないか?」

「うん。そうだ、エリスも一緒に行こう。」

三人は、昔カイルがフィンやミアとよく一緒に遊んでいた場所に向かった。


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