プロローグ
黒雲が空を覆い、世界の終わりを示唆するかのように暗い影を落としている。
大地には無数の魔物たちが蠢き、牙を剥き、爪を研ぐ。
その咆哮は生きとし生けるものに恐怖を植え付ける。
魔物達の渦の中心にそれはいた。
ドス黒い邪悪な瘴気を纏い、巨大で醜悪な姿をしたそれは、無数の目を蠢かせ、何本もある触腕を震わせた。
邪神、人々はそれをそう呼び、その存在は世界の理を歪ませた。
「いよいよね。」
女神アステアは邪神を前にしても、いつもの調子で隣の英雄に声をかけた。
「そうだな、これで終わらせる。」
その返事を聞くと、女神アステアは手に持つ錫杖を天に掲げた。
「顕現せよ。」
その言葉に応えるように、女神の背後に巨大なシルエットが浮かび上がり、神の鎧、女神外装ディヴァグメントが姿を現した。
英雄は女神とともに光球となり、ディヴァグメントに吸い込まれていく。
光球はディヴァグメントの中で操縦席となり、操縦席に座った英雄が操縦桿を握り締めると、ディヴァグメントが起動を始める。
ディヴァグメントの水晶のような目に光がともる。
それに続き女神の眷属たる戦姫達も姫神外装ベラグメントを呼び出し、それぞれ騎士とともに光球となりベラグメントに乗り込んだ。
「行くぞ、アステア!」
ディヴァグメントの背中のハッチが開くと、まばゆい光の翼が現れた。
その瞬間、邪神の触腕が地を穿つと黒い雷撃が襲いかかる。
英雄が操縦桿に意志と共に魔力を込めると、ディヴァグメントが大剣を構える。
「終わりにしよう、この戦いを!」
光を纏った刃が黒い雷撃を両断した。そのまま英雄を乗せたディヴァグメントは空に舞い上がる。
ディヴァグメントの背後に無数の魔法陣が現れ、その魔法陣から放たれた光弾が魔物の群れを薙ぎ払う。
ベラグメントに乗った騎士達も魔物の群れに向かい走り始めた。
ディヴァグメントはその手に持つ大剣を振りかざし、空を飛ぶ魔物を薙ぎ払いながら邪神に迫って行く。
「愚か者め……」
重く冷たい邪神の声が響き渡る。その声に呼応するかのように魔物達も唸りを上げる。
邪神が触腕を振り上げ、ディヴァグメントを狙う。空を引き裂きながら触腕がディヴァグメントに迫る。
「食らうか!」
英雄の操縦により、ディヴァグメントは触腕を寸前で避け、その勢いで手に持つ大剣で触腕を切り裂いた。
「ここで終わらせるんだ。」
操縦桿を握る手に力が入る。眼下では、ベラグメントに乗り魔物と戦う騎士達の姿が見える。
志半ばで散った仲間たちの顔が浮かんできた。
「アステア、力を貸してくれ。」
「もちろんです。さあ、行きましょう。」
アステアも答える。今はディヴァグメントを制御するため、彫像のような姿となりディヴァグメントと一体となっている。
操縦桿を通して、英雄の意思が、思いがアステアの中にも流れ込んでくる。
光の翼がその輝きを増し、邪神との距離をつめる。
「無駄なことを……」
邪神がまるで羽虫を払うように触腕を振るい払った。
「何故だ、何故抗う……」
ディヴァグメントが触腕を躱し、邪神に肉薄する。
「この世界を守るためだ。俺は、いや、俺達は、希望なんだ。」
ディヴァグメントの手に握られた大剣のまとっている光が大きくなり、巨大な刀身を形作る。
そして、高々と振りかざした大剣を邪神に向けて振り下ろした。
「フフフ……ハーハッハッハ……」
邪神は幾重にも重ねた触腕で大剣を受け止めていた。
「無駄だと言ったはずだ……」
邪神は無数の目を大きく開くと、その目から黒い光線を放った。
光線は全方位に向けて放たれていた。それは敵味方関係なく遮るものを貫いた。
近くにいたディヴァグメントも避け切れず、左肩を撃ち抜かれた。
「クッ……」
アステアが苦悶の声を上げる。
「アステア、大丈夫か?」
今、アステアはディヴァグメントと一体となっている。
そのため、ディヴァグメントが受けたダメージは、そのままアステアのダメージとなる。
「大丈夫です。それより、集中してください。」
「ああ、そうだな。負けるわけにはいかないんだ。」
英雄達と邪神との戦いは苛烈を極めていった。
多くの犠牲を出しながらも、英雄は決して諦める事はなかった。
そして、英雄の一撃は、ついに邪神へととどいた。
邪神はこの世界から消え、世界は平和を取り戻す。
後に邪神大戦と呼ばれた戦いは幕を閉じた。
それから時は流れ、二千年が経った。
「エリス、今の状況を教えてくれ。」
少年は、エリスと呼ばれた少女に状況を尋ねる。
「フィン、地上に残っていた人達は、負傷した人はいますが、全員生きています。」
フィンと呼ばれた少年は全員生きていると聞いて胸を撫で下ろした。
「オルタリオンの状態はどう?」
エリスは確認して報告する。
「機体の状態は良好です。ただ、長い休眠状態にあったため、残存魔力量があまりありません。全力で稼働できるのは四半刻です。」
「それだけあれば十分だよ。」
エリスの報告を聞いてフィンはそう答える。
これは新たな英雄の始まりの物語。
ここで少し時を巻き戻そう。




