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第8話(最終話) 完成――建てなかった未来

雨季が過ぎた。

ベルナは崩れなかった。

奇跡ではない。

水を逃がし、荷重を分散し、無理をしなかっただけだ。

低地の家は移設され、そこに排水路と小さな広場ができた。

以前は沈む地面だった場所が、今は水を通す場所になった。

子どもが走る。靴が濡れても、沈まない。

領主は工事の報告書を見て言う。

「街を作ったというより……街を戻したのだな」

カイルは頷く。

「街は生き物です。太らせ過ぎると呼吸ができなくなる」

技術官が頭を下げる。

「……俺は“早く終わらせること”しか見ていなかった。

でも、終わらせても、街は続くんだな」

「続くから、壊しちゃいけない」

夕方、あの依頼主の男が近づいてきて、照れくさそうに言う。

「……ありがとう」

そして続ける。

「家はまだ建て替えない。今のまま直して使う。

建てるより、守る方が先だった」

娘が広場で笑う。母が見守る。

男の顔には、悔しさより安堵が勝っていた。

夜、カイルは現場小屋で図面を広げる。

次の依頼――倉庫増築。

村長が覗き込み、「今度は建てるのか」と聞く。

カイルは図面の余白に、まず線を引いた。

建てない場所の線だ。

「……まず、建てない理由から話そうか」

外では雨上がりの風が吹き、

排水路を水が静かに流れていった。

壊れない未来は派手に完成しない。

ただ、今日と明日が同じように続く形で、そこに残る。

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― 新着の感想 ―
とても美しく、誠実な最終話でした。 奇跡や英雄的勝利ではなく、「無理をしなかった結果」として街が残る結末が、この物語の思想を最後まで貫いています。「建てなかった未来」が子どもの笑い声や静かな水音として…
完成しない結末が、これほど美しいとは。 排水路を流れる水と、子どもが走る地面――それだけで十分だと思わせてくれる最終話でした。
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