第7話 選択――戻らない理由
翌朝、領主は工事停止を命じた。
技術官は怒鳴るが、調査官が淡々と止める。
領主はカイルに頭を下げた。
「任せる。ただし時間も金も無限ではない」
カイルは頷く。
「だから、建てない場所を決めます」
移設対象の家々が決まり、反発が起きる。
怒号、泣き声、「なぜ俺の家だけ」。
ここで説得を始めると、物語が“口先勝負”になる。
カイルは違うやり方を取る。
広場に木の板を置き、街の簡易模型を作った。
土の箱に水を流し、排水が塞がれたときに街の腹に水が戻る様子を、子どもにも見える形にする。
「これが、今の街です」
水が溜まり、模型の家がゆっくり傾く。
人々の顔色が変わる。
言葉より、現実が効く。
「この場所を空けて、ここに水の道を作る。
その代わり――移った家には、崩れない場所を用意する」
「誰が保証する!」
「保証しません。証拠を見せます」
カイルは地面に杭を打ち、沈みを毎日記録する方法を教える。
住民たちが自分の手で数字を見る。
数字が積み上がるほど、恐怖が“納得”へ変わる。
移設対象の家の娘が、袖を引く。
「うち、なくなるの?」
「なくならない。移るだけだ」
「どうして?」
カイルは少し考え、言う。
「君が大人になっても、ここで遊べるように」
娘は小さく頷く。
その頷きが、カイルの胸を締め付けた。
王都で守れなかった顔だ。
一方、技術官は移設案を見て、震える声で言う。
「……俺は、今まで“壊れないふり”を作ってたんだな」
カイルは責めずに言う。
「次は、現場を見てください。数字の前に」
調査官は王都へ戻る前、言う。
「追放は撤回される。名誉は回復する」
「要りません」
「戻らないのか」
「戻っても同じ分岐に立つだけです。
私はここで、建てない判断を続けたい」
調査官が笑う。
「厄介だ。だが必要だ」




