目瞑って
姉貴がリビングへ戻った後俺は少し落ちついてから戻った。
戻るとすでにみんな勉強を始めていた。
多分姉貴がどうにかしたのだろう。
まあ当たり前だ。なにせ自分で蒔いたタネなのだから。
姉貴はさっきと同じ様に秀人と那須野さんを教えていた。
先程からの俺に対する態度の謝罪のつもりなのだろうか。
それはいいとして千佳は少し困っている様子なので俺はすぐに千佳の横に駆け寄った。
千佳はその時数学の問題を解いていた。
集中していたので一旦声をかけるのは辞めておこう。
ていうか、集中している千佳の横顔はすごく綺麗だ。
俺が少し千佳に見惚れている時、横から全員に聞こえる様に声を出す者がいた。姉貴だ。
「私、秀人と陽菜ちゃんと話したい事あるから、千佳ちゃん達は凌平の部屋言ってもらってもいいかな?」
姉貴め何を言い出すかと思えば、とんだ爆弾を放り込んできやがった。
それに千佳も何も気にせず分かりました、と言って立ち上がった。
「凌平も早く」
千佳は俺を急かして手を掴み俺を立ち上がらせ、荷物を持ちリビングから出て行った。
俺の部屋どこかも知らないのに。
俺がリビングを出て行く時に姉貴に声をかけられ振り向くと、姉貴と秀人が親指を立ててこちらを見ていた。
だが那須野さんは少し緊張した様子だった。
無理もないだろう、初めて話した男子の家で仲のいい友達と離れてしまうのだから。
リビングを出た後、廊下で待っていた千佳を俺の部屋へと案内した。
部屋に入るとツクシが俺のベットの上でなー、と鳴いていた。
それを見た千佳はすぐにツクシに駆け寄り抱き抱えて頬を擦り付ける。
ツクシは人懐っこく千佳から離れるそぶりもなく、されるがままだ。
「凌平この子の名前は?」
少し満足したのか俺の方に振り返り聞いてきた。
「ツクシだけど」
すると千佳の目が輝きだした。
勢いよく近づいて来て、なんでと連呼する。
俺はそんな千佳を落ち着かせてから説明した。
ツクシは白猫でお米みたいだったが流石にコメと名付けるのはよくないと思い、うちで買っている米の名前をもじってつけたのだと説明した。
すると千佳はまたツクシに頬を当て始めた。忙しい人だ。
だがなんというか、猫と美少女の組み合わせは眼福である。
「そろそろ勉強しないか?」
声をかけると千佳はハッとした顔をして俺の方を向いた。
「てへっ」
俺はその時の千佳の顔を見れただけで今日の姉貴から受けた仕打ちを全て許す事にした。
まさか千佳はかわいいくて綺麗であざといのもいける様だ。
その後すぐに千佳は部屋の真ん中にある机に手に掛けていた荷物を広げ勉強に取り掛かった。
俺の部屋の机は地べたに座るかたちなので俺はクローゼットから座布団を出した。
それを千佳に渡し俺はいつも座っている座布団に座った。
勉強が始まると俺と千佳は集中して取り組めていた。
だが30分もすれば千佳の集中力が切れてきたのか、俺にちょっかいを出し始めた。
「ねね凌平これなんだと思う?」
そう言って千佳は俺に自分のノートを見せてきた。
そこに描かれていたのは、犬なのか?
俺は犬かと言うと千佳がこっち向いた。
「ブブー、正解はツクシでした」
この絵がツクシ?
俺が犬と見紛うほどのものがツクシだと言うのか。
絵を見た時にまさかとは思ったが千佳はとてつもなく絵が下手だった。
「間違えた悪い子には…」
千佳がそこで言葉をためた。
俺は少し緊張しつつも続く言葉を待つ。
「ツクシの猫パンチでーす」
そう言って千佳は隣にいたツクシを抱き抱えて、ツクシの前足で俺の頬にパンチした。
パンチと言っても優しく頬を肉球で押されただけだ。
俺からすればむしろご褒美だった。
ツクシの肉球は気持ちよく、千佳はかわいい。
一瞬ここは天国なのではないかと疑ってしまう程に幸せだ。
悔しいが姉貴に後で感謝を伝えよう。
千佳はそれから少しの間ツクシと遊んで勉強に戻った。
「凌平ここ分からないから教えて」
そう言って千佳は俺に問題集を見せた。
その問題は方程式の問題だ。
一学期の最後の方に習った内容で、その問題は応用問題だった。
俺は千佳に一つ一つ解き方を教えた。
すると千佳はみるみる問題が解ける様になっていった。
千佳は勉強ができないというよりも、解き方を理解できていないだけの様だった。
千佳が問題集の1ページを自力で終わらせると、こちらを向き俺の目をじっくり見た。
俺は見つめられて自分の顔が熱くなるのを感じた。
千佳は真剣だった顔が笑顔になり、こちらに顔を近づけた。
「ありがとう凌平、凌平のおかげで解けたよ」
そう言って彼女は何かに気付いたのか少し考えてから
「凌平ちょっと目瞑って」
彼女にそう言われて俺は目を閉じた。
俺はそこで先週の夢を思い出した。
「千佳!」
俺が千佳を止めるために声を出すと彼女は驚いていた。
だがそれもお構いなしに千佳は俺に近づく。
彼女が近づくたびに彼女の金木犀の香水の香りがする。
俺の頬に何かが触れた。
「よしもう目開けていいよ、って言うか急に大きな声出してどうしたの?」
千佳が不思議そうに聞いてきたが俺はそれどころではなかった。
俺の心臓の音はまだ大きく、顔も熱い。
その上キスされてしまうのかと思ったとは言えない。
実際のところは俺の頬についたツクシの毛を取ってくれただけだった。
だがツクシの毛を取るだけなら俺は目を瞑る必要あったのだろうか。
俺はそれを千佳に言えなかった。
もしよければブックマーク、評価、誤字報告、感想など是非お願いします!!




