最悪の日
テスト結果が返却された日の夜俺の熱はすでに下がっていた。
何故熱が出たのかは分からない。
たまたま体調を崩しただけなのか、それとも他に何か熱が出る様な事はあったのか?
何より熱が下がったのは良かったのだが、保健室での事を思い出すと胸が苦しくなる。
それともう一つ彼女は体調を崩していないだろうか。
しかしそれを確認する術は俺にはない。
今日初めて話したのだから連絡先も知らない。
それに明日は土曜日で学校もないので来週の月曜日まで彼女の体調を確認出来ない。
それによりいつも以上に彼女のことが小林千佳の事が気になってしまう。
彼女は俺が思っているよりも案外距離が近かった。
初対面で呼び捨てにするし、いきなり俺の手を掴んだり、わざわざ手でデコを触り体温を確認したり。
保健室では最初から最後までドキドキしていたのだが、気づかれてはいないだろうか。
もし気づかれていたら恥ずかしすぎる。
だが彼女の知らない一面を見られて嬉しい気持ちもある。
すごくモヤモヤして早く月曜日が来てほしい。
そう人生で初めて思った。
その日は何も手がつかずにご飯を食べるなりすぐに寝てしまった。
「凌平ちょっと目瞑って」
彼女にそう言われて俺は目を閉じた。
すると唇に柔らかい感触を感じた。
「千佳!」
俺の顔の上にはモコモコとした毛の塊がいた。
「なんだ、お前かよツクシ」
俺の顔の上にいたのはうちの猫のツクシだった。
俺は起きてすぐにツクシを撫でながら、なぜ彼女を呼び捨てであったのかを考えていた。
夢の中で唇に触れたものの事はなるべく考えない様にした。
それについて考えてしまうと次彼女に会うときにどんな顔をしていいか分からない。
だからその事はなるべく早く忘れて彼女を夢の中でとはいえ呼び捨てにした理由を考える。
単に夢だからとしてしまえばそれで済む話なのだが、まだ一度しか話した事のない人を呼び捨てにするなんてそんな人いるのか?
いや、いた俺が呼び捨てにした(夢の中で)小林千佳その人である。
彼女も俺の事を呼び捨てにしたのだからと言う理由で今は片付けておこう。
そういうことにして俺はツクシを連れて部屋を出た。
「おはよう凌平。もう体調はいいの?」
俺は母さんに対して挨拶を返して大丈夫だと伝えて洗面所へと向かった。
洗面所には俺より少しだけ背の高い女性、姉の小春がいた。
家だからといってすごくだらしない格好している。
そんな姉貴がこちらに手を向けつつ歯磨きを終わらせてから話し始めた。
「ちょっと凌平あんた大丈夫?お姉ちゃん心配したんだから」
俺はすぐに大丈夫だと返した。
すると姉貴はなら良かった、と言って洗面所を出て行った。
姉貴が出て行ってから俺は歯磨きをしながら考える。
そんなに心配される様な事でもないだろうに。
二人は俺が夕飯の時には熱が下がっていたのを知っているはずなのに。
そんな事を考えながら俺は歯を磨き顔を洗って朝食を取るためにリビングへと向かう。
俺はいつもの母さんの目の前で姉貴の隣の席についた。
父さんは今日は朝早くから仕事らしい。ご苦労様である。
俺が目玉焼きの乗った食パンを食べようとした時に不意に姉貴がこちらを向いた。
「凌平、千佳って誰?」
俺はそれを聞いた瞬間に口に入れようとしていた食パンを落としてしまった。
幸いにも皿の上に落ちたので良かった。
ではなぁぁい!!
なぜ姉貴が彼女の名前を。
「さっきあんた部屋からいきなり聞こえてきたのよ」
戸惑っている俺に対して姉貴が言った。
母さんは姉貴に少しは気を遣いなさいと諌めていたが今俺はそれどこれではない。
姉貴に俺の思いがバレるのだけはまずい。
父さんや母さんならまだしも姉貴はまずい。
俺の姉は外ではしっかりしているのだが、家では俺の事をイジり散らかす様な奴なのだ。
珍しく朝俺を心配したかと思えばイジる餌を見つけて嬉しがっていただけだったのか。
こんな餌を与えてしまっては、半年は続くだろう。
最悪だ。朝からあんな夢を見たかと思えば、姉貴にイジる餌をプレゼントしてしまって今日は最悪の日だ。




