よびすて
今日の6時間目は特別なのだ。
何故なら今から初めての定期テストの結果が返ってくるからだ。
「それじゃ、一人ずつ出席番号順に読んで行くから取りにこいよ」
担任の花崎がそう言って一人ずつ名前を呼び始めた。
そして俺の隣の秀人の名前が呼ばれた。
秀人は今までに見たことない程に緊張している様子で教卓の方へと歩いて行った。
秀人は結果の用紙を受け取るとすぐにこっちへ戻って来て俺にその用紙を見せた。
「どうよ凌平、56位だぜ。」
決して高い順位ではない。
俺たちの学年は153人いるので56位は真ん中よりは高くはあるがなんとも反応に困る順位なのだ。
もっと簡単に言うと面白みのない順位である。
俺が反応に困っていると俺の名前が呼ばれた。
「小南凌平」
そう呼ばれ俺は教卓の方へと向かう。
俺も秀人と同じで緊張している様だ。
一歩踏み出すごとに心臓の音が聞こえる。
だがこの緊張はテストの結果に対してではない。
何せ教卓の近くの席には彼女がいるのだから。
彼女に近づくにつれて心臓の音は大きく速くなる。
そして俺は彼女の隣にいた。
「小南お前勉強できるんだな。いつも授業真面目に受けてないのにな」
やめてくれ彼女の前でそんなこと言わないでくれよ。
これだと俺が授業を真面目に受けない奴と言うレッテルをはられてしまうだろ。
「凌平見せて」
「えっ?」
俺の手を掴んで彼女がそう言った。
「小林千佳」
「はい」
彼女が立ってテストの結果を受け取った。
俺の手を掴んだまま。
俺の視界は闇に包まれた。
「あれ、ここは…」
何が起きたのか分からない。
知らない天井。知らない布団。知らないベット。
辺りを見渡すと横には聖女?
いや違う。小林千佳。俺があの入学式の日から毎日見ていた彼女だ。
「よかった。目が覚めたみたいで。」
何故彼女が横にいる?
何故俺はベットにいる?
それにここは…
「保健室?」
色々の疑問がある中で理解できたのはそれだけだった。
俺の小さく弱い声に彼女はそうだよ、と言った。
俺は少し考えたが何があったのかを思い出せない。
彼女がテストの結果を受け取ったところまでしか分からない。
あの後何があって俺は保健室にいるのか分からない。
そんな風に考えていると彼女が俺の方へと手を伸ばし額に触れた。
「やっぱり熱があるね。少し待ってて授業が終わる頃に花崎先生来るから」
熱?俺はあまり体調を崩さないのに。
それよりも彼女にうつしてはいけない。
そう思い教室に戻った方がいいと伝えると彼女は
「大丈夫。私保健委員だから」
どう言うことだろう。
全く予想していなかった返事をされ俺の頭はまた混乱の中へ誘われた。
俺の不思議そうにした顔を見て彼女は慌てる様子もなく言葉を続けた。
「私保健委員だから」
「どういうこと」
出すつもりもない言葉が漏れてしまった。
さっきの言葉は本心だが言うつもりはなかった。
というよりは聞きたくても緊張して言葉に出来ないと思っていた。
でも熱の影響だろうか普段より緊張していない?
彼女は少し考えてから口を開いた。
「保健委員だから先生に頼まれて、今日保健室の先生いないらしくて」
彼女は、俺の教室へ戻る様に促した言葉の意味を勘違いしているらしい。
これは俺の言葉が足りなかったのもあるだろうが彼女にも問題はあったと思う。
「そういう意味で言ったんじゃなくて、風邪うつすと悪いから」
すると彼女はハッとしていたがすぐに笑顔になり俺の目を真っ直ぐに見て言う。
「病人は他人の心配をせず自分の心配をしなさい」
なぜだろうか彼女の言葉に反論できる気がしない。
彼女に言いくるめられている訳ではない。
なぜだか言葉が思いつかない。
思いついたとしてもその言葉は発せれないだろう。
それから俺達は話さなかった。
授業の終わりのチャイムが鳴る。
それを聞いた彼女は座っていた椅子から立ち上がってカーテンをめくった。
もう少しでいいから彼女といたかった。
名残惜しむ気持ちがあるのは事実だが、それよりもやはり彼女に風邪をうつしていないか心配だ。
そんな事を思っていると彼女が振り返りこちらを向いた。
「またね凌平」
俺の視界はまた真っ暗になってしまった。




