後遺症~君から目を離せなくなったんだ~
僕は、高校二年の男子学生だ いつもの通りうだつの上がらない顔で目覚めると、洗面所に映る僕は、垢抜けない男だ
「今日も、クマがひどいな」と指で線をなぞる
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キーンコーンカーンコーンとなるがいつもよりざわざわしている
どうやら転校生が来るらしい
「めっちゃイケメンだったぞ」とお茶らけたクラスメイトが走って入ってくる
黒板に、櫻木薫と書く男は、美少年でハーフのようだ太陽に当てられた小麦畑のような綺麗さだった でも、僕には関係ないことだ 陰キャの僕には到底かかわらない人種だろうと本を窓側の席で読む
「櫻木薫です。アメリカ人と日本人のハーフです」と口から洩れる声でさえ天使のようだった
そんな真反対の僕たちが、まさかキスすることになるなんて……。思いもしなかった
六月の梅雨の頃、僕は転校生とかかわることなく過ごしていた
不思議なことではない
だって住む世界が違うのだから……
放課後に、僕はいつも通り図書室に行こうと、廊下を進む。
人が少ない階段の踊り場で彼に話しかけられる
「その、本好きなのか? 」と急に話しかけられたのでそっけなく返事をする
「あぁ。」と、
「俺も、読むんだそれ」と指をさしてくる
純文学の作品で有名な作者だった。エンタメ系の本しか読まなさそうな彼が
口を紡ぐ
「君さ、僕のこと苦手でしょ」と突然、気まずいことを聞いてくるので何も答えないでいると
「こういう時は黙ったら肯定していることになるよ」と苦笑いをしながらポリポリと顔を掻いている
「ごめんね。でも、俺はどうやら君の事を好きになってしまったらしい」
「なんで……? 」
「君が静かに本を読む、その横顔が気になって、そうしたらどんどん好きになったんだ」
帰国子女の彼には、自然なことなのだろうか 男が男に告白することが……。
「冗談にしてもどう、答えたらいいかわからないよ」と返すと
「君は男の人と付き合うのは無理? 」と言いながら気まずそうにしている
「僕は、人を、どう好きになるとかわからない。君だから無理っていうことじゃないよ……」と一生懸命言葉を選んで発すると、
「そうか、じゃあ、俺にもチャンスがあるね」と、どうやったらそうなるんだと思っていると髪を急に
たくし上げられておでこにキスをされた。
「な、な、なんで……」と声を荒げると
「……君に覚えててほしいから、俺の事を」
それだけいうと、そのままどこかに行ってしまった彼を、うつろな目で追うと
顔が温度を持っていることに気づく
まさか、あんなことをするなんて……どうやって明日からにどういう顔でいればいいのだろう
次の日から、彼は積極的にかかわってくることもなくただ、僕が一人でいると現れる
「少しは、意識してくれた? 」とからかうように笑う
それから、後遺症かのように、彼を目で追ってしまうようになった
君と出会ったことで僕は、君から目を離せなくなったんだ
*
*
*
*薫の思い*
俺は、彩人のおでこにキスをしたあの日の踊り場を、今でもよく思い出す。
海外にいたとき、俺はちゃんと異性を好きになってきた。
男を好きになったのは、あいつが初めてだった。
まさか、男を好きになるなんて思ってもいなかった
でも、そんなのが気にならないくらい家に帰って、ベッドに寝転んで、彩人の事を思い出すくらい、俺には大きかったからだ
周りに溶け込む俺が、唯一俺だけのことを見てほしいと純粋に思えたそんな
彩人だったから……。
いつもの親の都合での転勤にうんざりしながら、転校先では無難に浮かないようにみんなと仲良くできるようになった
それは、空気のようになじんで去るころにはみんな忘れる
その証拠に連絡を取り合うような友人はいなかった
どうせ今回も、詰まらない学校生活になるだろうと思っていた。君に出会うまでは。
一目惚れだった。
窓際でカーテンに揺られながら、周りには興味がないような目。
だけど、本には愛情を注いでいるような瞳だった。
気づいたら、目で追っていた。
眼鏡に隠れた、動じないその表情に
俺は、それを動かしてみたいと思ったんだ。
あいつは、目立つのが嫌いそうだったから、
いつも一人でいるときを狙って会いに行った。
最近は、目が合うことも増えてきた
だから……少しは意識してもらってるって、目が合うと、少し恥ずかしそうに眼をそらすから、うるぼれてもいいよな……。
文化祭そこで僕たちは、初めてのキスをすることになる
僕のクラスの出し物は、高校生らしいお化け屋敷だった
そこで、僕はお化け役やったのだけれど、どうやら才能があったみたいで。
普段話さないような陽キャたちに話しかけられるくらいに褒められた
僕はみんながいなくなったクラスで、一人で静かに残る
暇だから、少しかたづけもやった
そうしていると、彼がやってきた
文化祭で女子が来ると浮かれている中、僕はそんなものかと考える
みんなは、どうやら女の子たちを覗きに行ったみたいだ
「君はいかなくていいの? 」と言われたとき
「名前……」というとクスッとわらって
「そうだな名前があるもんな彩人」
名前を呼ばれただけで、むずかゆくて、でも認識してもらえるみたいで嬉しかったのだ
「彩人、そんな顔をするなよ……我慢できなくなるだろう」とキスをしてきた
その温かく、息を感じるほどの近さと、優しく頭を抱えてくれる薫が嫌じゃなかった
むしろもっとしてほしいと居心地の良さを感じた。
辞めないでと思うくらいに……
僕が笑いかけると、薫も笑ってくれた
あぁ、これが両想いのキスなんだと、そう思えたんだ
文化祭から数週間、僕の毎日は少しづつ、変わっていった
それから僕たちは、教室でもいることが増えた
「意外な組み合わせだけど、なんかいいな」という朔に救われた
いつもうるさいくらい明るい人だけど、今は、その明るさに救われた
最初は、意外な組み合わせと言われていたが二週間もすれば、みんな慣れていったようだった。
それが、ずっと前から二人だったのではないかと思えるくらいに……
自然な光景になっていった
僕らはよく、図書室に行く。二人で同じ好きな作者の事を、ああでもないこうでもない話すときが好きだ
新しい本が出るたびに話す僕らは、声がたまに大きくなって注意を受けるくらいだ
僕にこんな毎日が訪れるとは思ってもいなった
僕は、暑い日のコンクリートのように焼けそうな気持になる
そんな思いが届けばいいと彼を見つめる
この思いは、薫のせいだ……
初めての、BL作品です。難しかった
ちゃんとBLになっているか不安ですが書いてて楽しかったです