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8. 最強の禁軍

"夢幻郷の地下、幽域へと続く扉は、既に開かれていた。


魅魔たちは、おずおずと傍らに立ち、涙を拭いながら、自分たちの悲劇的な運命を嘆いていた。


魅魔たちにとって、思いもよらないことだった。


ラインハルト皇子が連れてきた禁軍が、まさか、あの伝説のシア・コンスタンスだとは!


ハイン帝国の歴史において、


通常、禁軍の戦闘力ランキングは、血統の純度によって、大雑把に分けられる。


ハイン帝国で生産される半神の禁軍は、その内に宿す神性が、主神「秩序」を主なものとしている。


同じ神性、同じ教育を受けた、ハイン帝国の量産型半神は、血統の純度だけで、その高低を大体判断できる。


しかし、シア・コンスタンスは、全くの例外だった。


彼女は、ハイン帝国が始まって以来千年近い歴史の中で、唯一、祝福を受けていない野生の半神から、正規の禁軍になった人物だ。


しかも、彼女は今や、歴代最強の禁軍が就く「帝都の守護」という要職に就いている。


その全てが、彼女を極めて特別な存在にしていた。


それに、多くの半神とは異なり、シア・コンスタンスには、これといった趣味もなく、金銭や権力への興味は、ほぼ皆無に等しい。


就任以来、彼女はほとんど一日中、聖堂で祈りを捧げ、質素な生活を送っているという。


帝都内部の関係者からの情報によれば、血統の純度の問題から、シア・コンスタンスの戦闘力は、明らかに他の六人の姉妹たちより劣るらしい。しかし、一般市民の間では、そのような噂は、ほとんど信じられていない。


最も弱い禁軍が、女皇の傍に留まり、ハイン帝国の命脈を守る盾となれるはずがない。


誰もが、固く信じている。


この禁軍には、きっと何か、とてつもない秘密が隠されているに違いない、と。


おそらく、この禁軍こそ、ハイン帝国が隠し持つ、最強の切り札なのだ、と。


だからこそ、


コンスタンスの存在は、魅魔たちを更なる恐怖へと陥れた。


夢幻郷は、30年もの間、違法営業を続けてきた。


そして、禁軍は魅魔たちの保護者を装い、彼女たちを財布代わりにして、金が不足するたびに、ゆすりたかりに来ていたのだ。


しかし、コンスタンスは、そのような悪事には全く興味を示さない。


これまでの間、魅魔たちはただの一度たりとも、この謎めいた帝国の盾が、夢幻郷を訪れるのを見たことがなかった。


それが、今、


彼女が、来てしまった。


元々、魅魔たちは、夢幻郷が粛清され、欲深い禁軍が、皇室と組んで、自分たちが貯め込んだ富を奪いに来たとばかり思っていた。


だが、今……


シア・コンスタンスの出現は、魅魔たちに、更におぞましい推測をさせることになった。


ラインハルト皇子は、シア・コンスタンスを連れてきた……まさか、直接幽域に攻め入り、古竜姫を暗殺するつもりなのか!?


もちろん、そんなことはない。


ラインハルトは、怯えきっている魅魔たちを見て、彼女たちが何を考えているのか、お見通しだった。


だが、それはありえない。


神々の討伐は、戦役の終盤のシナリオだ。


今のラインハルトは、ただ古竜姫と条件について話したいだけなのだ。


これは、ラインハルトが選んだ、全く新しい戦法だ。


千回もの転生を経験したラインハルトは、自分とコンスタンスの力の限界を痛感していた。世界の全てを知り尽くしていたとしても、結局、ラインハルトは裏切りの結末を避けることはできなかったのだ。


だから今回、ラインハルトは利用できる全ての資源を利用することにした。


彼と千回もの世界で愛憎劇を繰り広げた、六人の禁軍たちを含めて。


禁軍を操り、彼女たちをラインハルトに心酔させる方法なら、


ラインハルトには心当たりがある。


星の規模、そして歴史の深さ。この古き世界には、無限の可能性が秘められているのだ。


これらの半神たちでさえ、その長き記憶の中には、数十種類もの方法で、ラインハルトの忠実な犬にできる方法がある。


しかし、残念ながら、


全ての方法を検討した結果、ラインハルトは、これらの方法が、終盤にならないと使えないか、莫大な資源を投入し、極めて大きなリスクを冒さなければならないことを、無念にも悟った。


もし以前のラインハルトなら、喜んで命を賭して無茶をしただろう。


だが、今、


ラインハルトに残された命は、たった一つ。もう、無茶はできない。


ラインハルトは、再びプライドを捨て、かつての宿敵と協力するしかなかった。


幽域の邪神、古竜の姫、世界で最も古き二つの造物が共に認める至高の存在――オリヴィア。


彼女との協力こそ、ラインハルトが選んだ最善の策なのだ。


家の隣にある夢幻郷の地下の、幽域への通路を通れば、ラインハルトは容易くオリヴィアと連絡を取ることができ、そして、彼女と契約を結ぶことができる。


もしオリヴィアの支持を得ることができれば、ラインハルトは禁軍を征服するという目標を達成できるだけでなく、最初から神を味方につけることができるのだ。


これこそ、まさに最高のスタートダッシュだ。


今のラインハルトは、少々不安な気持ちだった。


なにせ、邪神と手を組むなどという暴挙、これまで一度も試したことがないのだから。


禁軍への対処と同じように、ラインハルトの神々に対する態度は、常に徹底的なものだった。


邪神たちと穏やかに話をすること自体、ラインハルトにとっては、全く馴染みのないことだった。


だが、


ラインハルトは、この交渉には、勝算があると踏んでいた。


なにしろ、あの古竜姫は、世界で唯一無二の肩書きに加えて、もう一つ、有名な称号を持っていたのだから。


彼女こそ、幽域で最も名高い、No.1のカモなのだ!


その時、幽域の扉の向こうから、声が聞こえてきた。


「ラインハルト・ハイン」


この声は、先ほど幽域の扉の向こう側で伝言を伝えた、悪魔の従者のものだ。


「姫様は、お前の願いを聞き届けられた」


「今こそ、色欲の竜の御姿を拝むがよい」


その言葉が終わると同時に、漆黒の濃霧に閉ざされていた幽域の扉が、勢いよく開かれた。


ラインハルトは深呼吸をし、覚悟を決め、来るべき衝撃に備えた。


次の瞬間、鳥がさえずり花が咲き乱れる、色鮮やかな庭園が、扉の向こう側に広がっていた。


茨と花で編まれた玉座の上には、


古竜姫が、優雅かつ厳かに、腰を下ろしていた。


目の前にいるオリヴィアは、竜の角と縦長の瞳を持つ、愛らしい竜の少女にすぎない。


しかし、その華奢で美しい身体の外側には、世界を引き裂くほどの恐るべき巨竜の、雄大な影が映し出されていた。


山のようなプレッシャーが、ラインハルトを押し潰さんばかりだった。


これまで何度となく彼女たちと戦ってきたとはいえ、ラインハルトは邪神たちを見るたびに、恐怖のあまり、今すぐにでも自分の目を抉り出したくなるのだった。


傍にいるコンスタンスでさえ、眉をひそめ、体内の神血が、恐怖ゆえか、それとも敵意ゆえか、今にも沸騰しそうだった。


それは、彼女には到底かなわない、無上の存在。


なぜなら、それこそが、世界の頂点に君臨する究極――


邪神と化した古竜なのだから。


そして、今、


扉の内側にいる幽域の至高の存在もまた、ラインハルトと同じくらい、激しく心を揺さぶられていた。


オリヴィアは、扉の外にいる二人、特にあの白髪の半神の少女を、まじまじと見つめた後、


古竜姫は、感動のあまり、涙が出そうになった。


信じられない……


竜姫は、自分の目を疑った。


外にいるのは、本物の禁軍……


今度のラインハルト・ハインは、本物だ!!"


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