表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

2.シア・コンスタンス

"シア・コンスタンス。


それは帝国に七人いる皇家禁軍の一人で、かつてラインハルトが最も信頼を置いていた禁軍でもある。


 メイドはラインハルトの命令を受け、聖堂へと向かった。


 あとは、ひたすら待つのみ。


 ハイン帝国のしきたりでは。


 禁軍は皇帝の呼び出しにのみ応じる。


 彼女たちは極めて高い独立性を持ち、皇子であろうと禁軍に会うためには、彼女たちのその時の気分次第というわけだ。


 コンスタンスの性格からすれば、ラインハルトの誘いを断ることはないだろう。


 もっとも、それは彼女の仕事が一段落してから、ということになるが。


 彼女を待つ間、


 ラインハルトは今世での戦い方について、じっくり考えることができる。


 システムが機能を停止した今、ラインハルトにはもうやり直しの機会はない。


 目の前にあるのは、最後のチャンスだ。


 千回もの転生を経て、ラインハルトは未来で出会うであろう敵、困難、その全てに対処するための周到な策をすでに持っている。


 しかし、ラインハルトがいまだ攻略できていないのが、他ならぬ七人の禁軍だった。


 禁軍はハイン帝国の礎であり、この地上で最も強大な個である。


 この時代、


 ごく一部の例外的な遠古の神話種を除けば、半神を戦場で止められるのは、同じ半神だけだ。


 神の血脈は、この地上で絶えることなく、ハイン帝国以外の国でも、幸運なことに半神を一人か二人、抱えていることもある。


 だが、それらの野生の半神の質は、ハイン帝国で正規に繁殖、訓練された半神とは比べるべくもない。


 ゆえに、ハイン帝国は揺るぎない絶対的な軍事優位を築き上げてきた。


 しかし、無敵の戦闘マシーンにも欠点はある。


 国教である聖堂のアセンション儀式があまりにも成功しすぎたため、半神の血の純度は世代を重ねるごとに高まり、今では女神の成分が90%を超える、とんでもない化け物まで現れている。


 高純度の血統は、より強大な戦闘力をもたらすが、同時にある問題を引き起こす。


 それは、アイデンティティの問題だ。


 禁軍たちは、もはや自分たちを人間だとは見なしていない。


 これは主観的な考えではなく、高次元の生物が血脈に刻み込んだ、蟻に対する蔑視に等しい。


 彼女たちは自分を人間だと思っていないから、人間の道徳に縛られることもない。


 ラインハルトの研究によれば、彼女たちの認識では、自分たちと人間の関係は、プレイヤーとNPCの関係に似ている。


 彼女たちは人間と仲良く付き合うことはできるが、その本性から人間を同類と見なすことはない。


 これが半神の禁軍たちが、打算的で、世を儚む根本的な原因だ。


 この半神をうまく使いこなせれば、ラインハルトは容易に大陸を平定し、統一を成し遂げられるだろう。


 だが逆に、もししくじれば、この裏切り者たちは、ラインハルトを背後から葬り去るための無数の手段を持っている。


 たしか……二百回目の転生あたりからだったか。


 ラインハルトは、この禁軍たちに一切の幻想を抱かなくなった。


 ラインハルトは毎回、転生するたびに、この半神の禁軍たちを容赦なく排除し続け、最後の一人になるまで殺し尽くした。


 全ての半神禁軍は、聖堂で厳密な血統評価を受け、最適な組み合わせが選ばれ、様々な儀式と神々の祝福を受けて誕生する、公式認定の産物だ。


 だが、シア・コンスタンスだけは違う。


 彼女の母親は、帝国辺境の小さな町にいた娼婦で、父親は帝国がいまだに特定できていない、謎の半神だ。


 そのため、彼女の血統の純度は低く、せいぜい50%を超えることはない。


 血統の劣勢は、コンスタンスがチートを使わない場合、禁軍の中で最下位の戦闘力しか持たないという欠点をもたらす。


 だが、その代わり……


 この娘は人間味があり、愛憎がはっきりしている。


 ラインハルトは第一の世を振り返る。あの頃、彼は世の厳しさを知らず、多くの愚かなことをし、多くの時間を無駄にした。


 十九年という貴重な時間を、当時の世間知らずの阿呆は、何の意味もなく酒と女に浪費した。


 しかし、


 第一の世の自分は、一つだけ正しいことをした。


 それは、あの冬の日に、あの辺境の小さな町を通りかかり、あの暗い地下室から、シア・コンスタンスを連れ出したことだ。


 コンスタンスさえいれば、たとえ他の六人の禁軍を全て殺したとしても、ラインハルトにはまだ勝機がある。


 999回目の転生の時には、ラインハルトは世界をほぼクリアし、最後の儀式を完了させるまであと一歩というところまで来ていた。


 しかし……


 その最後の一歩を踏み出す直前、


 ラインハルトはコンスタンスに裏切られた。


 胸を貫かれた痛みはまだ消えず、ラインハルトの脳裏には、涙ながらに謝りながらも、しっかりと彼の心臓を貫いた少女の姿が、今も鮮明に焼き付いている。


 シア・コンスタンス……。


 ラインハルトは、小さくその名を呟いた。


 その時、感情のこもっていない、静かな声が、ふいに響いた。


 「殿下?」


 顔を上げると、美しい白髪の半神がそこにいた。


 息を呑むほどの美貌、しかし、表情というものが抜け落ちている。彼女はまるで精巧な人形のように、静かにラインハルトを見つめている。


 神々の末裔である眼前の白髪の女は、通常の意味での美女ではなく、「美」という抽象概念の、まさにそのものだった。


 彼女は質素で薄手の白いシュミーズを着て、その上にエルフ細工の透かし彫りの銀の鎧を羽織り、アイスブルーの瞳の前には、竜晶の眼鏡をかけている——もちろん半神である彼女に近視などあるはずもないが、あの眼鏡には別の使い道があるのだ。


 シア・コンスタンス。


 彼女はラインハルトの前に、姿勢を正して立っていた。声に抑揚はない。「殿下、私をお呼びですか?」


 ラインハルト:「ずいぶんと早いな。祈りは終わったのか?」


 コンスタンス:「いいえ、ですがヘラが戻りましたので、交代です。」


 ラインハルトは頷く。


 ラインハルトはコンスタンスを見つめたまま、しばらく言葉を発しなかった。


 やがて、彼は低い声で言った。


 「コンスタンス、今朝、俺は夢を見た」


 コンスタンス:「そうですか」


 ラインハルト:「ああ、とても長い夢だった。一万年ほども続く、長い夢だ。夢の中では、俺の周りは敵ばかりだった。頼れるのはお前だけ。お前は俺の傍にいて、共に勝利に向かい、共に死んでいった。そして、数えきれないほどの死と苦しみを経て、俺たちはついに物語の終わりに辿り着いた」


 ラインハルトは笑みを浮かべ、コンスタンスを愛おしげに見つめた。「世界の頂点に立ち、あと一歩で、物語に完璧な終止符を打てる——その時、何が起きたと思う?」


 コンスタンスの表情が、わずかに変化したように見えた。だが彼女は何も言わず、ただ事実を述べた。「わかりません、殿下。教えてください」


 ラインハルトの顔色が、突然、曇った。「その時、お前は俺を殺した!」


 コンスタンス:「……」


 ラインハルトは歯を食いしばって言った。「君は『陛下、愛しています』と言いながら、俺の心臓を抉り取るようにナイフを捻じ込んだ——この狂った小娘め!」


 コンスタンス:「……」


 いきなり罵倒されたにもかかわらず、コンスタンスは怒った様子を見せない。


 彼女はただ、淡々と慰めるように言った。「殿下、それはただの夢です。本気になさらないでください」


 「そうだな、夢だと思うしかない……」


 ラインハルトは肩を竦めた。「過ぎたことは仕方ない。大切なのは、これからどうするか、だろ?」


 コンスタンス:「はい、殿下」


 ラインハルト:「ならば……」


 ラインハルトはコンスタンスを見つめ、様々な思いが、脳内を駆け巡る。そして、いくつかの葛藤と決断を経て、ついに……ラインハルトは決意を固めた。


 ラインハルト:「コンスタンス、もしよければ、俺と一緒に街へ出ないか?」


 コンスタンス:「喜んで。どちらへ行かれるのですか?」


 ラインハルトは笑みを浮かべた。「俺たちは、世界を変え、全ての人々を幸せにするための、とてつもなく素晴らしいことを成し遂げようとしている。そして今、その第一歩を踏み出す」


 ラインハルト:「ついて来い、コンスタンス」


 ラインハルトは決意を込めた眼差しで、皇宮の正門へと向かった。「娼館に行こう!」


 コンスタンス:「……?」


 コンスタンスはしばし沈黙を挟み、諦めたようにラインハルトの後を追った。"


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
行間を旅して、違う世界に出会う
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ