8.⭐︎
ぎゅうと力を込められた感触に、リリアナは紫の瞳をそっと震わせた瞬間。
「ん……っ、ちょっ、朝から……っ」
「もう昼だけど」
「そう言う問題じゃ……っ」
「我慢して昼まで寝かせてやっただろ」
「お前の精神力どこいった!?」
抱かれたままに頬や首元に降り注いでくるキスと甘噛みの嵐に、リリアナは悪態を吐く以外に手立てがない。
「お前の体力に合わせてたら壊れる!!」
「俺がリリアナを壊すわけないだろ、人聞きの悪い」
「そのどことない余裕面をどうにかしろ……っ!!」
なんかムカつく!! と目を吊り上げるリリアナに、ライトは笑う。
すりっと猫みたいに、頭を擦り付けて甘えてくるライトにリリアナの顔が赤く歪む。
時折り甘える仕草を混ぜてくるライトに、リリアナが弱いのをしっかりと把握されていた。
「ってかリリアナって何歳?」
「……え? ……身体は18……だと思うけど、私の方が年上なのは確か……だな」
微妙に言いにくそうにモゴモゴとするリリアナを見て、ライトはふっと笑う。
「ふーん。年下の姉さん女房?」
「にょ……っ!?」
はぁっ!? と目を剥いて顔を赤くするリリアナに、ライトは笑う。
「ちょうど良くていいじゃん」
「何がいいんだよ!!」
ライトの優しいけれど強い腕に抵抗と言う抵抗もできず、抱きすくめられて翻弄されながらリリアナは唇を噛む。
期待するな、期待するな、期待するな。相手は貴族。期待するなと、自分に念じるだけで、リリアナは精一杯だった。
「……他ごと考える余裕があるようで」
「えっ!?」
結構まじに死ぬかと思った。と、リリアナは9年の歳月の恐ろしさを後に語る。
「……ライト、このお嬢さんは……?」
「嫁予定」
「「は?」」
南国の豪遊を終えて連れられた先のルーウェン家にて、長男であるアランとリリアナの間抜けた声が重なった。
「ラ、ライ……っ!?」
「魔力もち。口と態度は悪いけど18歳。9年も手こずらされたじゃじゃ馬」
「………………」
かなり驚いた顔をしながらも、アランがライトとリリアナの様子をじっと伺っている気配が伝わってくる。
「俺から手放すつもりは、ない」
真っ直ぐに言い放つライトに、あわあわと真っ青な顔で言葉が継げないリリアナは、繋いだ右手に込められた力に嬉しくも困り果てた。
「…………まぁ、さすがに次期当主とは言え僕の一存では決められないから、《《協力》》して欲しいのなら僕にちゃんとお嬢さんを紹介して」
「おう」
ライトが少しほっとした気配を敏感に感じとったリリアナは、その顔を伺い見るとひとまずぺこりとその頭を下げる。
「女っ気が全くなかったライトが、適齢期ギリギリにようやく連れて来た女の子だし、悪いようにはしないから安心して」
「あ、あの、はい……っ、申し訳ありません……っ」
何と言えばいいのかわからない様子で困り果てた様子のリリアナと、そんなリリアナをひどく優しく見つめる自由人を眺めて、アランはやれやれと肩をすくめた。
「おい、あれはなんだ!?」
「…………本心?」
「いや、そうじゃなくて……っ!!」
小高い丘の晴天の下、真っ赤な顔で騒ぐリリアナにライトは苦笑する。
「俺には爵位もないし、貴族社会に片足突っ込むのもめんどいかも知れないけど、悪態つきながらでいいからそばにいてくれないかな」
「言い方……っ!!」
ははっと笑うライトに、リリアナは泣きそうな顔で口ごもる。
「……右手は、私がぜったいに治すから……っ」
「……じゃじゃ馬」
革手袋をつけた右手にその柔らかな頬がすりと擦り付けられる。
紫の大きな瞳が強気に睨みつけてくるのを見て取ると、ライトは笑って唇を寄せた。
「俺の生活にリリアナの声が聞こえないとか、もう想像できないわ」
愛してるとそっと続けられた言葉に、紫の瞳から涙が溢れた。
【完】




