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とある作家の血迷い事

作者: 碧カミライ

迷走中の作者×深夜テンションのネタ



=得体のしれない何か

「よお、掛無(かけない)。急に呼び出すだなんてお前らしくないじゃないか」


 とあるコーヒー店の昼下がり、ランチを食べに来たであろうマダムや子連れがぼちぼち帰り始めるころ、とある男が入店してきた。


名前は越智梨(おちなし)19歳の大学二年生だそうだ。


「ちょっと意見を聞きたくてな……」


その男を呼び出したらしい友人の名前は掛無。同じく19歳の大学二年生だそうだ。


そしてそんな二人のやり取りを実況してる一般アルバイターが井内(いない)こと俺だ。


「俺に意見? 俺がアドバイスできるのは生のカキを食うべきかどうかぐらいだぜ?」

どう考えても見当違いなことを言う越智。

「専門家でもないお前の見解なんぞ誰が聞きたい」

「あいつは悪魔の食材だ。言ってしまえばメンヘラ女みたいなもんだ。当たった時のやばさと言ったらもう……」

そう言って一人馬鹿みたいに震える越智。それが分かるってことは両方とも経験……おっと、これ以上はやめておこう。


「あんな悲惨な姿を見せられたらもう食べる気なんか起きねえよ。それより、早速本題で悪いがちょっとこれを見てくれ」

そう言って掛無は自身のスマホの画面を見せた。ここからでは何を見せているのかは確認できない。

「……?これは小説の原稿か?」

「まだ投稿してないんだがな。いったん読んでもらいたくて」

なるほど、どうやら見せたいものは推敲段階の原稿で投稿前に友人に読んでもらいたい……というわけか。


「なるほど。それで投稿歴10年のベテランの俺に見てもらいたい……というわけか」

おっ、どうやら越智くんはかなりのベテランライターのようだ。それなら確かに何か意見をもらいたくなるね。

「おいおい、何先輩ぶってんだよ。まだ累計で30ポイントももらえてないくせに」

おや、だがなかなか評価をもらえていないよだ。


……ってちょっと待って。

「お客様、お客様。今、累計って言われました?」

すぐさま確認に向かう俺。するとお客様はあまりに突然のことで戸惑いながら(そりゃそうだ)

「言いましたが……どうかしましたか?」

お客様は俺に不審な目を向ける。そのまなざしで我に返る。

「いえ、すみません。……その、色々あって『累計』って言葉に敏感になってしまっているんです。申し訳ございません」

「はぁ……」

何とも気の抜けた返事をしている間に距離を置く。危ない危ない。危うく口コミに変なことを書かれることになりかけたよ……


って、それよりあの人やっぱり『累計』って言ってたよね。


……掛無くん。アドバイス聞くのその人で大丈夫?


いや、あれか?もしかしたらマイナージャンルで投稿してたり投稿頻度が少ないからか?

「おいおいそれは仕方ないんだって」

あーやっぱ何か事情があるんだ。そりゃ……

「何が仕方ないんだ。この前だって『今の流行りは転生だ!』とか言って20個くらい新作出したくせにブックマークついたのすら一個じゃねえか」

それはそれで凄いよ。もはや。

「うるせえ、あれは俺の作風にあってなかったんだ!……って、そんなことはどうでもええ。あんたは俺に意見を聞きたい。ってことは少なくとも俺の方が上って思ってるんだろ!」

たしかにそれもそうか。


……でも、心配だなぁ。その人に読んでもらうならまだ一般人に読んでもらった方がもはや良い気がするけど……



~~~~~~~~~~



「なるほどな……」

数十分後、そういいながらスマホを返し、腕を組みながら固まった。その表情は芳しくない。

「……先に結論を言うが、おもんない」

「やっぱりそうですか……」

ありゃりゃそれは残念。でも、投稿する前でよかったじゃん。

「細かいことを言えばきりがないが大きく分けて三つある」

「まず一つ目はっきり言って設定がおもんない。お前の設定を要約すると『舞台は魔物と魔法のある中せヨーロッパ。勇者にあこがれていた普通の少年はある日両親が魔物に殺される。そこで口だけでなく本当に勇者になることを決意する。その後は勇者に同情したり共感してくれた仲間と魔王を倒しハッピーエンド』これだ」

そう言い切った後大きく息を吸い、

「もう何千回も見たよ!親の顔より見た展開だよ!」

と断定した。


さすがにもうちょっと親の顔を見なさい。

……ただ、言ってることは正しいんだよな。だって、一切俺の心躍らないんだもん。

「もちろん王道もいいが、お前のはあまりにも典型すぎるんだよ!まず、パーティーメンバー!幼馴染で恋を匂わす僧侶とライバル関係のクールな騎士とプライド高目で嫌味の多い魔法使い。ありきたりすぎるって!」

たしかによく見る構図ですね。なんなんでしょうねこれ。作家が生み出した黄金比なんですかね?

……意外といいアドバイスするじゃん。どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。


「あーなるほど……」

と律義にメモを取る掛無くん。……なんだか君の真面目さがその設定に出ちゃったのかな?

「そこでだ。こういうのはどうだ?まずは魔法使いをゴスロリメンヘラ化させる。そしてライバル関係の剣士主人公に興味を示すおかま風に。最魔法使いは中二病が抜けてないようにして。最後は勇者が陰謀論者に……」


待て待て待て待て!

「……なんですか?店員さん?」

「あっ……いえ、その……お冷いりませんかと」

「あぁ、すみません。ありがとうございます」

いかんいかんいつの間にかお客様の席の前に立っていた。

落ち着け俺! ここでまた口出ししたら変な空気感になってしまうだろうが!

我慢だ井内! 我慢しろ!


「そうするだけで一気に他と差別化できるだろ? どうだ?」

うん、まあ差別化できるけどさ……

キャラが渋滞しすぎなのよ! 『秋のハロウィン限定もちもち胸キュンメープルスイートポテトクッキークリームパンケーキ』みたいなことになってんのよ!

 てかそのメンバーでボケたとき誰が回収するん? みんなあっちこっちにボケとばすだけになるやろ。誰か拾えよ。

 それとキャラ濃いやつ足したら単純増加するんじゃなくて大体変な化学反応がおきて得体のしれない何かが発生するの! そんな単純じゃないの!

……なんだかあの人の小説が読まれないのも納得できた気がする。


「そして次にストーリー。お前のストーリの展開の仕方の共通項をまとめると『新しい街に行きます。困りごとが発生してます。助けようとしますが自分たちだけでは無理です。解決できそうな人に会いに行きます。勇者が説得します。その人の力で解決。勇者に協力。」

うわーこれは……

「薄っぺらい!俺の履歴書の内容ぐらい薄っぺらい!」


あんたはもっと大学生活充実させなさい。まだ二年生だろ? どうとでもなるって。

「もちろん同じような展開が続くのはぶっちゃけ仕方ないが、お前のは同じすぎるんだよ!まず、新たな困難に直面したらどうにかして解決策を探し、その中で友情が深まったり人物の心身が成長するもんだろ!だが、お前のストーリはどうだ?全部他人任せじゃねえか!」

言われてみればその雰囲気だと勇者いらないよね?

「いやでも、勇者が説得することで……」

「その内容もぺらいんだよ!お前、勇者の設定忘れたんか?13だろ、13!俺らよりガキのやつだ。そんな奴が『人生は~』『幸福は~』って説教するのはきついよ!まあ、両親が死んでるから多少は語れることあるかもしれないけど結局内容が薄いから意味ないんだよ!俺もお前も別に対して人生送ってきてねえしそんなこと真面目に考えたことないだろうが!」

たしかに一理ありますね。作者が書けるのは作者が知ってることだけですから。

今度はちゃんとしたアドバイスじゃん。すまんな越智くん。前言撤回するよ。


「言われてみればそうですね……」

とメモを取りながらうなずく掛無くん。もしかしたら君の素直に物事を受け取る性格はあまりそういうのには向いてないかもね。育ちもよさそうだし。

「そこでだ。こういうのはどうだ?物語の中盤で勇者がギャンブルにはまりその後見事に破産してしまう展開を入れるんだ。多額の借金を抱えてしまい魔王討伐はいったん中断し返済生活が始まる。不可能だと思われた返済だったが仲間の協力もあってか無事に終了。こうすればギャンブルは二度としないという成長が……」


タンマタンマタンマタンマ!

「……店員さん?」

「あっ、……その、お皿を下げようかと……」

「僕ら何も頼んでませんよ?」

「あっ、そうですか。しっ、失礼しましたぁ……」

危ない危ない。危うく変な人だと思われるところだったよ(すでに手遅れ)

落ち着け俺。彼らは所詮他人なんだ。俺には関係ない……


「そうするだけで一気にストーリーに深みが出ると思わんか?」

思わんよ! 味噌汁にカレーを加えたらどうなる? ほぼカレーのようなゲテモノになるだろうが!

 前言回収! なに? ファンタジー小説読んでたらいきなり債務者の借金返済ストリーが始まる? 怖すぎだろ! ホラーだよもはや!

 せめて本筋に関係あるやつにしてくれ。読者が困惑するから。

 ていうかギャンブル依存症の勇者って嫌だろ!



……あっ、でもそいつ陰謀論者だからどっちにしろ嫌か。



「そんでラスト……」

うっわ、まだ残ってた。……もう期待しないよ。

「敵キャラの魅力がない。お前の敵キャラははっきり言うが全員モブだ。学校の俺やお前と大差ない」


あんたらはもっと学校生活充実させろ。まだ二年生だろ!なにもう自虐ネタにしてるんだよ!

……いやでも悪役に魅力がないとこういうストーリーの醍醐味の戦闘が面白くならないからな……

「お前の悪役キャラは全員やられ役みたいになってんだよ。もちろん、勇者の力を示すやられ役は必要だ。だけどこの話の悪役キャラは全員最初調子乗った悪ガキみたいなこと言って、あっさり逆転されたら泣き喚いて命乞いするだけ」

「それだけならまだいいかもしれないが、勇者は全員許すししかも悪役はあっさり改心。お前らにプライドはないんか⁉」

いくらなんでも悪役全員小物すぎるでしょ……もっとこう、勇者の信念と対立できそうな悪の美学を持ったキャラを手配できなかったの?


「参考になります……」

と赤ペンでグルグルと囲む掛無くん。君のその根が真面目なのが悪役にも移っちゃったんだろうね。

……せめてキャラ作るときは君の性格を限りなく排除して作ってね。じゃないと全員仮面付けた君のクローンになっちゃうから。


……それができたら苦労しないんだろうけど。ハァ……


「そこでだ。悪役は民が苦しんでも自分たちが幸せなら一向にかまわないという信念を持たせる。そして、魔王によって貧しい生活を強いられた勇者との対比を描く」


ウェイトウェイトウェイトウェイト!

「さっきからなんですか店員さん!」

「いや、それはこっちのセリフだよ!さっきから聞いてたらあらぬ方向に導くアドバイスばかり!今回も……」

……うん? 今回は結構まともじゃね? 普通にアドバイスの一つとしてはありじゃね?

「俺のアドバイスのどこがおかしい! 一回その通りに作ってみろ!」

えっと、彼のアドバイスをまとめてストーリーを考えると……



『貧しい生活をしていた勇者は成り上がって調子に乗って魔王公営のカジノで借金地獄。何とか返済するもカジノが確立操作されている陰謀論を証明するために自分以外のことはどうでもよいと思っている魔王の元に向かう……』



「読者のターゲットどこやねん」

結局ゲテモノできんじゃねえか!

 俺が一人突っ込みを入れてると掛無くんはメモ用紙を閉じて立ち上がり、笑いながらしゃべりかけてくれた。

「いや、大丈夫ですよ店員さん。俺もこいつが作家に向いてないことは承知してます。だからですねこいつのアドバイスと逆のことをすればいいんですよ。売れない作家の逆を……ね」

「ひどい!」

あっ、こいつ全然素直じゃなかった。ただのクソ野郎だった。

でも一理は……






「……いや、そんな単純な話じゃないと思いますが?」


面白ければ評価や『こういうのもあるよね』と感想を書いてもらえるとすごく嬉しいです!

読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

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