表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

評議員

源さんはせせらぎ荘の敷地を出る。

「評議員」なる3人に連れられて、せせらぎ荘の敷地を出る源さん。

ここから離れるのは、いつ以来なんだろうか。

もしかしたら、初めてかもしれない。


初めて、いつから考えて初めてなんだ。


そんなことを考えている間に、3人と源さんはせせらぎ荘の隣の神社の社務所横に着いた。


そこには、すでに数人の「憑いているもの」がいた。


「やあ、よく来てくれたね、源さん」

一人の男がそう声をかけた。


社務所横の何もない空き地のはずなのに、

いつの間にやらそこはテーブルが置いてある和室のような部屋になっいた。


源さんがテーブルに着くと、お茶が出てきた、あとお茶菓子も。

しばらく、皆でお茶を飲み菓子を食べた。


「源さん、ちょっと聞きたいことが」

最初に声をかけた一人が源さんに再び話しかけた。


「あんた、ちょっと立ち入りすぎなんじゃないか」

男が言う。


「あんたが、せせらぎ荘の大家と結託してるのは知ってる。それは黙認してきた。

でも、あの家族に関わりすぎだ」


いきなりこう言われた源さん。

今まで、自分の行動を知っている輩がいるとは思っていなかった。

自分と同じように「憑いている」ものの存在を感じたこともなかった。

ずっとせせらぎ荘で一人で過ごしてきたのだ。


「あんたらは、俺の事を知っているんだ?」


「そりゃ、事情はそれぞれ違うととはいえ同じ立場だ。

あんたが、我々を知らなかったのは見ようとしていなかったからだ」

評議員の一人が言う、源さんをせせらぎ荘から連れてきた、「六さん」という男だ。


「あんたも俺も、「憑いているもの」だ。事情があって成仏できていない者たちだ」

他の評議員が言った。


「成仏でいていない?」

源さんは首をかしげる。

自分は何者なんだ、今まで考えたこともなかった疑問がわいてきた。


「俺は、自分がこの世の人間ではないことはわかっている。

でも成仏できていない、つてそんな感じはしないんだが。

生前に悔いはないはずだ」

源さんは、自分が時々思い出す「生きていた頃の記憶」これがどれも懐かしいが、満たされた

幸せな時間だった。


それが、「成仏できていない」

だなんて。


「そのへんの事情はそれぞれだから、こっちにもわかんないわよ。

勝手に調べられないでしょ、個人情報の問題もあるんだし。

とにかく、源さんいまのあんたは「憑いている者」なんだよ」

チャキチャキした話し方で、ここに連れてきた女性の一人が言う。


「まあ、どうして「憑いている者」になったかより、今の源さんの行動に問題があって

今日は来てもらったんだ。

まずはそっちをはっきりさせよう」

六さんがそう言い、他の皆もうなずいた。


「源さん、せせらぎ荘に引っ越してきたあの家族、なぜあんなに構うんだ。

特にあの子供、「憑いている者」が見えて会話までできる。

俺たちにとって脅威の存在だ」


「さくらが、」

源さんはつぶやいた。


「憑いている者」が見えて話もできる、それの何が脅威なんだ。

源さんには腑に落ちないことだ。


「あの子が「憑いている者」の存在を大人に知らせたらどうなると思う、

お祓いでも行われたら、俺たちまで影響がある」

と評議員に一人は言うが、


「さくらはそんなことはしない、それに俺はさくらにパパを探してってたのまれた、

こうたにはママを助けてって頼まれた。

子供の頼みを無限にできるか。」

と反論する源さん。


「それに、お祓いされたらそんなに困るのか、成仏できていいことなんじゃないのか」

そう言う源さんに、


「多少のお祓いをしても成仏はできない、根本的な解決はしないから。

でも、この世にはいられなくなる。無の世界に連れて行かれるんだ」


そういうことらしい。


「無の世界」

そこには何もない、始まりも終わりも、入り口も出口も。


「そうか、お祓いは避けなければ。

でも俺がさくらたちの力になる、これは変えられない」

と源さんが言う。


「それなら、あんたがさっさとあの子たちのパパを見つけてあげればいいんじゃん」

あのチャキチャキの女性だ。


「でも、俺はせせらぎ荘から離れられないし」


「それは、自分でそう決めてるだけ。今ここまで来てるでしょ。

自分で決めた小さな世界に勝手に閉じこもってるんだよ、あんた」

とその女性が言う。


「そうか、じゃ、俺はさくらたちの父ちゃんを探す、そしてあの家族をせせらぎ荘から

引っ越しさせる、それで俺とあの家族の関りはおしまいだ」


「源さんははやり人情に厚いな。

じゃ、そうするといい。まちがってもお祓い騒動なんかにならないようによろしく頼む」

六さんが仕方ない、という顔をしながら言った。


「やはり、って。

六さんは俺の事を知っているのか」


「地元が同じだ」


六さんにそう言われて、かつての記憶を探が六さんの事は何も思い出せない。


「まあ、生前の記憶も思い出す気がない限り、思出せない、俺の事もそう言うことだ」


源さんは六さんになんだか申し訳ない気分で頭をポリポリと掻いた。


評議員たちは、源さんが101号室の親子の父親を探すことに賛成をした。

そして、あの家族が引っ越していけば、もうさくらたちと接することもないだろう。

それなら、また今まで通りだ。


評議員との話が終わり、源さんはせせらぎ荘に戻る。

帰りは一人でだ。


別に違和感はない。

外に出られない、と勝手に思っていたのだ。


別れ際、六さんが

「あの春子というやつ、「憑いている者」ではないが生存もしていない輩だ」

と源さんに耳打ちした。


「さくらのばばが?どういうことだ」

せせらぎ荘に戻っても、源さんはずっとそのことが頭から離れなかった。







春子さん、何者なんでしょう。

応援していただけると感激します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ