ツンデレ世界ランキング1位
俺は高校生探偵、工藤真二。
幼馴染で同級生の女子と遊園地へ遊びに行って、黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃した。
取引を見るのに夢中になっていた俺は、背後から近づいてくるもう一人の仲間に気付かなかった。
俺はその男に鉄パイプのようなもので殴られ、意識を失っている間に毒薬を飲まされ、目が覚めたら……。
体が縮んでしまっていた!
なんてことは無かった。
俺の名前は工藤真二。高校二年生。探偵ではない。
自分で言うのもなんだが、デブでメガネで何の才能もない人間だ。
この世に生を受けて十七年間、彼女が居たこともなければ告白されたりバレンタインチョコをもらったこともない。
「はー、もうメガネは向こう行ってろよ」
幼馴染の女子にさえ、そう言われる始末。何も悪いことしてないのに、俺は生まれ持った見た目のせいで学園的弱者となったのだ。
「はあ……」
ため息を吐いた先で空き缶を拾い、ゴミ箱に捨てた。
俺、工藤真一は推理能力こそないが、ゴミが落ちてりゃ拾って捨てるし、信号無視とかもしない。
昔から真面目な性格だった。警察官である父の影響だと思う。幼稚園の頃から先生の言うことは聞いていたし、先ほども紹介したが赤信号を渡ったことなんてない。
言うなれば真面目人間。取り柄はそれだけ。就職活動には役立つんだろうけど、学園生活では見た目しか役立たない。
俺のような見た目の奴は、同族の中でしか生きることができない。同族の中でしかイキれない。
「はあ……」
俺はふらふらとした足どりで、ファミレスに入った。店員さんにご案内され、俺は席で独り寂しくメニューを開く。周りの席は、同年代の男子だけのグループや女子だけのグループで埋め尽くされ、俺は体を縮めて呼び出しボタンを押した。間もなく、エプロンドレスに身を包んだ女性店員がやってきた。
「ご注文は――」
店員は先の言葉を飲んだ。俺を見たからだ。俺が工藤真一だと認識したからだ。
不幸なことに、オーダーを受け持ったのは同じクラスの毛利凛だった。学年イチの美人と称されるほど見た目はいいが、
「はーツイてねーなー。メガネの相手かよ」
中身は最悪だ。頭に角ではなく、心に鋭利な角があるのだ。
「あ、えっと、その」俺はメニューで顔を隠しながらキョドる。
「さっさとしろよ! いつもみたく豚の食料だろ?」
ちょっとそれ酷くない?
「え、ええっとお……とりあえずドリンクバーで……」
「ああ? とりあえず? また来んのめんどくせーからいっぺんに頼めや!」
「あ、じゃ、じゃあ……オムライスも……」
凛は舌打ちしながらオーダーを書いて、一礼もせずにキッチンの方へ歩いていった。俺はドリンクバーでコーラを注ぎ、席で一口飲んだ。
(俺もツイてないな……)
凛は幼稚園から付き合いのある幼馴染だ。
昔は素直で良い子だったのに……。
好きだったのに……。
「おまたせしましたあ」
気だるく料理を運んできたのは凛だった。ここには居づらいし、さっさとオムライスを食べて帰ろう。そう思ったんだけど……運ばれてきたのは豚のステーキだった。
「共食いでもしてろゴミ」
言い放つと、凛はツカツカと足を鳴らして去っていった。
(え、えええええええええええ?)
いくらなんでも酷くない? 心に角どころか剣山生えてんだけど。
動揺して怯んでいると、凛が新たな料理を運んできた。
きなこもち、だった。
紛れもなく、まん丸な餅に黄粉が塗された、きなこもちだった。
「それを喉に詰めてろゴミ」
凛は会計を置いて、とっとと去っていった。
(ええええええええええ?)
なんか明後日の方向の料理来たんだけどお。
つーか喉に詰めてろって何?
遠まわしに死ねってこと?
「ったくよー。マジでツイてねーぜ」
不意に、凛が向かい側の席に座ってきた。足を組んで俺の目を高圧的に睨んでくる。
「あ、えっと、頼んだ料理が違っ……」
「ああん? 何か文句あんのか?」
「いえ……何でもないです……」
俺はしぼんで、仕方なく豚のステーキにナイフを入れた。その時だった。
「ったく、おまえは動きだけじゃなくて、そういうことも鈍いのかよ……」
凛が言った。え? と俺は手を止め凛の顔をうかがう。
「最初に運ばれてきたメニューは?」
「……え?」
「いいから言え!」
「えっと、ステーキ……」
「次は?」
「……きなこもち……」
俺が言うと、凛はうっすらと頬を赤らめた。しかしその理由が分からない。
「……まだ気付かねーのか?」
「えっと……何が?」
「メニューだよメニュー! その最初の文字を続けて言ってみろってんだ!」
メニューの最初の文字を、続けて言う……?
最初はステーキだから「ス」。次は、きなこもちだから「き」。
それを続けて……「ス」「き」。「ス」「き」……すき……。
「……すき?」
俺が言うと、凛は顔を真っ赤にした。
「言っとくけど、隙間の隙じゃねえからな!」
赤くなった顔で凛は言った。
「好意がある、の『好き』だからな! 女に言わせんな!」
「えっ? 何が? 何を?」
「私が、私の目の前に居る奴のことを、だよ! そこまで言わせるな!」
凛の目の前に居る奴……。
俺しかいない。後ろを振り返ってみても、誰も居ない。
「えっ、ひょっとして、凛……さんが……俺のこと好きってこと?」
「そ、そうだよ! 悪いか? べ、別にあんたの真面目なとこが良いとか思ってないんだからねっ!」
凛は勢いよく立ちあがった。
「べ、別にあんたのことなんか、これっぽっちしか好きじゃないんだからねっ!」
言いながら、凛は人差指と親指を広げ、その程度の幅を示した。
小さく広げられたその範囲は、十センチぐらいか。
「因みに、私にとって地球は一センチぐらいだから……」
凛はボソッと言った。
なんだこのツンデレ世界ランキング一位。




