力の証明
「本題に戻ろう。君も気になってるであろう君の力を試したことについての説明だな。」
あ、そうだったそうだった。あっぶねー本気で本題忘れてたよ。
亜種に夢中になってて完全に忘れるとこだった。確か魔王の魂の回収...だっけか。あん時は何も言わなかったけど、冷静に考えてたら俺がやるよりマーシャルさんがやった方がどう考えても早いし効率が良いのでは?と思ったがそれを口に出すのはやめた。またあの眼光で睨まれたくないからだ。
「まあ難しいことではない。君に刹那のこと、他の魔王の魂の回収を頼んだ。君は私がやった方が良いのではないかと思っているようだが私には出来ない理由があるんだ。」
幸村は少し目を見開いた。
自分の考えていることが見透かされているようで少しの驚きと不安感があったからだ。
だがすぐに自分と同じような体験をした者は誰であろうと同じような考えに行き着くだろうと疑問に結論を出し、息を浅く吸い、乱れた心を整えるように吐いた。
色々思うとこはあるが、彼女が出来ない理由は彼女自身だけでなくその他の影響…..例えばこの城…いや、この国から出ることが出来ない…とか。
彼女は少し表情を少し曇らせ、密かに両手を強く握った。まるで何かと葛藤しているかのように。
しかし直ぐにポーカーフェイスに戻り口を開いた。
「私がこの国の帝王の地位にいるが故…この国を守る義務があるからだ。」
俺はまあそうだろうなと思った。
国の最上位職に位置するのが帝王とか王様な訳だし…いや、この場合は女王?女帝?まあどれでもいいんだけど。
帝は国と民を守るってのは馬鹿でも分かることだし驚く事は無いんだが……….民?
そういえばこの国に降り立って俺は何人に出会った?
ガイムのおっさんにマーシャルさんと刹那。……..そして腐人。
ガイムのおっさんの話だとこのドリスワン帝国は栄えていた国のはずだ。
いや、栄えていようがいまいが俺は国民といった国民に出会ってない。
ここに来るまでの約三十分程度の時間綺麗で整備され、生活感満載の街並みだった。
そんな繁栄していて巨大な国であるのにここに来るまでの間誰一人として人がいなかった。
………まるで人間が全員神隠しにでもあって、そのまま時間が停止してしまったように……。
それにもう一つの大きな疑問は腐人の存在だ。
ここは異世界だ。腐人のような魔物がいることにはなんならおかしな点はない。
問題は何故その魔物一人だけがそこに存在したんだ?
ガイムのおっさんはいたが、他の人間は誰一人としていなかった。それにドリスワン帝国が魔物の国でしたーとかいう暴論はありえないだろう。
…….腐人が出た時のガイムのおっさんの焦り様が些か過剰だったのも気になる。
あのレベルの魔物ならガイムのおっさんレベルなら片手であしらえる位だろうに、あれは流石に過剰反応過ぎたのではないか?
…….そうか。ガイムのおっさんは自分に近づかせようともしなかった。おまけには反対方向であるこの城まで行けと何度も斡旋してきた。
となるとガイムのおっさん自身、またはそれより背後に行かせたくない理由があった?
だとするとその理由は何だ?
幸村は何故か羅仙の亜種の影響で情報処理能力が何倍も速くなっているのに全く気づかない頭で、今までの状況を整理し、喉の奥にへばりつくように残っているこの違和感を解消するべく、脳をフル回転させる。
そして一つの結論へと辿り着き、その答えはポツリと口から発せられた。
—— 「腐人」
「!」
幸村の一言にマーシャルは大きく目を開き、今までで一番の驚愕の顔を見せる。
そして数秒も沈黙のあと、その驚愕の顔は苦笑いに変わり沈黙を破った。
「君はどこまで知ってるのかな?」
「何も知りませんよ。ただガイムのおっさんと会った時に一体だけ遭遇しました。そしてガイムのおっさんの言動やら不自然な箇所を整理して推測しただけです。」
そうだ。俺が行き着いた結論は結局は俺の推測の域を出ない。この結論が本当にただの俺の妄想であってほしいとも思う。
でも….もし、もし万が一でも俺が導き出したこれが本当だったらと考えると……。
……いやこれ以上はやめよう。
俺は嫌な思考回路を断つべく頭を左右に何度か振った。
「………君の推測を教えてくれるかな?」
彼女は俺が落ち着くのを待ってから、少し柔らかい表情で質問を投げかけてきた。
俺は勿論聞かれることを予想していたので、軽く頷き当たってほしくない推測を話し始めた。
「この国、ドリスワン帝国はガイムのおっさんに聞いた通り、とても栄えていた大国家だったはずです。しかし何かしらの原因でこの国に腐人」が出現し国中の人々が腐人化していき残ったのがガイムさんとあなただけになった。そしてガイムさんが今は腐人を一部分にまとめ、この国が完全に滅ばないように守っている…..こんな感じですかね。」
正直自分で言っておいてなんだか無理がある推測だと思っている。しかし全てが違うというわけではないだろう。勿論間違っていてもらいたいのだが。
「.......ふむ。」
マーシャルは右手を顎に当てる動作を取り下を向き考え出した。
数秒後彼女は、考えがまとまったのか、ふと顔を上げ口を開いた。
「....驚いた。推測でそれほどの答えにたどり着くとは中々面白い。」
マーシャルは薄く笑みを浮かべ幸村を称賛した。
まさか褒められると思っていなかった幸村は返答に困ったが、ありがとうございます。の一言だけ返した。
「まあ完全な正解ではない。間違っている部分は少なからずある。......やはり最初から全て話したほうが早そうだな。」
幸村は一滴の冷たい汗が背中を通過するのを感じた。
緊張——ではない。
マーシャルは完全な正解ではない。と言った。
それはつまり幸村の推測のいくつかは正しかったということだ。
幸村の推測はどれか一つでも当たっていても良い話ではないことは確実だ。
それがいくつか....二つ以上は確実なのだから気持ちの良いものではない。
俺は目でお願いしますの念を送り、耳を傾ける。
「.....どこから話そうか.......そうだな。元々この国は君が言った通りとても栄えている大国だった。そして平和そのものだった。....しかしある日事件は起こった。その日もいつもと変わらない普通一日になるはずだった。......報告ではある旅商人が妙な物を売っているとな。その物というのが瓶の中に深蘇芳色の液体が入っている物でな。問題はその液体何だが.....誰も見たことがないんだ。薬でも調味料でもない。いかにも怪しいだろ?そんな物が国中に行き渡っているんだ。すぐさま全て回収して城の倉庫へと保管しようとした。...........だがそれが裏目に出た。倉庫で運搬作業をしていた一人の衛兵が手を滑らし、瓶の中身を盛大にぶちまけたんだ。そしたらその液体が焼けるような音を出しながら煙を出し始めた。........するとその場にいた私以外の人間が全員苦しみ始め.....体が腐敗していき.....そして腐人へと変貌した。」
マーシャルの顔が苦しそうに歪み言葉が停止する。
幸村はなぜ貴方は腐人にならずに済んだのか。と問おうとしたがマーシャルのその顔を見て喉の奥を封鎖されたかのように何も声を出すことができずただ黙って話を聞くことしかできなかった。
「........腐人達は目の前に山積みにしておいてあった瓶を全て破壊し、部屋の扉を破壊し、外へ出ていった。......少し遅れて私も部屋を出たが、私は状況を判断するのが遅すぎた。近くにいた他の衛兵達も腐人へと変貌している最中だった。私はこのままでは国が危ういと悟り町の方へと向かった。.......しかしもうその時には町中には大勢の腐人達がまだ感染していない者達を襲っていた。そして襲われた者達もまた..........。」
「.....どうして城の外の者達も腐人化していたんですか?」
俺の問いに彼女は左右に首を振った。
「わからない。回収しているのを見たどこかの商人がいくつか隠し持っていたのか.......もしくは販売をしていたその旅商人が戻ってきていたのか.....真実は不明だ。あるのはもうこの国はすでに壊滅状態だったということだけだ。」
幸村は思う。
マーシャルさんは話をしている間ずっと苦しそうな.....目に見えない大量の鎖に繋がれ、大量のおもりを背負っているように体すくめる。
だけど目だけは........その瞳だけはまっすぐ前を見ている。
今話を聞いているだけでも彼女が背負っていること大きさが分かった。
でも彼女はどんなに苦しくてもどんなに足が止まろうとしても一度もそこから逃げ出し楽になろうとしてこなかったのだろう。真っ直ぐに前だけを見て、その歩みを止めてこなかったのだろう。
—— 『強い』
彼女は非の打ち所がない完全なる強者だ。
........俺は......彼女と最初戦ったときに諦めた。彼女なら絶対に諦めるというような真似はしないだろう。
俺は拳を強く握りしめ歯を強く噛み締めた。




