思い立ったら、すぐに飛ぶべきだ
自殺する人は悲しい。この社会はあなたに厳し過ぎるのかな?
「そこのおじさん!今すぐ、そこから離れなさい!」
7階建てのビルの屋上に誰かがいると、警察に通報されて来てみれば、婦警の鯉川由紀が急行した。
いい歳をしたおじさんがここから飛び降りようとしていた。……が、まだ迷っているようだ。
「う、五月蠅い!俺は、……俺は自殺するつもりなんだ!」
自殺するかしないか。その最後の選択!
「通報から1時間以上もそこで悩んでるのに!?」
「余計な事を言うな!!もっと早く来ないのが悪い!!」
1時間以上も屋上で、飛び降りるか飛び降りないかの迷い。それを間髪入れず、そして、彼女の態度からも分かる。
「あたし。あなたのせいで残業してるんだけど!19:00に友達と飲みに行くんだから!!さっさと動いて!どっちでもいいから!!」
「お前、俺を殺す気か!!テメェみたいなのが、警察なのはオカシイだろ!!」
けど、実際。自殺する・しないの騒動に巻き込まれた、多くの無関係な人達からすれば、迷惑極まりない。するなら手段を考えろ。人目につくとか、社会に傷をつけるとか。余計な事をするな。
迷っているおじさんと、手短に済ませたい鯉川の違い。電話をかけ始めた鯉川は
ピポパ……
「もしもし、消防さん?下でマットのご用意をお願いします!」
「な、なにしてんだ!?」
「私が説得するよりも、こいつを突き落とした方が私が早く帰れるので!ちゃんと受け取ってください!」
「自殺を止めねぇのか!!なんでこいつが説得しに来た!?」
人選を間違えている。それ故にツッコミをしてしまう。これは後押しでもなく、無論、説得でもない。万が一の対処も済ませた上で、説得を試みるのも悪くはないものだが、
「よし!飛び降りれても大丈夫よ!少なくとも、あたしは知らん!!」
「そんなのを伝えるんじゃない!!」
「だって、飛び降りないのが悪いんじゃない!道路の交通規制って大変なのよ!あなたが落ちて飛び散る血や、しょうもない脳みそや臓器が道端に転がるのよ!汚れるじゃない!」
そりゃあ、そうですけど……。ご迷惑ですけどね……。
そんな内心と裏腹。未だに口が動いて、体が動かずの男。
鯉川はハキハキとそれでいて、ちょっとは考えている。
「えーっと、ね。そうねぇ……とりあえず、自殺は止めなさい。よくないわ!」
「俺は社会に絶望してんだ」
「あなたにもきっと良いところがー……えーっ、……うーん、そうねぇ、……生きてるのは、……うーん、あー、……男としての価値は……ないわねぇ……じゃあ……」
………ほとんど、沈黙の6分。
「ごめん、やっぱ。あなたの良いところが浮かばないわ。私、あなたのことよく知らねぇし」
「一番キツイぞ!俺は社会に必要ねぇんだ!」
「あっ!ツッコミが上手い!!」
「お前のボケが酷い!!」
しかし、こんなに待ってあげて男も動かないのだ。
ハキハキと言葉を喋る。ちょっと運が悪いだけの人生で、生死をかけてるだけだ。
「死ぬチャンスなんかいくらでもあるんだから、今度にしなさい!あたしもう飲み会に行くから!一旦、食って寝て、エロ本でも読んで一夜を過ごせ。2000円置いておくから!」
結局、鯉川は説得の失敗。しかし、まだ飛び降りなかった男もまた……。
「……じゃあ、今度にする」
自殺する覚悟も、迷惑的な犯罪を試みる覚悟もない。
◇ ◇
「え~……、46歳ですか。ご希望されても、肉体労働しかありませんけどねぇ。正社員登用と言われましてもねぇ」
思い立ったら自殺をするように。
それと勘違いして、何もない状態の転職は難しいモノだ。きっと、前よりも良いところはある。しかし、自分もこれから体験する未来でどうなることやら……。
「う~ん………もっとその、良い待遇はありませんか?」
「そう言われましても、あなたを雇うとしたら人手不足の企業ぐらいですよ」
「それじゃあ、前と変わらないような……」
「どこも似たもんばっかで、文章と写真で誤魔化してるんです。人も似たようなもんでしょ」
しょんぼりする事もある。
覚悟を決めた時はとっても快感だったんだけどな。
近くで飛び降り自殺があったんですが。
道路の通行止めはもちろん、
「いでぇぇぇ~~やだやだやだ、死にたくないぃぃっ」
って感じで飛び降り自殺した人が騒いでました。痛いに決まってるやん……。
助かったみたいですけど、五体満足かは知らん。