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――☆――






夏の雨。





小さな家に降り注ぐ。





そして雨音に紛れて御経が聞こえてきた。





小さな家に小さな部屋。




大勢の親戚が神楽を囲んでいる。




仏壇の上に置かれた写真の人物は幸せそうに笑っていた。






先週の土曜日に神楽の兄、斎堂時隆が交通事故により死んだ。







仕事の帰りに大型トラックと衝突して…即死だったそうだ。




病院に駆け付けた神楽は呆然と立ちすくんでいた。





涙が出てこなかった。





当然のことだ。





自分が願ったことなのだから。







「可愛そうにねぇ。兄弟二人だっていうのに。」



「お金は大丈夫なのかしら。」


「時ちゃんが貯めていたお金でなんとかなるらしいわよ。」



「まぁ、そうなのぉ。大変ねぇ。」




周りの声が妙に耳に入った。



神楽は泣くことも笑うこともなく、ただ仏壇の上に置かれた時隆の写真を見つめていた。




雨は変わらず降り続けて、部屋のなかに湿気を籠もらせる。




大嫌いな夏。







親戚が帰ってからも神楽は一人静かに写真の前に座っていた。




「これ。病院に運ばれたお兄さんが手に握っていたそうだよ。」



御坊さんが神楽に一枚の紙切れを渡した。




「これは?」



「君宛ての手紙だよ。」




「手紙………?」




それは確かにあの兄の字だ。



バランスが悪くて、崩れた字。




そんな汚い字で表に『神楽へ』と書いてあった。




「君のお兄さんは自分の死が近いのを分かっていたようだね。大丈夫、誰も中は見ていないよ。」




「…………ありがとうございます…。」








兄からの手紙。






死んだ兄からの手紙。






「じゃ、そろそろ私は帰らせてもらうよ。」



御坊さんはそう言うとお辞儀をして玄関から出ていった。



神楽はそれを見送ると視線を写真に戻した。





誰もいない古びた家に一人、死んだ兄の写真を見つめる。




聞こえるのは雨音と時計の音だけ。





静かすぎるリビング。





「あんたがいた時は少しはにぎやかだったかな。」





笑う兄の写真。





それから、神楽は手紙に視線をおとした。



そして、ゆっくり手紙をあけて中の紙を取り出し目を通す。





「………―――――っ。」



手紙を持つ手が震えだした。




今まで湧き出てくるはずのなかった感情が一気に溢れだす。





「何で………、何で?」




震えて言葉がはっきりしない。



涙で手紙が読めない。






読みたくない。






「うあああああああああぁぁっっ!!」





一人泣き崩れる少女。




笑う少年の写真の前で。






泣いた。




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