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―――☆―――




大きく開かれたルビー色の瞳が神楽を突き刺す。



「自分で殺せばいいじゃない?」



イフは繰り返し言う。



「……ふざけんなよ…っ!そんなこと出来るわけないだろ……!?」



神楽は怒り狂って声を上げる。



「なんで?殺したいんでしょ?そんなこと、私に頼まないで自分でやればいいじゃない。それとも、ただ口先だけ?本当は殺したくないんじゃないの?」



幼いような大人びたような少女の声はひどく優しい、そして、ひどく残酷。



神楽は少女の苦痛の言葉に眉を潜める。




そうだ、今までだっていくらでも殺すチャンスがあったはず。



それで私は何をしてきた?


ヤツを……兄を殺そうとした事があるか?




唇が震えて止まらない。



私は今まで何を………。




神楽は俯いて黙ったまま。




「図星ね。」



「ぅ…うるさいっ!!お前に何がわかる!?私の気持ちなんか…誰にも分かるばずがないんだ……っ!?」



張り詰めた空気の中に神楽の声が響く。



「っ……ふざけたことを言っているのはあなたの方でしょ……。あなたの気持ちなんか誰にも分からない。分かるはずがない。私の気持ちだって……。」



一瞬、イフの顔が曇る。



何かを思い出しているかのように視線が動いていた。




「でも、あなたの一番そばにいて、あなたの気持ちをよく分かってくれる人だっているじゃない?」



イフは顔を上げて笑う。



「……………いない。そんなヤツ。私の気持ちを分かってくれるヤツなんか………。」




「…………。」



イフは静かに神楽を見つめる。



それから、窓の外に見える満月に目をやった。





イフの目に映った月は白い光を放って輝いている。





「大切なものはいつも傍にある。だけど近すぎて、その大切さを忘れてしまう。思い出そうとしても思い出せなくなる。一度、忘れた大切なものは失う直前に気付く。遅ければ失ってから気付く。」




イフは歌うように呟いた。



大切なもの。





忘れてはいけない。






大切なもの。






「…大切な…もの………。」



神楽は無意識に口ずさんでいた。



「決断ができたら、いつでも私を呼んで。願いは叶えてあげてもいいけど一つだけ忠告しておくよ。」



白い少女は真剣な眼差しで神楽を見た。






『大切なものはちゃんと心に止めておいて。』







また、深い夜に月が浮かぶ。






「で?そのあんたがなんで、またここに来たの?私は呼んだ覚えはないけど?」



神楽は刃物をもった手を震わせながら後ろを目だけで見た。



白い少女は微笑して頬を赤らめる。




「いやぁ、もう決断したかなあ?って思ってね。」




少女はへらへらと笑っている。




自分の兄のようだ。




いつも頼りなく笑って、




大嫌いな兄。





「あっそ………。それで兄は殺してくれるの?」




神楽は話を戻して少女に問う。




「だから自分で殺せばいいでしょ?」



イフは表情をかえて小さく言う。



「……な、何で私が殺さなきゃいけないの……っ!?あんたは悪魔だろ!?なら、人の願いをただ叶えればいいじゃん!?」



神楽は息をきらして叫んだ。



肩を上下し、顔に手を当てる。



「…………―――――っ!」



ふと、視線を前にやると、イフの瞳から雫が一滴落ちた。



「何、泣いてんの?泣きたいのはこっちだよ。願いを叶えてもらえないで、しかも、兄を自分で殺せとか、意味分かんないし。」



イフは小さく鼻をすすって、微笑する。



「ごめんなさい。そうよね。分かったわ、願いを叶えてあげる。」



「じゃ、さっさと消えろ。」



神楽は冷たくはき捨てて、背を向ける。




数秒たって後ろを振り向くとそこには誰もいなく、いつもの殺風景な部屋だった。







『…………大切なもの…あなたは失ってから気付くのね………。』




それを言い残して白い少女は消えた。








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