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昨夜のことだ。
神楽は部屋の電気を消してろうそくに火をつけた。
そして、引き出しから一枚の紙切れを取り出す。
その紙切れには逆三角形となにやら難しい字や、意味がよく分からない線が何本も引いてある。
神楽はその紙切れを机のうえにひろげて小さくため息をつく。
神楽「……こんなもので何ができるんだ……。悪魔なんか存在するわけがない。」
存在するわけない。
悪魔。
三つの願いを叶える。
そして誰かの命を奪う。
悪魔。
こんなもので………こんな紙切れで悪魔が召喚できるっていうのか。
ろうそくの火によって映し出される影がぼんやりと揺れる。
相変わらず部屋のなかはむんむんとして暑い。
だが、タンクトップのシャツからはみ出した腕には鳥肌が立っていた。
時間まで、あと10分。
神楽は時が経つのをただ静かに待っていた。
あと5分。
3分。
2分。
1分。
カチッ
時を司る針と針が出会った時、
―――ボーン、ボーン
鐘の音が鳴り響く。
神楽は小さく息を吸った。
神楽「―――――――…………。」
鐘が鳴りだすと共に悪魔の召喚をはじめた。
呪文を唱えたが鐘の音に掻き消され、何を言ったのか分からない。
それから数秒後、鐘が鳴り止み、音の残響だけが何もない部屋に残った。
沈黙が流れる。
ろうそくは今だに細かく揺れ続ける。
神楽「………何だ。やっぱり何も起こんないじゃん……。」
つまらなそうな表情を浮かべ、呟いた。
また、時計の針と針はゆっくりと離れていく。
出会えてすぐ、離れていく。
まるで人生のように。
花は芽生えて散ってゆき、
太陽は昇っては沈んでゆき、
今、目の前で燃えるろうそくの炎も、いつかは燃え尽きる。
ろうそくの炎なんて消そうと思えばいつだって消せる。
消そうと思わなくても、風に煽られれば消えてしまう。
人間の人生も同じだ。
消そうと思えばいつだって消せる。
消そうと思わなくてもそのうち消えてしまう。
それならば、なぜ人間は生きようとする?
何かを待っているのか?
ろうそくの炎も風に煽られて、それでも消えまいと燃え続ける。
そう、それはただの運命だ。
人間はただ運命に流されるまま生きる。
いつかは無くなってしまう尊いもの。
時計が0時を過ぎてから5分経った。
やはり何も起きない。
結局行き着いた先には何もない。
そう思ったが。
ボッ…………
急に部屋が暗くなる。
ろうそくの火が消えた。
窓は開けていないし、風が吹くわけもない。
それなのにろうそくの火は消えた。
???「人生はろうそくや花のよう………か。」
ふいに後ろから声がした。
振り向くとそこには一人の少女が立っていた。
???「確かにあなたの考え方は間違っていないけど、何か欠けてるわね。」
少女は微笑して神楽を見つめた。