――☆――
『Dearロム』
僕はやっぱりカナリアしか愛せない。
ただ姉というだけで彼女の代わりに王女として選ばれたマリアが憎らしく思えてならない。
僕はカナリアと一緒にいるために黒魔術を使った。
使うのを禁止されているのは分かっているが、それだけ僕は彼女を愛している。
分かってくれ、ロム。
僕はもう戻らない。
あとは頼む。
『Fromリム』
僕はこう書き残し城を後にした。
向かったのはもちろんカナリアの家。
愛するカナリアの元。
「カナリア!」
僕は勢い良く扉を開けて叫んだ。
彼女は僕が来たのを見て目を丸くして驚く。
「リム様、どうしてこんな遅くに」
カナリアは肩で息をする僕に駆け寄った。
「城を抜けてきた」
「そんな、いけませんよ!」
「カナリアに会いたかったんだ。これでいつでも一緒にいられる」
僕はまたいつもの笑顔で彼女に言った。
嬉しくてしかたないといった笑顔で。
が、その時、右頬に衝撃が走った。
一瞬、何が起こったか理解でしなかった。
「リム様、あなたは国の王子です!こんな事はしてはいけません!私だってリム様とずっといたい…!ですが身分が違いすぎます!こんなのリム様が苦しむだけです!」
彼女は泣きながら言い放つと僕を突き放した。
僕は叩かれた頬を押さえて呆然と立ち尽くした。
じんじんと痛む。
頬をじゃなく、心が。
こんなことするんじゃなかった。
でももう…
「今ならまだ間に合います。早くお城にお戻りください」
「ダメだ…」
「なぜです!」
「僕は決めたんだ。カナリアとずっと一緒にいるんだって。誓ったんだ」
僕は真剣に彼女に言った。
もう後戻りできない。
「なんでそんなに…私なんかのために…」
彼女は泣き崩れた。
僕は近づきそっと抱きしめる。
「僕は国の王子として失格でも、自分の心に正直でいたい」
僕は自分の心に正直で…
「愛してしまったんだ。君を」
僕はありのままの気持ちを告げた。
すると、彼女は俯いたまま答えた。
「……私だって」
それから数日、使いがここにくると思っていたが全くその様子もなく、ロムがなんとかしてくれたのだと思っていた。
しかし、ロムは僕を、彼女を見逃しはしてくれなかった。
ロムにだけはここに来てほしくはなかった。
彼は小屋の前まで来ていた。
頼むから、無事かどうか確かめに来ただけだと思いたかったが、やはりロムの目的は僕を連れ戻すことのようだった。
小屋の扉が乱暴に叩かれた。
「リム!いるなら出て来い!城に、マリア様の元に…いや、僕の元に戻ってきてくれ!」
ロムは必死に叫んでいるようだったが、僕は何も答えなかった。
答えたところで、アイツが帰るはずがないから。
「マリア様にも、城の連中にもお前がここにいる事はまだ言っていない!今なら、まだその娘も助かる!お前もな!」
「……」
「もしこんな事を皆に知らせたら、お前の信頼はなくなって、議会中も大騒ぎになる!そうなったら、もうこの国は…」
ロムは追い討ちをかけるように言った。
「リム様…」
「大丈夫だ」
心配そうに俺を見つめるカナリアに僕は顔色一つ変えずに言った。
「ロム!!」
「!…なんだ」
「率直に聞く。お前の目的はなんだ」
「目的か?そんなの、お前を」
「答えによってはお前を殺す」
僕はドア越しに感じる気配に殺気を出しながら言い放った。
「殺すって……そんなことできるわけないだろ!」
さすがのロムもそれには動揺したようだった。
カナリアも僕を凝視していた。
だが僕はすかさず答えた。
「本気だ。お前を殺して、僕は彼女だけの者になる!」
「な…何を、馬鹿な事言っているんだ!!早く出て来い!!」
ロムの声は焦りに焦っていた。
しかし、僕は本気だ。
「さあ、目的はなんだ」
「…それは…
僕は彼が諦めてくれるのを願っていた。
でも、世界は残酷だ。
分かりきっている。
ロムの答えなど…
…お前を、連れ戻す事だけに決まってる―――――」
「ロム…」
白い悪魔は舞い降りた。
『殺せ』
『誰だろうと、僕を連れに来た者、たとえ実の弟だとしても』
『そいつの命を代償に』
『殺せ』