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空が茜色に染まりはじめた。
次第に人の数も減り、辺りは静まり返る。
そこに不意に白い少女が現れ、アスファルトにぽつんと佇んでいた。
少女は遠くを見るように目を細め、悲しい顔をした。
「来ちゃったのね…」
彼女の見る先には馬にと共にこちらにゆっくりと向かう少年。
ロムだ。
それを確かめると白い少女は後ろを振り返り溶けるように消え去った。
馬を連れて歩きながら、ロムは一月前の出来事を思い出していた。
それはあのリムの結婚式。
可愛げに人形を操る少女。
ロムはその少女が気に入り、式のあとリムに頼んで彼女に会いに行っていた───
「君の人形はまるで生きているように動くもんだ」
「そうでしょう?ロム様もおやりになりますか?」
「僕には無理だ」
「いいから、やってみてください」
リムとその少女に見守られながら、ロムは懸命に指を動かした。
それに従い人形はぎこちなく手や足をばたつかせる。
こういう細かいのは嫌いだ。
「まあ、お上手」
「お世辞はいいから」
「お世辞ではありません。リム様なんて最初は糸が絡まってしまって、くるくる回るだけでしたから」
彼女は笑いながらリムを見た。
同時にロムもリムを見る。
「そうなのか、リム」
動揺したかのように苦笑いした。
「ま、まあ……、僕は不器用だからな。だが、今は違うぞ」
リムは慣れた手つきで人形を持ち上げ、指に絡めた。
すると、人形は丁寧にお辞儀をした。
「おお」
ピアノを奏でるように滑らかに糸が動き出すと、ぼろぼろで今にも崩れ落ちそうな人形はリムの手によって華麗に踊り始めた。
人形は人間のように繊細な動きを見せる。
「な、今はこんなに上達したんだ」
リムは得意げに鼻で笑った。
ロムは釘付けになった。
しかしふと疑問が沸く。
「リム、ここに何回くらい来たんだ」
「うーん、何回っていうと分かんないけど、二ヶ月半ってとこかな」
「そうか」
結婚式を終えてもなおまだこんなところに来て…
その後他愛もないことを長々と話し、その場を後にした。
そしてロムは帰り際にリムに聞いた。
「なんであんなとこに通い続けてるんだ?」
そう言うとリムは少し顔を曇らせた。
「彼女には家族がいない。親戚もいない。あるのはあの小屋と人形だけ。あんなに素晴らしい芸ができて、性格も温厚で、それなのにだ。一人で寂しくあの小屋に閉じこもっている」
リムは自分の手を見つめた。
リムの手は男と思えないほど繊細できれいだった。
しかし糸で切ったのか傷が所々気になる。
リムは顔を歪めロムに目線をやった。
「僕が彼女のそばにいてあげたい」
「ばか、マリア様がいるだろ」
「あれは表上の妻だ」
ロムは耳を疑った。
今なんて…
「僕はあの子を愛してる。双子の弟として分かってくれるだろう」
「そんなこと…」
「あの子は、王女マリアの妹」
「カナリアだ」
ロムは小さな小屋の扉の前に立った。
「カナリア。リムを返してもらうぞ」