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昨夜からファントヴァル家のあちこちで足音が響き渡る。
「リム様リム様!!」
「見つかったか!」
「いえ、まだ………。」
「リム様の身に何かあったら大変だ。早く探し出すんだ!」
使いたちは皆、あたふたと駆け回り彼の名を呼び続けていた。
その後ろで僕は静かに立って、眠い目をこする。
「何事だ」
「ロム様………!」
使いはヒゲ面の顔はしかっりと僕を見ながらこしを低く下げた。
僕はしかめっ面をして使いを見下ろした。
「どうした?僕は今機嫌が悪いんだ。もう少し静かにしてくれないか」
「申し訳ありません。しかし、リム様が現在行方不明でして………」
「行方不明?」
僕は驚く様子もなく平然と聞き返した。
その反応に使いは気にすることもなく、静かに言った。
「はい……、それとロム様宛てのリム様からの手紙がございまして」
「……リムからの…………手紙……?」
使いは僕に一通の手紙を渡し、低く頭を下げて黙り込んだ。
僕は封を切り中の一枚の紙を取り出して、ゆっくり目を通した。
「!?」
僕は目を疑った。
半信半疑で何度も文字を読み返した。
そして手紙を細かく引きちぎって、床に捨て、足で思い切り踏みつけた。
それは確かに、僕の兄のリムからの手紙だった。
だがしかし、僕はその手紙を信じることができかった。
「リム様………」
「これはロムが書いたんじゃない!!僕はこんなもの信じないぞ!!」
僕は声を張り上げ、歯を食いしばった。
唇に血が滲む。
使いは何も言わずに俯き、床に捨てられた紙切れを見た。
僕は使いに当たってしまったことに気づき、小さく呟いた。
「………す、すまない。とにかく、一刻も早く見つけだせ」
「分かっております……」
使いは静かに僕から一歩下がって、立ち去った。
それを冷ややかな目で見送り、僕は悔しまぎれに歯軋りした。
「リム……、なんでそんなに」
僕は一人の少女を思い浮かべた。
そして、その少女が目に涙を浮かべる。
何かを訴えるように口が震えた。「ヤメテ」と。
その映像は一瞬にして頭を駆け巡った。
「…僕は……僕は、どうでもいいのかよ、リム―――――」
騒がしい廊下で僕の呟きは誰にも届くことはなかった。