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ここはとある名高い者の豪邸。
ファントヴァル家の豪邸だ。
現在、食事中であり、大きく長いテーブルにずらりと輝くご馳走が並ぶ。
オーケストラによる心地よいテンポのワルツ。
それに合わせてくるくると回っている、貴族ども。
まったく、くだらない。
男と女で向き合って踊って…何が楽しいんだか。
今日はパーティーだ。
誰のパーティーかって?
僕がこんなくだらないことをするわけないじゃないか。
今日は僕の双子の兄の結婚パーティーだ。
ど真ん中で派手すぎるドレスを着た女と踊っているのが僕そっくりの弟、リム・ファントヴァル。
そして、そのダンスを暇そうに見ている少年こそが、この僕。
ファントヴァル、次男。ロム・ファントヴァルだ。
現在、十六歳。
十六にしては豪華な服を着て、今日このパーティーに参加している。
本当はどうでもいいこのパーティーで僕のそっくりくんは笑顔でいっぱい。
双子のくせにどうしてこんなにも違うのだろうか…。
パーティーは着々と進んでいく間、会場がざわめき始めた。
「なんだい、あの子。ぼろぼろの服で」
「リム様の結婚パーティーだって言うのに」
僕はステージのほうへ目を向けた。
そこには確かにぼろぼろの服を着た少女が立っている。
しかも手には古臭い人形。
その人形から細い糸が伸びていた。彼女は緊張しながらあたふたと周りを見回して一礼をした。
そして何を始めるかと思っていると、人形を手から落としてしまった。
焦りながら拾い上げ、急いで指に糸を巻く。
そして流れるワルツの曲に合わせて人形を器用に動かせ始めた。
ぎこちない動きを繰り返して踊るおどけた表情の人形に僕の目が止まった。
操り人形劇か…?
くだらない。
そう思いながらも僕は彼女の真剣な演技を真っ直ぐに見ていた。
彼女の操り人形はまるで人間のようだ。
しかし、僕はそんな人形よりも彼女の横顔ばかり見ていた。
一生懸命に人形を操る彼女を見ていると、なんだか笑えてくる。
僕は彼女のことを近くのメイドに聞いてみた。
「あぁ、それでしたら、リム様がパーティに招待した少女だそうです」
「リムが?それで名は?」
「…名前…ですか?…あ、いえ。町で知り合った方らしいですから、そこまでは…」
「…そうか」
僕は小さな演技に目を向けながらワインに似た赤い飲み物を口に含んだ。
「…………」
「…ロム様?」
「…ぐっ………ん何だッッ!これはッ!?僕の嫌いなトマトジュースじゃないかッッッ!!」
僕はワイングラスを乱暴にテーブルに置いた。
その騒ぎに人形を操る彼女は僕を見て薄く笑った。
結婚パーティが終わると彼女の姿はもうどこにもなかった。