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目が覚めたとき、もう日が昇り始めた朝。
太陽の光が眩しく輝き、小鳥のさえずりが聞こえる。
オレは重い体をゆっくりお越し辺りを見回した。
明るいせいか昨日の出来事が嘘のようだ。霞んだ廃墟に静けさが漂っている。
「オレは一体どうなったんだ………」
気付けばイフの姿がなく、昨夜の幽霊もいつの間にか消えている。
あの黒い闇に包まれた後、何があったのだろう。
それとも昨夜の出来事は夢だったのか。
呆然とするオレの足元に所々血で黒くなった一枚の写真が落ちていた。
その中に写っていたのは一人の少女。顔は昨夜の幽霊。もしくはイフだろうか。茶髪の女の子が幸せそうに笑っていた。
何年も前のものらしく、ぼろぼろで焼け跡がいくつもある。
オレはその写真を恐る恐る手にとって見た。
「………」
写っている少女は確かに昨日の幽霊だったが、まるで表情が違って幸せにあふれているようだ。
セピア色の思い出が詰まった一枚の写真。
「昔の私たちよ」
「…!」
背後から落ち着いた声が聞こえた。
「…イフ……」
イフは目を静かに光らせながら真っ直ぐににオレを見ていた。
「じゃぁ、この写真はイフ?」
「そうよ」
「でも何で”たち”なんだ?」
写真にはイフらしき少女が一人写っているだけなのに、なぜイフは昔の私”たち”と言うのだろうか。
「それは昨夜の少女。そして私だから」
「……?」
意味が分からなかった。
昨夜の少女でもあり、イフでもある。
「双子?」
「いいえ。私たちは一人よ」
二人が一人…。ますます意味が分からない。
オレは首をかしげて写真を見た。
「昨日の少女は過去の私。私は今の私。昨日の少女は取り残された心。私は少女から離れた幻。二人は元々一人だった。あの夜までは…」
「あの…夜……?」
オレはイフを凝視した。
イフも悲しそうな顔でオレを見て目を細めた。
「浜崎く~ん!!急にいなくなっちゃうから心配してたわよ~!」
突如後ろから甲高い声が降りかかった。
慌てて振り向くとメガネなこが下のほうで大きくてを振っている。その隣には高松たちも。
「おい!浜崎!心配したじゃねぇか!はやく降りてこいよ!!」
高松は自分が心配されていたことも知らず俺に向かって叫んだ。
「心配してたのこっちだし……」
そう言いながらもオレは心のどこかでほっとしていた。
あとから聞いた話では高松たちは白羽病院の前まで来たが誰も入ろうとしなかったので、そのあと三人で家に帰ったそうだ。
皮肉にも心配されていたのはオレのほうだった。
オレは高松たちの方に駆け出そうとして一度振り返った。
「あ……」
霧が晴れ、いつのまにか虹がかかっていた。
それからふと視線をよこに向けると、こちらを見ている少女がいた。
イフかと思ったが雰囲気がまるで違う。昨夜の幽霊だ。
少女はオレに向かってにこっと笑うと虹のほうへ消えていった。
“私、虹が大好きなの。いつかあの虹に…”
そんな声が不意に聞こえた。
「浜崎!置いてくぞ!」
「おう!今行く!」
オレは静かな白羽病院をあとにした。
セピア色の写真を残して。