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なんだか寒気がしてきた。
俺たちは白羽病院の前で佇んでいた。
入り口の奥はさらに暗く闇が覆っている。
「行きましょう」
白い少女(名前はイフらしい)が一歩を踏み出した。闇の中を照らす白い少女。
そういえばよく見ると、昨日の学校で見た白い幽霊に似ている気がする。
気のせいか……?
俺は少し気にしながらもメガネなこと共に少女を追いかける。
その時、遠くのほうでものすごい爆発音が聞こえた。
「なっ!?」
振り向くと下の方に停めてあったメガネなこの車が爆発していた。
近くの木々が爆風で激しく揺れる。
爆発が静まると車はもうぼろくずの山になっていた。
「あぁああ!私の愛車があぁあああ!」
メガネなこは大事そうに遠くのぼろくずの山を見る。
車は何度か爆発を起こしながら激しく燃え上がっていた。
ていうか、あの時点ですでに車じゃなくなってる。
「あれに乗ってたら一貫の終わりだった…」
「あれ呼ばわりしないでぇ!あぁ!せっかく…せっかく!」
「?」
「中古で一番安かったのに~~~!!!」
「………」
メガネなこは狂ったように頭を抱えて叫んだ。
てか中古で一番安いって、今言うことかよ。
「そんなこと言ってる場合ですか!高松たちを助けにいかないとでしょう!」
「う……」
俺の台詞にメガネなこは方をすくめて前を向き直った。
イフはそんなパニックにも目をくれず平然と歩いている。
本当に幽霊のように存在感がない少女。
俺たちはそれを追いかけるように闇の奥へと足を進めた。
それからどのくらい経っただろうか。
「おい!どうなってんだ!!高松たちはどこだよ!てか、ここどこだ!?」
「さぁ、迷ったわね」
「迷ったわね、じゃねぇよ!どうすんだよ!?」
俺たちは真っ暗な廊下で立ちすくんでいた。
闇で包まれた世界は先がまったく見えなく、何度も同じところにいったりきたりする。
「あああぁあ!本当に高松たちはいんのかよ!」
俺はもうここを出たくて頭をかかえて叫んだ。
そもそも俺より臆病なあの二人がこんなとこ入れるかっつーの。
「まぁ!こんな時は落ち着くことが大事よ!浜崎君!」
「この状況で落ち着けるか………って、すみません」
またついメガネなこにためで話しちまった。
とりあえず誤る。
「とにかく、まだ見てないとこ回りましょう」
「まだ見てないとこって、さっきも同じ台詞を言ってまた同じとこに戻ってきたじゃねぇか!」
「何もしないよりはマシよ」
イフはそう言ってすたすたと廊下を歩き出した。
俺はそれを目で追ってからため息をつく。
もう疲れて歩く気がでない。
「さっ、行きましょ。浜崎君」
「……はい…―――って、うぉわああ!!」
急なことに俺は裏返った声で叫んでいた。
メガネなこはそんな俺をギョッとした顔で見返す。
「ど、どうしたの?」
「あ……あれ!」
「え、何?」
俺は見てしまった。
メガネなこの後ろに、
「ゆ、幽霊……!?」
っぽいのが立っている。
メガネなこはどこどこと後ろを振り返り見回した。
俺はその幽霊らしきものがイフに見えたが、イフは俺たちの前の方にいる。
でも、イフと幽霊を見比べると。
やはり、そっくりだ。
「ね!ねぇ!浜崎君、幽霊どこ!」
メガネなこは怖がっているのか、楽しんでいるのか、弾ませた声で俺に聞いてきた。
「どこってすぐそこですよ」
「え?え?」
俺は幽霊がいる方に指をさしたが、メガネなこは気づく様子もなくきょろきょろする。
だからそこですって、と言いかけて俺は言葉を飲み込んだ。
まさか、見えてないのか……?
「……浜崎君!こっちに来て!」
誰かの声が俺の名を呼んだ。
イフだ。
険しい顔をしてこちらを見ている。
俺は走り出そうとしたがメガネなこのことを思い出して、呼ぶ為に振り返った。
「先生!イフが呼んで………先生?」
「早く!そこは危険だわ!」
後ろを振り向いたが、さっきまでそこにいたメガネなこの姿が見当たらない。
俺は一度しっかり後ろに体制を向け、見回した。しかし、気配すら感じない。
感じるのは冷たい空気。
「何してるの!早くその場を離れて!!」
「え?でも、先生が…」
その時、俺の前に立っていた幽霊が甲高い声を上げて笑い出した。
俺はゾゾッと寒気がした。
この世の者とは思えない恐ろしい笑い。
恐怖が一気に俺を染める。
「な…何なんだよ!?こいつ!」
「浜崎君、早く!!」
俺はその言葉に反射的に反応し、イフの方へ走り出していた。
頭上にちらちらと黒い影が見え、笑い声がどんどん迫ってくる。
今にも後ろから、あの幽霊が襲ってきそうで無我夢中で走った。
イフの元に着くと俺たちに黒い闇が襲ってきた。
その時、イフは何かを叫んだ。
「――――!」
大きな暗闇が俺たちを包む。
俺の精神は限界を超え、いつの間にか気を失っていた。
しかし俺はなんだか夢を見ていた気がする。
鏡を覗く少女がいて、鏡の前に立っている少女は笑っているのに鏡の中の少女は泣いている。
きっとそんな夢だった……。