――☆――
――殺す―――
「ただいまー。」
アイツが帰ってきた。
神楽はいっそ息を潜める。
「神楽ぁ?寝たか……。」
時隆は部屋の電気をつけてから、穴が空いたソファに腰掛けた。
小さな蛍光灯がパチパチと曖昧に点滅する。
時隆が座っているソファの裏で神楽は刃物をぐっと握り締めていた。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
神楽はすっと立ち上がり、刃物を振り上げる―――。
―――――ザクッ
鈍い音が小さな部屋に響いた。
しかし、神楽の刃物を持った手は震えたまま時隆の頭上で止まっている。
テレビの効果音だった。
外国のどろどろした映画だ。
画面に映る殺された人。
神楽の目に血の色が映る。
震えて止まった手が動かない。
何を震えている?何を恐れている?
何で、、、何で殺せないんだ!?
神楽の目は一瞬光を失う。
それからゆっくり刃物を持った手を下げる。
「……ん?あれ神楽。起きてたん?ごめんなぁ、また遅くなって。」
時隆はへらへらと頼りなく笑って頭をかく。
「別に。いつものことだし。」
冷たくはき捨てて自分の部屋に向かう。
「寝んのか?おやすみ。」
時隆の言葉を無視して戸を閉める。
刃物を持った手が汗ばむ。
どうして………
どうして殺せないんだ!?
何でへらへら笑ってられるんだ!?
どうして殺せない………何で、何で!?
「それは、あなたにとって大切なもの。だからじゃないの?」
誰もいないはずの背後から声がする。
「また、あんた?」
神楽は冷たい視線を向ける。
窓辺に座る、真っ白な少女。
真っ白な悪魔。
「だから、前にも言ったでしょ?殺せないなら、何で殺したいなんていうの?」