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―☆―



呂湖田菜子ろこたなこ


別名、メガネなこ先生。


年齢、29歳。


独身。





私のことだ。



私はこの古びた学校、夢有中学校に勤める教師。


夢有中学校といっても、こんな荒れて古びた学校に夢など有りそうにないのだが。


おまけに雨の日には天井から雨漏り、夏は扇風機も何もなく窓を開けても風なんか碌に吹いてこない。


階段は崩れかけているし、窓のガラスはほとんど割れている。



まさかこんな学校に夢など有るはずがない。


今はもう教師も辞めようかと最近は思い始めている。




そんなこんなで今日はまたやる気のないため息をついて廊下を歩いていた。




そして、ある教室の前を通りかかったとき。


「なぁ!聞いたか!2-D組の男子が肝試しで幽霊見たって!!」


ある男子がそう叫んだ。




「またか………」


私は肩をがくんと下げた。




”2-D組の男子が肝試しで幽霊を見た”


その台詞を何度聞いただろう。




今日はどこの教室でもその話題で持ちきりになっていた。


昨夜、学校で肝試しをした男子三人が校内から校庭を見たときに何か人の影のようなものを見たと職員室に駆け込んできたのだ。


三人は嘘をついているようには見えなかったが、まず夜学校に忍び込んで肝試しをすることが悪い。


そのことはきっちり叱ったが三人とも本気で怯えていたので保護者に迎えに来てもらった。





今はこのはなしで盛り上がっているのだ。



それを聞いてキャーキャー叫ぶ女子もいれば、バカにするように笑う男子もいる。



まったくどうしようもない……。



本当にどうしようもなかった。


なぜなら、その2-D組の担任は―――――





この私なのだから。




―――ガラッ




ドアを開けると錆びた音がした。


最初はこの音にうんざりしていたが今はもう慣れたものだ。




「はい、席に着く」



私は聞こえるように大き目の声で言ったが誰一人として気づいていない。


数人気がついたようだがまだクラスはざわめいてる。



幽霊が、幽霊がと生徒の声にまぎれて聞こえた。


やはりそれかと私はため息をついた。



「まったく…ほら!席に着きなさい!もうチャイムは鳴ったわよ!」



さっきより声のボリュームを上げて言った。


するとやっと私に気がついた生徒たちがばたばたと慌てて席に着き始めた。



私は教卓にプリント類を置き、生徒を見回した。



「センセ!浜崎たちが幽霊見たって本当なんですか?」


さそっく一人の男子生徒が聞いてきた。



「そんなこと私は知りません。それよりも、もうすぐ期末テストですよ。そんな話をしていないでテストに向けてしっかり勉強しなさい」


「ちぇー」



その男子生徒はつまらなそうな顔をしてそっぽを向いた。



「先生!浜崎君たちはどうしたんですか?」


「え?来ていないの?」



私は出席簿に目を向けた。


休むなんて連絡は入っていないはずだけど。



「死んだんじゃね?」


「幽霊に殺されたかもよ?」


「マジ?受ける~!」


男どもが口々にそう言って笑う。


私はそんなことを言う男子に冷たい目線を送った。



その時、教室の戸が勢いよく開けられた。




「おいこら」


「!」


「誰が死んだって?」


「お…おぉ!誰かと思えば生きていたか!」


「ばか、死ぬわけねぇだろ」



そこに立っていたのは浜崎だった。


息を切らしてドアにもたれ掛かっている。



コレをみてカッコいいと思わない奴などいるのかと思うくらい浜崎は美形だ。


しかも運動神経良し、頭も良し、ついでに性格も良し。



まあ、そんな生徒だ。



「遅刻ですか?浜崎君らしくない」


「すみません。寝過ごしました」



浜崎は寝癖の付いた髪をくしゃくしゃとかき乱した。


そんな行動ですらかっこよく見える。


教師がこんなことを考えてはいけないのだが、浜崎はいけてる!



私は席に着く浜崎を目で追ってしまっていた。


その目線に気が付いた浜崎がこっちを気まずそうな目で見た。



「…何ですか?」


「……え?あ、いや、何でもないのよ」



私としたことが。生徒をそんな目で見てはいけない。


浜崎は苦笑いをする私を怪しげに見ていた。



「ところで、浜崎君。高本君と宮松君を知らない?」


私は出席簿に目を向けながら言った。


すると浜崎は驚いたような顔をした。



「来てないんですか?」


「えぇ」



バン!



「浜崎君!?」



浜崎はいきなり教室から出て行った。


私はその後を追う。



「皆さん、次の授業の準備をしておいてください!」



私はそれを言い残すと浜崎が走っていったほうへ行った。




「浜崎君!!」


「先生…」


浜崎は自転車で校門を出て行こうとしていた。



「学校サボってどこ行く気!?」


「先生、止めないでください!」


浜崎は押さえつける私を振り払おうと暴れる。



「だめです!」


「二人が危ないかもしれねぇんだよ!」


「え…?」



浜崎はあまりにも慌てていたようでいつも先生には敬語で話すのだが言葉が無意識に出てしまったようだ。


それを思ったのか浜崎はすいませんと小さく呟いた。



「二人が危ないってどういうこと…?」


「それは」


浜崎は困ったように目をそむけた。






「昨日の幽霊のことです」



口を開いたのは浜崎ではなかった。


浜崎と私は驚いた顔で声のした上を見た。


学校の屋根の上に人影が見える。



影は黒いはずなのに、その影は白い。





「こんにちは。私はイフです。その浜崎君の言うとおり、早くしないと二人が危ないですよ」






そこには真っ白な花のような少女がいた。







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