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ツモが死んでからもうどのくらい経っただろうか。
マチカはベットから外を眺める。
木々の間から透き通った白い光が部屋に差し込む。
あの日から変わらぬ空。
また手を伸ばす。
「マチカ、武井君がお見舞いに来てくれたわよ」
「………寝てるっていって…」
もうあの日から学校に行く気にもなれず、ベットで過ごす毎日。
いつも学校の帰りに武井が家に来るがマチカ自身、また傷つくのが嫌だから会いたくはない。
ツモをまた思い出してしまうから。
「そうやっていつまで落ち込んでる気?たまには顔出して武井君と少し話しなさい。津望也君だって、そんなマチカを望んでない、きっと悲しむわ」
「やめて!」
マチカは布団から勢いよく起き上がって叫んだ。
「もう、思い出したくないの……忘れたいの……」
涙声で小さく言った。
それから静かに鼻をすすって俯く。
もう忘れたい。
こんな事件なかったことにしたい。
こんなことして、あの日のことを忘れられないのは分かってる。
でも今は何すればいいか分からない。
こうしているしか。
「ばか。忘れようとするから忘れられねーんだよ。それにそんなことしてたら余計に悲しくなるだろ」
静かで落ち着いた声がした。
聞きなれた声。
「………武井…」
マチカはあわてて涙を拭う。
いつの間にか入ってきた武井がドアに寄りかかってマチカを見ていた。
「すいません、勝手に入ってきてしまって。ただ、マチカと話したかったので顔を出さないなら俺から行こうと思って…」
「ありがとうね、いいのよ。ゆっくりしてって」
「はい、ありがとうございます」
マチカの母親はそういうと部屋から出っていった。
二人きりになった部屋に沈黙が流れる。
マチカは顔を少し上げたが武井と目が合うとそっと視線を下に向けた。
「いつまでそうしてる気だ」
マチカは黙ったまま布団にまた潜り込んだ。
武井は顔をしかめた。
「答えろよ、いつまでそうしてるつもりだ」
「……関係ないでしょ」
「関係なくねーよっ!」
丸まった布団がビクッと震えた。
「お前が逆の立場だったらどうしてた?関係ないで何にもしねーでいたか?」
「………」
武井はふうと小さくため息をついて頭をくしゃくしゃと掻き乱した。
「俺、どうしたらいいか分かんねーよ…」
マチカは背を向けたまま黙っていた。
武井はそんなマチカを悲しい目で見る。
「マチカ……」
そう言ってそっと近づこうとした。
「聞いたよ」
マチカは唐突に呟いた。
武井は足を止めた。
「え……」
マチカはすっと起き上がって武井に視線を向けた。
それは睨んでいるような目だった。
でも悲しく光る目でもあった。
「ツモが死んだ理由……」