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ツモの死から一週間過ぎた今日。
教室にはもう使われない席ができた。
花束がツモの代わりに今はそこにある。
先生はその花の前で泣きそうに顔を歪めながらみんなに向き直った。
クラス全員がツモの死を悲しんだ。
だが武井は違った。
同情はしていたが心から悲しんでいる様子はまったく見られない。
ツモの座っていた席を冷たい目で見やっていた。
そして武井はその隣の席にも目を向けた。
マチカの席。
ツモが死んでから学校に来なくなってしまった。
家に見舞いに行っても中に入れてもらえない。
あれから部屋にこもりっぱなしだとマチカの母親は言っていた。
武井は毎日マチカに会いに行くがツモがいなくなってから一度も顔を見せない。
「こんなじゃあ、意味がないじゃねーか」
武井はマチカの家の前で呟いた。
こんなんじゃツモの死んだ意味がない。
意味がない。
命の代償に願いが叶うんじゃなかったのか。
こんなはずじゃ。
「そうね」
不意に声が聞こえた。
彼女だ。
真っ白な。
「確かにあなたは願った。でも、それで急にあの子が心を変えると思う?」
白い悪魔悲しい目で武井を見ていた。
「どういうことだ?」
武井は彼女を凝視した。
彼女は小さくため息をついて武井のそばまで歩み寄った。
「どんなことをしても手に入らないモノがあるの、分かる?」
武井は驚いた顔をして彼女を見た。
武井にはなんとなく分かった。
「人の心?」
「そう」
彼女は無表情に答えた。
「……そんな」
遠くの空で誰かが悲しい顔をして話をする二人を見ていた。
あの日死んだはずの誰かが。
「…マチカ……武井……」