――☆――
町の端にある二階建の小さな病院。
昔からある病院で所々錆びていたりして雨漏りもひどい。
幽霊が出るとか変な噂もあるが、マチカは他の市の病院より悪霊はかなり少ないと言っている。
そんな病院の近くには広い草原があって、そこも心霊スポットなどで有名だ。
長く伸びた草は風に揺れられてカサカサと心地よい音をたてている。
「ここにそんな悪霊がいるわけないじゃん」
マチカはそう呟いて草のうえに寝転がり背後からついてきた二人に顔を向ける。
一人は武井悟夢。車椅子を押してゆっくり歩いてきた。
車椅子に乗るもう一人の津望也はマチカに向かってはにかんだ。
「マチカ、見舞いに来てくれてサンキューな」
「うん!ツモに会いたかったから」
久しぶりに会えた彼にマチカは精一杯笑ってみせた。
でも、引きつっていたかもしれない。
「お、おい、ツモ!オレは!?」
自分に何の感謝もない津望也に武井は慌てた様子を見せた。
「ん〜、何が〜?」
「何がじゃねぇよ!何だよ!せっかく来てやったのに」
軽く凹みながら武井は津望也に腹を立ててふくれた。
「誰が見舞いに来てなんか言ったぁ?本当はマチカについてたかったんだろ?この盗人!」
意地悪げにそう言って武井のおでこを指先でぺしっと叩いた。
「痛っ!ふざけんなよ!誰があいつなんかにくっつくか!んなわけねぇだろ!?」
「そーだといいねぇ、くれぐれもマチカには手をだすなよ」
「……てめぇ、だすわけねぇだろ!」
「はっはっは〜」
マチカはそんな二人の会話を聞き流しながらら目を閉じる。
風に揺れる草が頬を撫でて何だかくすぐったい。
ずっと遠くのほうから吹いてくる風に耳を澄ませて深呼吸をする。
昔からここはマチカの特等席。
暇なときはいつもここに来てソラを眺めている。
ソラは別に好きではないがここには思い出がたくさんあるから。
そして、これからも―――
―――――バタッ
何かが倒れた音が聞こえた。
その何かはマチカに覆いかぶさるようにして倒れいた。
「………え?」
「武井っ!」
倒れたのは武井だった。
「武井!どうした!?しかっりしろ!」
津望也は車椅子腰に大声で叫んだ。
しかし、武井はぴくりとも反応を見せない。
目がうっすら開いていてその先にはソラがあるだけ。
「……武井…?ねぇ、武井!!」
マチカは武井を揺すって叫んだ。
しかし、やはり反応は見られない。
「ツモぉ、武井が……!」
「分かった!今、誰か呼んでくる、マチカは武井を見てろ!」
そう言って津望也は勢い良く車椅子で走っていた。
マチカはただ呆然として、武井を見る。
そっと手をのばし武井の前髪を撫でる。
「………武井」
その時だった。
車のブレーキ音と共に何かが弾け飛ばされる音が聞こえた。
その音に反射してマチカは顔をさっと上げて息を飲んだ。
嫌な予感がした。
「ツモっ!!!」