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「こらああぁぁぁああ!!」
古びた学校の校舎に野太い声が響く。
天辺がつるんと眩しく光る頭をした教師が眉毛を山なりにしてちっこい女子生徒を怒鳴り付けていた。
「鈴木!これで何回目だ!」
「すみません…道行くおばあさんに道を聞かれて…」
「はい!嘘!」
「すみません」
鈴木と呼ばれたショートヘアで小柄の生徒は肩をすくめて小さく言う。
毎度毎度、怒られては何かくだらない言い訳をしてクラスの笑い者になっていた。
犬に追い掛けられたとかナンパされたとか車に撥ねられそうになったとか、ひどい時は空から宇宙人がやってきて連れていかれそうになったと、とにかくありえない言い訳が多い。
そしてそんな都合良く事件が起きるか!とよく友達にダメだしされる始末。
「お前な!今は大事な時期なんだぞ!受験だ!受験!分かってるのか!?」
「…はい…すみません」
受験なんかどうでもいいじゃんと秘かに思う。
それが顔に出ていたのか先生はそのあとに長々と受験のことをぺちゃくちゃ話していた。
それから長い説教を終え、というよりもチャイムがなって、鈴木マチカは自分の席に腰をおろした。
最近、寝不足で肩がこる。
「ふぅー」
「おす、お疲れ!」
頭の天辺を思いっきり叩かれた。おかげで目が覚めた。
同じクラスメイトの武井悟夢。
いちいちマチカの言い訳にダメだしするのはこいつだ。
ムカついて殴り返そうと思い振り返えったがあるものに目がいってパンチは出せない。代わりに冷や汗が出た。
「・・・武井!」
「ん?どうかしたか?」
「やややや・・・やばいよ・・・!」
「は?」
何のことか分かっていない武井は首をかしげる。
しかしマチカには見えていた。
武井の体のあちこちにうじゃうじゃと憑いているものを。
「・・・・・・悪霊がいっぱいついてる・・・!」
「マジか・・・!」
そう、彼女、鈴木マチカは人には見えないものが見えてしまう。
つまり霊感がかなり強いという事である。
昔は霊感0でまたく見えなかったが、ある出来事を境に急に見えるようになってしまったのだ。
武井は慌てた様子で体のあちこちを叩きはじめた。
そんなんじゃ、悪霊はとれないっつーの。
冷たい目で見ていると武井はその視線を感じたらしく、ぱたぱたと叩きながらマチカの肩を掴んだ。
「頼む……!とってくれっ!」
「えー、どうしよかっな」
ちょっと意地悪に言ってそっぽを向く。
このくらいしないと面白くないから。うん。
すると武井はマチカの肩に置かれた手にぐっと力を込めて唸った。
「何でもするから……頼む……!」
マチカはその言葉を聞き逃さなかった。
そして怪しい笑みを浮かべて武井に目を向ける。
「何でもしてくれるのー?」
「あ…いや……何でもと言っても…できる限りの…」
「じゃあ、ツモのお見舞いに行こ!」
「……え?…ツモの…」
「そうだよ。ここ最近、武井会ってないよね?だからさ、今日の帰りに行こ!」
「…………」
ツモ。
本名、久荒津望也
マチカたちと同じ中学3三年。
一ヵ月前にトラックとの交通事故にあって骨折をしてしまった。
打ち所が良かったため、死には至らなかった。
そして津望也はマチカの彼氏でもある。
付き合って三年目。
交通事故のことを聞いたとき、マチカはかなりのショックを受けて、食物も喉に通らなかった。
そんな中、マチカを救ったのが武井だった。
武井はマチカのそばでいつも笑って見せていた。
大丈夫だと何度も言ってくれた。
優しく包んでくれた彼はまるで本当の親のようだった。
そのおかげてマチカは今、こんなにも笑顔でいられる。
「ね!行こうよ!何でもしてくれるんだよね!」
マチカは武井に迫るように言った。
「…………わかった」
武井は少し顔を引きつらせながら返事をした。
それにマチカはまったく気付かずに傍らで笑っていた。
しかし武井は怯えていた。
自分のしている罪に心を震わせながら。