――☆――
早朝。
看護士たちが病院の廊下を走り回る足音が響いていた。
小さな白銀の少年を囲む医師たち。
「斎堂先生!意識がありません!」
「分かった。早く、運びだして!」
周りで大勢の人が何かを叫んでいる。そんなような気がした。
ただ息が苦しくて、何も考えられない。
苦しい。
「ぼっちゃま!ぼっちゃま!?」
田中は運びだされるメアにひたすら呼び掛けていた。
しかしそれにメアはまったく無反応。
ただ苦しそうに息を荒くしていた。
「ぼっちゃま!じぃは待ってますよ!!しっかりなさいませ!ぼっちゃま!!―――」
それからメアは一つの白い部屋に運ばれた。
銀色に光る器具がたくさん置いてある。
メアは大きなライトに照らされて横になっていた。
それをイフは天井から見下ろすようにして見ていた。
メアはゆっくり少しだけ目を開く。
見えないはずの目は見えているような気がした。
イフだよね…
そこにイフがいる。
見えなくても見える。
僕、どうなるの…
恐いよ
死んじゃうのかな、僕
独りはいやだよ
ねぇ、イフ……
心の叫びにイフは苦痛の表情を浮かべた。
何も見えていないはずのメアと一瞬目があう。
メアはまるでイフが見えているかのように視線をずっと向けている。
それにイフは悲しい表情で顔を背けた。
…イフ……待っ…………て………よ……………
それからメアは静かに目を閉じた。
そして、医師『斎堂神楽』はメスを手に持つ。
「はじめます―――」
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"手術中"というランプの前で田中は手をあわせ震えていた。
メアの両親とは連絡とれずこれからどうするべきなのか分からなくなり心配と不安に襲われていた。
「私が悪いんだ。私が悪いんだ。もっとしっかりぼっちゃまを見ていればこんなことには……」
田中は悔しそうに顔を歪ませながら涙を流した。
それを隣で見ている少女がいた。
真っ白な少女。
真っ白な悪魔。
泣いていた。
それから手術後、白い少年は永遠に目を覚まさなかった。