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波の音がない。
真っ白な部屋にメアは寝ていた。
どのくらい寝ていただろう。長い間寝ていた気がする。
「ぼっちゃま。お目覚めになりましたか?」
「田中……ここはどこ……?」
目が見えないメアでも波の音がしないことから海辺に建つ自分の家ではないことが分かった。
「ここは病院でございますよ。」
「病…院……?」
あのあとメアは急な高熱をだして家で看病していたもの、熱は一向に下がらず病院につれてきたという。
今は点滴を射っているので熱は下がっていた。
なんだか頭がぼーっとする。
体のあちこちの関節がひどく痛い。
「今日はここで安静にしていてください」
田中はそういうとそっと病室から出ていった。
静かな部屋にメアは一人踞る。
窓から見える空には星が瞬いていた。
だがメアはそれも見えない。
真っ暗で真っ白。
メアははっと顔を上げて手を周りにかざしはじめた。
と、何かの感覚。
あの少女が身につけていた古くさい大きなヘッドホン。
それをメアは耳に当て、スイッチを入れた。
ゆっく流れ出すメロディー。
あの日を思い出させるメロディー。
また泣きそうになる。
昔からこの曲は聞いていた。
波の音と共に。
二人で。
そして今も流れる。
このメロディー。
―――♪
「イフ、いる?」
メアは静かに言った。
それからすぐに小さく笑う声が聞こえた。
「なーんだ。分かってたのね」
「うん。なんかいるような気がした」
メアはヘッドホン越しに聞こえるイフの声に嬉しそうに笑った。
イフはその笑顔に答えるように笑い声を漏らす。
「いつも、そんな風に笑えればいいのにね。」
「え……?」
イフの呟きをメアはよく聞き取れなかった。
「うぅん。何でもない」
「そか。でね、聞いて聞いてー」
それから数十分間が過ぎイフはこんなことを切り出した。
「もし大切なものを誰かのせいで急に失ったら、きみはどう感じる?」
メアは一瞬、黙り込んだ。
「………サリナ」
「…?」
「僕は、多分もう何も感じないと思う。」
メアは小さく言った。
「大切なもの、もう無いから」
「……………そう」
イフの声はすごく優しくてどこか寂しげであった。
そこから会話が途切れた。
急にイフの気配を感じなくなった。
小さな病室にまた独り。
ヘッドホンから一定のリズムで音が聞こえてくる。
静かにそれに耳を傾ける。
また独りで。