―――☆―――
波の音。
「メア!早くー!」
「待ってよ!サリナ!先行かないでよ!」
二年前、この浜辺に二人の兄弟がいた。
サリナと呼ばれた少女は麦わら帽子からはみ出た白銀の髪を揺らして海沿いを走っていた。
「メアー!こっちだよ!」
早く早くと叫んでもう一人を大声で呼ぶ。
もう一人の少年は手を前にかざしてあたふたと覚束ない足をゆっくり進めていた。
「もう焦れったいなぁ。」
「サリナ、待って……――うわっ!」
少年は足元にあった枝につまづいて勢い良く転んだ。
それを見た少女はまったくと呟きながら少年のところに小走りでいった。
「ほら、立てる?」
「う、うん……………―――わっ!」
立ち上がろうとした、刹那。またもや、勢い良く転んだ。
今回は転んだよりも滑ったと言うほうが適切か。
少年は仰向けになって頭をかるく撫でた。
少女はそれを可笑しそうに笑っていた。
陽が沈もうとする時間。
少女と少年は海辺に座って夕日を見ていた。
「綺麗……。」
少女は目を輝かせて呟いた。
それから、古くさい大きなヘッドホンを取り出してスイッチを入れた。
ヘッドホンからメロディが漏れて静かな浜辺に響き渡る。
波の音と共に流れる。
「サリナ、それ好き?」
「…うん…………。なんだか落ち着くの……。」
「ふぅーん。」
少年はいつもこのメロディに耳を傾けていた。
少女と二人で。
「ねぇ、サリナ。」
「んー?」
「世界ってどう見えるの?」
「え〜、それはね、」
少女はメアの耳元で小さく囁いた。
そこで場面は一変する。
「きゃーーーーっ!!」
「……!」
波の高鳴りと共に少女の悲鳴が聞こえた。
「…サリナ……っ!?」
少年はすくっと立ち上がり少女の名前を呼びながら暗やみをさ迷った。
「サリナーっ!サリナーっ!!」
いくら呼んでも返事が返ってこない。
返事が返ってこない。
「サリナっ!サリ……―――うわぁっ!!」
少年は暗やみをさ迷う足を滑らせた。
「……えぐっ……サリ…ナ……」
少年が足を引っ掛けたものは少女が身につけていたヘッドホンだった。
少年はそれをぐっと握り締めて涙を拭った。
「……待ってよ……僕…を……置いて…いかないで………」
「サリナーーーーっ!!」
波の高鳴りと共に少年の声が響いた。
そして少年は波の高鳴りと共に少女を失った。
二年前、この浜辺に二人の兄弟がいた。
そして少年は少女を失った。