――☆――
波の音。
真っ白な世界。
メアはいつも通り浜辺に座ってヘッドホンから流れる音楽と波の音に耳を傾ける。
目の辺りまで伸びた白銀の髪が潮風に吹かれてなびく。
夕日が美しく輝いて海と空を茜色に染めてる。
メアは何も見えていない。
メアの世界は真っ白で何もない。
目に見えるものは何もない。
ただ、波の音。
「その目は何を見ているの?」
不意に真っ白で透き通った声がした。
「……………イフ?」
「久しぶり。」
波のメロディーに紛れてイフが言う。
とたん、メアはニコッと頬笑んで顔をあげた。
「うん。久しぶりだね。」
笑ったメアの顔は夕日に照らされて赤く染る。
イフは真っ白で一人だったメアの世界にそっと入り込んでくるようだった。
「一緒にいてもいい?」
イフの問いにメアは深く頷いた。
それから、少し沈黙が流れてメアは隣に微かな気配を感じるようになった。
「綺麗な景色ね。」
「………うん。僕は何も見ないけど……。」
メアは少し寂しげに呟く。
それをイフは悲しい目で見ていた。
「いつも、ここに来るのね。」
「うん。」
「ここに来て一人で何してるの?」
「…………」
メアは黙り込んだ。
いつも何をしているか。
静かに世の中の音だけを聞いて、何をしているのか。
メアはいつも思い出す。
思い出してしまう。
あの日のことを。
メアは俯いて黙ったまま。
「寂しいのね。」
その言葉にメアは小さく頷く。
寂しくてどうしようもないこの心。
忘れられたこの心。
メアは音をたてずに静かに泣いた。