屋根裏の秘密基地から覗く月は朱色に染まっていた
この作品は「第4回小説家になろうラジオ大賞」応募作品です。
子どもの頃から僕は夜が好きだった。
多くの人も動物も眠っていて静寂で、まるで僕だけがいるような錯覚になるから。
だから夜中になると布団から出て、自分の部屋の押し入れの屋根裏に静かに上がると、小窓から空を眺めていたりする。
その話を学校で幼馴染に話すと、興味津々で聞いてきた。僕が覚えている限りそれが切っ掛けだと思う。
それ以来幼馴染の凛花が僕の家に遊びに来る事が多くなり、お泊りもするようになった。
当然凛花の目的は屋根裏なのは間違いなく、始めて一緒に屋根裏で過ごした日はとても新鮮で、今でもよく覚えている。
そして今日。僕たちにとって大事な日。
「祐介ー。家に帰ったら速攻で家行くからねっ」
帰りのHRが終わると凛花がワクワクを抑えられない顔で、僕の席の前まで来た。
「うん。お母さんたちには今日の事伝えてるし、大丈夫」
「ねぇ今回の皆既月食って、何か特別で四百年ぶりとかなんだって。知らなかったでしょ?」
凛花は僕に対し自慢げに言ってきた。
「知ってたよ」
「え~、本当かなぁ。怪しいなぁ~」
凛花が僕の目と鼻の先まで近づいて、口を尖らせながらムスッとしている。そんなに側に来られたら少し気恥ずかしく、僕は咄嗟に自分の席を立つ。
凛花の長い髪からほのかな甘いシャンプーの香りがした。
「と、とにかく凛花も早く家に来てね。待ってるから」
「はーい。それじゃまた祐介の家で!」
急いで学校から帰り着替えてしばらくすると、家のインターホンが鳴った。
そしてお母さんが凛花を中へと迎え入れ、彼女が元気な挨拶を済ませると、すぐに僕の部屋へと階段で駆け上がる音が聞こえてくる。
「祐介入るよー」
言うと同時に凛花が僕の部屋へと入って来て、大きなリュックサックを置いた。
「それは?」
「えへへ、見て驚かないでよ。じゃーん! 天体望遠鏡!」
「わぁ、凄い! でも高いんじゃないの?」
「そんなにパパは高くなかったって。子ども用みたい」
それから夜になるまで二人で遊び、
「そろそろ屋根裏の秘密基地に行こっか」
二人は押し入れにある天井裏への入り口を押し上げて、中へと入る。勿論望遠鏡も運んだ。
そこは二人だけの秘密基地。そして凛花が小窓を開け三脚に望遠鏡をセットし、月へと調整していく。
「見えたよ、月! わぁ……本当に赤色だぁ。ほら祐介も」
「うん。あっ……、本当に赤い」
「綺麗だね。来年も一緒に月食見ようねっ」
僕が振り向くと凛花の頬は、ほんのり朱色に染まっていたのだった。