何もない僕だから逆に生み出せた異世界スキル冒険譚
何も持ってないハズの若者だと思っていた。
運命、神がもし平等なら、僕には何があるのか?
あんな事、こんな事、期待に鼻の穴を膨らませつつ、
ムラムラから始まる異世界生活。ここに始まる!?
ムラはじ制作委員会
2022.6月スタート
東京へ向かう夜行列車に乗ったはいいが、行く先は特に決めていなかった。
鬼滅のように鬼が出るでもなく、恋が始まる予感も感じない色褪せた椅子のシミを見ながら、それでも新しい何かが始まる予感を感じる。
意味のわからないムラムラを衝動に動ける事は、若さ故の特権かも知れない。
椅子のシミを見ていると、様々な妄想が働く。
世の中の恥ずかしいシミを全てランキングしていくと、
僕が作った幾つかのそれは、どれぐらい価値があるだろうか?
奮発して買ったマスカット生搾りジュースを飲みほすと、背もたれに身を預け、瞼をゆっくり閉じる。
若い女の子や、若い女の子にモテる男子なんかは、夜行列車や夜行バスで、ネズミのいる夢の国とか行くんだろうなぁ。
この電車にもシートを向かい合わせにして盛り上がってる若者グループがいる。
お金があったり、ガールフレンドがいるだけで僕からしたら勝ち組だ。
僕だって四万もあれば、誘えたガールフレンドはいる。
いや、…たぶんいる。
うーん、家族。妹でもオッケーなら、来てくれたと思う。
しかし妹すらいないのが現実で、運命の神様がもしいるなら、僕は金運と恋愛運以外のものを、たぶんプレゼントされて産まれてきたんだろう。
「神や運命が平等なら、きっと僕には代わりに凄い隠れギフトがあるハズや」
開花したならそれはもう凄い事になるだろう。
若者の特権、根拠のない自信も僕をムラムラさせるには充分だった。
意味不明な興奮をよそに心地良い揺れと程良い暗さが、僕の意識を沈めていった。
「すみません」
え?
可愛い感じの女性の声きたー!?
あれ寝ちゃってた?
わ、恋とか始まるヤツかな?
あれ?今日かっこいい服とか来てたっけ?
…たしか時間がなくてボロボロのTシャツにサンダルだっけ?
えー、人生の数少ないチャンスだったのに、リーチ発展の可能性は3%ぐらい?
一瞬で沢山の思考が頭を走る。
ゆっくり目を開ける。その瞬間に良い香りが鼻腔に届く。
さらに期待が高まる中、声主に視線を向けた。
少しカッコつけて雑に伸びた髪をかき上げながら良くない視力を全集中させる。
暗闇に目が慣れるのを待つ間、場繋ぎで一言。
「なんですかぁ?」
「ぎょふ」!?…しかし昨日から誰とも話してなかったので声が出ず。
唇が割れ、さらにゲップが出てしまった。
先ほど飲んだ生搾りグレープジュースの香りがほんのりしたのがせめてもの救いだ。
「あの大丈夫ですか?」
ん?何が?