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6話 視察へ その1


「やあ、突然、訪ねてきてしまって済まない、アリサ嬢」


「アルベド様、いえ、そんなことは……」


 その日、アルベド第三王子殿下が私の部屋を訪れていた。王子様に呼び出しを受け、私達がハンニバルに向かうのならあり得るけれど、逆は異例だ。しかも、男爵家の屋敷にお越しになるなんて……。お父様達とは挨拶を済ませて、私の部屋へと来ているみたいだけど。


「アリサ、必要以上に驚く必要はないと思うぞ。アルベド様もそれは望んでいないようだしな」


「グレス兄さん?」



 アルベド様のすぐ後ろにはグレス兄さんの姿もあった。兄さんはアルベド様が今日来ることは分かっていたのかしら? そうなると予定を組んだのは兄さんということになりそうね。


「今日はどうしてもアリサ嬢に言っておきたいことがあったのでな」


「私にでしょうか?」


「うん」


 私はアルベド様を部屋に設置してあるソファに誘導した。3人とも座ってから、使用人達が紅茶を配り始める。話の続きはそれからだ。


「これは非常に美味しい紅茶だな、ありがとう」


「勿体ないお言葉です……王子殿下」


 アルベド様に声を掛けられた使用人は戸惑っているようだった。王子様に話し掛けられたのだから当然だけれど。


「まあいい、話を戻そうか」


「はい。私に伝えるべき内容というのはどういった内容なのでしょうか? わざわざ、アルベド様がお越しになるような内容というのが気になります」


「本来なら君たちを宮殿に呼んでも良かったのだが、アリサ嬢がどういう暮らしをしているのか気になってしまってな。グレスに頼んでこうして訪れさせてもらったというわけだ」


「私の生活、でございますか?」


 意外な言葉がアルベド様から返って来た。私の私生活を覗いても特に面白いとは思えないけれど……どういうことだろうか?


「バルカン殿との婚約破棄は重大なものだっただろう? 生活が一変していないか気になったのだが、特に変わってはいないようだな。最初の状態を知らないのでこういう風に言うのも変ではあるのだが」


「そういうことでしたら、シドニー家での生活の変化はありません。バルカン様の屋敷からは追放されたので一変したと言えますが」


「確かにその通りだな。今回の件はそのバルカン殿に関連してのことだ。私の部下に調査を頼んだところ、どうもアリサ嬢が関わっていたマリンキー地方各地の事業でトラブルが起きているらしい」


「マリンキー地方……バルカン様の治める土地ですね。そこでの事業でトラブルですか?」


「ああ、そういうことだ」


 すぐに思いつくのは河川のレジャー施設の設計や街道の交通網の整備など。私は1年間、必死で勉強して現地に何度も足を運んでいた。そこで問題となる事柄や人材投入などの意見を述べたりさせてもらったけれど……。


「トラブルというのは具体的にはどんなことが起こっているのですか?」


「具体的にはそこで働いている作業員が、仕事をボイコットしているらしいのだ」


「仕事をボイコット……? まさかそんなことが」


 考えられなかった。私は各事業の様子を1年間見て来たけれど、現場監督の人を始め、非常に真面目な人が多かったし。意味もなくボイコットをするなんてあり得ない。


「アリサが驚くのも無理はないだろう」


「ええ、グレス兄さん。信じられないわ」


「一度、時間を作って視察に行ってみないか? アルベド様もそのつもりのようだしな」


「視察……その現場へ向かうということよね?」


 グレス兄さんは頷いていた。婚約破棄された相手が治める土地に向かうというのは変な話だけれど、アルベド様が一緒なら問題ないのかしら? まあ、現場がどのようになっているか気になるからね。


「話は纏まったかな? 試しにリューガ河川のレジャー施設へ行ってみようと思うんだが、アリサ嬢も来ないか?」


「そ、そうですね……同行しても宜しいでしょうか?」


「ああ、もちろんさ」


 今さら視察に行くのは気が引けるといえばそうだけど……ボイコットの原因は知っておきたいという自分がいる。アルベド様やグレス兄さんも一緒に来てくれるようだし、大丈夫よね。


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