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12話 話し合い その1


「こちらでよろしいでしょうか?」


「うむ、やや狭いが問題ないだろう」


 ジョージさんによって案内された個室。バルカン様の言う通りそれほど広くはないけれど、私達が話をする分には問題ない広さだった。パイプ椅子が置かれており、それがやや粗末だったけれど仕方ないと思う。元々は作業員の人達の休憩所かなにかだろうしね。


「いや、十分な部屋を割り当ててくれて感謝する。急に済まなかったな」


「いえ、とんでもありませんよ、王子様」


 私達は用意されていたパイプ椅子に座ることになった。バルカン様とリッチさんとは丁度、対面になる形になっている。


「あの……アルベド王子殿下……その、お話しというのは」


「そんなに緊張する必要はないだろう、バルカン殿。私は父上ではない、あくまでも第三王子でしかない身分だからな。場合によっては貴殿よりも立場が低くなることもあるだろう」


「ご冗談を……ははは……」


 アルベド様なりの冗談の言葉だったのだろうけれど、バルカン様には通じないようだった。まあ、立場を考えれば当然かもしれないけれど。


「では、バルカン様。ジョージ殿から言われた交渉の為の要求を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


「ぬっ、グレイ殿……」


 明らかにバルカン様の表情が変わった。聞かれるとマズイ事柄なのは明白だ。まあ、先にジョージさんから聞いているので今さらではあるのだけれど。


「そうだな、バルカン殿。聞かせて貰えるか? よもや話さないとは言うまい?」


「も、もちろんでございますよ……王子殿下……」


「では、バルカン殿も本題を望んでいるようだし、そちらの話に注力しようか」


「ほ、本題ですか……?」


「ああ、それを望んでいるのだろう?」


「は、はい……確かにその通りですが……」


「では、アルベド様。すぐに本題の話へと移行しましょうか」


 グレイ兄さんからの無慈悲な問いかけ……バルカン様は頷く以外の選択肢がなかった。


「そ、そうですね……では、本題へと移行しましょうか」


「私としてもすぐに本題に移ってくれた方が助かる。無駄な話し合いは好きではないのでな」


「アルベド様……」


 明らかにバルカン様の表情が濁っていた。アルベド様に対する敵意にも見えるけれど、伯爵の身分ではそれ以上は言えないということかしらね。


「それで? 現場監督との話はどうなったのだ? ボイコットの原因やそれを改善する要求があったのだろう?」


「は、はい。その通りです……内容としましては……その」


 私達は既に知っているけれど、敢えてバルカン様の口から言わせるようだ。予想通りと言うか、バルカン様は言いにくそうにしている。私達の後ろではジョージさん本人も見ているのだから猶更なのかもしれない。


「速く言ってくれないか?」


「申し訳ありません、王子殿下。要求された内容と致しましては、従業員の賃上げやアリサへの謝罪、それからアリサが提案していた各事業案を採用するように、と。余りに無理難題が多く焦っていたところであります」


 無理難題……そこまで無理のある要求には聞こえない。しかし、バルカン様はそれを無理な提案として押し通す気満々のようだった。アルベド様が突っ込まなかったら、要求内容すら開示せずに事を運んでいたかもしれないわね。


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