転生特典で大賢者!、、、え?そっち?
「お先失礼しまーっす」
タクヤはるんるんで帰路へ付く。
先週頭にローンチしたゲームは特段の不具合もなく稼働し、早速猛者共が闊歩している。
タクヤの仕事は本格MMO RPG「テスタメント」の開発、その世界構造の設定であった。まぁ、希望としてはストーリーにも関わりたかったのは否めないが、プレーヤーが出来ること、トリガー、結果への反映ロジック。そして世界に起こる全現象の制御。その全てを開発担当したタクヤたった一人で完結させていた。ぶっちゃけ人外の才能を持ったタクヤにもこれ以上は無理であった。なぜなら、趣味の時間が無くなるから。まぁ、仕事も半分趣味の様なものだが、余暇があるからこそ、良い仕事が出来るとタクヤ達は考えている。
タクヤ達の作っているゲームの内容は、剣と魔法と錬金術の世界でいくつかの陣営に分かれたプレーヤーが、自由に活動をしていく、というもの。覇王を目指すもよし、錬金術や魔術を極めてもよし。この会社はRMTは推奨していないが、タクヤ個人としては、時間や手間をお金で解決するのはありかだと思っている。というよりもタクヤの実益を兼ねた趣味がゲームアイテムやアカウントのRMT。そして今タクヤが取り組んでいるのは、業界最大手のMMO RPG「グランワールド」。ジャンルはほぼテスタメントと同じだが、音楽やイベントの質、キャラビルドなどは流石の大手で、課金のしがいのある出来になっていた。
タクヤはそこで複数のアカウントで活動し、それなりに名の通ったプレーヤーだとして知られている。メイン垢は殲滅型後衛職。サブ垢は生産職でこちらでRMT用のアイテムを確保していた。
一人で同時に操作してるので、二人一組だと思って疑ってすらいないヒトも多い。なにせチャットも極自然に二人分こなしているのだから。そして、今日は久々の大型アップデートが開ける日。つまり、新しい何かが始まると思われた。そのため、今朝からずっとタクヤはソワソワを隠せずにいた。
「いやいや、ただのライバル視察ですよっと」
誰にともなく言い訳をし、もうすぐ始まるイベントに参加すべく自宅のドアを開けた。
「ようこそ。掛けてちょうだい。」
自宅のドアを開けた姿勢でタクヤは思考停止し固まった。なにせ、そこは真っ白の部屋で、まるで面接会場のような机と椅子のみが配置されていた。
慌てて振り返るも、潜ったドアも無くなっている。
「大丈夫。悪い様にはしないわ。
まずは座って話を聞いて欲しいの。」
クールビズを意識したような少しだけ着崩してはいるものの、明らかに上等なスーツを着たメガネ付き秘書系美女に対して、ジーパン、Tシャツのラフな格好のタクヤはおずおずと席に付く。
「担当直入に言うわ。スカウトです。
貴方にはこちらの世界に渡ってもらい、賢者の卵を担って貰いたいの。そして後々には森羅万象として世界に貢献して貰いたい、と考えています。」
その女は、名をテスターといい、神のようなものと名乗った。
ざっくりまとめるとテスター達が管理する世界はまだ幼く、先輩である地球の神に相談をした。そして地球を担当している神々の1柱の融通することは難しいが、才能ある魂がそれなりに地球には育って来ている。なので本人が了解すれば地球の神の負担で能力を付与して送り出す事が取り交わされた、との事だった。
「なので、貴方が了解頂ければ、こちらの世界で活躍頂ければと思いまして。」
「えーっと、もう少し具体的に言いますと、どの様な世界で何をすれば?」
「そうね。世界としては貴方のゲームの様に剣と魔法と錬金術の世界。まだ地球の様に理を絞ったら世界を安定出来ないのよ。
今は世界の澱みをダンジョンやモンスターと言う形で抽出しているの。ただ、その澱みが運悪く結晶化して所謂、魔王と呼ばれる存在が誕生してしまったのよ。
なので、神々としては勇者を派遣しての浄化を予定しています。あまりに直接対処する訳にはいかないので、勇者達へのフォロー、、、神託やスキルの貸与とか偶然を装ったありふれた局地的奇跡までがギリギリという所かしら。なので貴方にはその勇者一行の賢者を担当して頂きたいの。」
テスターは、ここで視線を一度タクヤけら視線を外し、自らの手元を見つめる。
「もちろん、今の段階で無理強いはしないわ。地球の神との約束もありますし。ただ、辞退の場合はここの記憶は消させて貰います。あぁ、それと、了承してくれたら、貴方のコピーを作ってコピーは引き続きこのまま生活をして貰うわ。まぁ、オリジナルの貴方程の伸び代はないけど、少なくとも今の現在の貴方同等の能力は有しているから、誰かに迷惑とかは無いわよ?」
再び、視線をタクヤに合わせて、不安げに問いかける。
「どうかしら?」
「、、、いわゆる転生チートは選べないですか?」
テスターはゆっくりと目を閉じて、深く深呼吸をした。そして力強く目線を合わせる。そして、テスターの周りにいくつかの光の球が浮かび上がる。
「転生チート、とは、ギフトの事よね。
ごめんなさい、それは地球の神が与えるモノなので、私達には選択権が無いのよ。
貴方への予定ギフトは、五つ。
並列思考、超速思考、解析鑑定、空間制御、神器作成。
並列思考は、思考を切り離し、貴方なら辿り付く結果をフィードバックすること。スキルレベルが上がれば、並列数は増えていくけど、まずは一つね。
超速思考は、思考が加速されていくの。まずは15倍。貴方から見れば、使用中は周りの時間の流れがゆっくりに感じるわ。これもレベルが上がれば更に早くなるのよ。
解析鑑定はあらゆる事を調べる事が出来るの。検索先はアカシックレコードなので、ヒトが認識出来る現象は全て網羅しているはずよ。権限はまずは最低の1。こちらは、獲得した累計貢献ポイントで解除されていく予定よ。
空間制御は魔素を含む一定空間の完全制御権。これは難易度が高いけれど、貴方のセンスと努力次第で様々な事が可能よ。いわゆる魔法ね。貴方の選択は世界的にはかなり優先度が高いので、最初から魔王の魔法にも干渉する程度なら出来ると思うわ。競り勝つには、かなりの練度が必要になると思うから、そこは、頑張って貰うしかないの。
最後に神器作成。これは、貢献ポイントで貴方の欲しいモノを具現化するわ。コツはなるべく詳細に設定すること。曖昧だと、役立たずなモノが出来上がっちゃうかもだから。ポイント次第で盛り込める仕様が上がる感じね。作成された神器はポイントに還元出来るけど、必ず等価ではないわ。神器のレベルが上がれば還元ポイントも上がるし、壊れたりしたら下がるの。まぁ、ここは仲間達とかに教わるといいかもね。
並列思考と超速思考なら体験出来るけど、試してみる?」
少しだけ、悪戯っ子の様な表情をしたテスターは二つの光の玉をタクヤへと導いた。
、、、なるほど、とタクヤは思った。
自身の肉体への信号、つまり視覚や聴覚は明らかにゆっくりとなる。光も遅いせいだろう、周りの彩度が下がり白黒のコントラストが際立っている。手を握り、開く。少しだけ、動かし辛い。水の中でと言う程ではないが、やや抵抗を感じる。そして手元に用意されていた紅茶をソーサにこぼした。その水滴の動きまでしっかりと観察出来る。それなのに、別軸で今回のスカウトのメリット、デメリットを深く勘案している。マルチタスクは彼の得意とする所ではあったが、まるで次元が違う。それぞれに深い集中力で考察を割いているのが実感出来る。
タクヤはソーサへ紅茶の最初の雫が触れる所で解除した。体感時間はおよそ5分ちょっと。なので実時間では2、30秒程であろう。しかし並列思考はその思考に特化していたせいか、雑念なく深く集中出来た時の思考、いわゆるゾーンに入った思考が出来ていた。そのため、タクヤとしては納得のいく条件がまとまりつつあった。
「テスター様、最後に未達時、または脱落時のペナルティーと、成功時の報酬、そして魔王討伐後の予定をお聞かせ願えないでしょうか。」
テスターは、目を細めてタクヤを見返す。
「未達のペナルティと言えるかはわからないけど、基本的に討伐が終わるまで何度も挑戦して貰うわ。けど、時間は戻らないから都度違う人生でやり直して貰うから、それに耐えられない、と言う事もあるかもしれないわ。その場合は、貴方から感情と人格を切り離して通常の輪廻に入って貰い、貴方の才能とスキルは別の誰かに付与させて貰うわ。それが、脱落のペナルティ。まぁ、輪廻先には記憶は持ち越され無いので、ある意味デスマーチからの解放と言う救済と言えるかも知れないわね。」
ここで、テスターは一度紅茶で唇を湿らせた。
「そして、達成時の報酬は、その先の自由の保証よ。
神として存在の格を引き上げるのも、或いはかなり優遇された能力や条件を持ってるヒトや、それに類する生命体などとして転生するのも、基本的には貴方の要望に添える様に神として約束するわ。私達の世界や地球はもちろん、出来る限り貴方の希望する世界と条件を融通出来るはずよ?」
タクヤは、目を伏せ思考の海に沈む様に集中力を上げていく。そんなタクヤにテスターは語り続ける。
「もちろん、極端な例として魔王になり代わりたいとか、或いは失われた誰かを再びこの世界に再生させるなどの叶えられ無い願いもあるわ。けど、その場合は限定世界を構築して、貴方の願いに収束した後に自壊するような世界などで、納得出来る代替案ゆすり合わさせて貰うわ。」
途中で死んだらデスペナ受けての初期化リトライ。脱落は許されないデスマーチ。だが、それらはタクヤの障壁にはならない。グランワールドを始めとした各種ゲームを制覇した社畜から見たら、通常モードに過ぎない条件なのだ。そしてタクヤにはこのスカウトは、まだまだ地球では実装されていない完全没入型のゲームのベータ版に挑むかの気持ちになっていた。コストは己の魂。プロフィットは無限の可能性。
上等じゃねぇか。
グランワールドを始めとして殲滅型後衛や生産職を極めて来た俺が、大賢者として勇者御一行に加わってやるよ!
「テスター様、そのスカウトお受けいたします。
大賢者として魔王を浄化、討伐をして世界の安定に貢献致します。」
テスターがホッとした表情で、目尻を下げる。
「感謝しますわ、タクヤ殿。それでは誓約を交わします。」
いつの間にか、テスターとタクヤはタクヤの身長の倍程度の小さな樹、恐らく世界樹と思われるモノの前に立っていた。恐らく根の範囲にのみ再現されたであろう、小さな大地であった。
再びテスターが光の玉をタクヤへと導き、タクヤの周りをクルクルと舞う。そして世界樹から降り注ぐ光がタクヤへと収束していく。
タクヤが温もりを感じ眩しさに目を細めた瞬間、タクヤはその身の内から弾かれるような衝撃と共に自分の存在価値のステージが上がり、神々との確か繋がりを実感出来た。それは、とても暖かく、心地の良いモノであった。
「誓約は聖約へと生りました。
ようこそ、タクヤ。歓迎します。」
にっこりと微笑むテスターに見惚れていると、ガシッと肩を掴まれた。
「おぅ!テスター、新人ゲットしたか!地球からの即戦力だったなぁ!俺はトート。お前の上役だ。まぁ、当面はアドミに付いて貰うから、しっかり励め!」
いきなりのハゲマッチョ登場にタクヤはビビり上げた。
「とりあえず、やりやすいだろうと思ってお前のデスクを再現しといたから、後で見とけな?担当は見繕ってあるから、明日にでも決めようや。じゃ、後でな!」
は?とか、え?とか、はぁ、とか戸惑いと相槌を打っている間にハゲマッチョは去って行った。
そして、ふと、ある可能性に気がつく。
「あの、テスター様、、、」
言い淀んでいる内にテスターが微笑み返す。
「私も貴方から見れば上役ではあるけど、仲間でもあるから、さん付け程度でいいわよ?で、どうしたの?」
嫌な予感が確信に代わりつつあったが、踏み込んで確認する。
「テスターさん。俺自身のこっちの世界での肉体って、、、?」
「あー、やっぱり欲しいよね。なんとか捻り出すけど、少し待っててね。色々カツカツで。それに慣れて無いまま降臨すると、神の使いだーとか騒がれたりするから、そっちの研修も受けてからね。」
タクヤは手のひらをを額に当てて天を仰いだ。
「、、、プレイヤーじゃなくて運営かよ、、、。」
こうして、世界安定化プロジェクトにおける勇者パーティ担当チームに配属されたタクヤは、剣聖担当の精霊や、聖女担当の元暗殺者、神託という名のストーリー担当のアドミ、ステータス担当のスライム、などなど濃ゆい面子と共に勇者達を育てて行く。
その詳細はまた後日。
次回の連載予定作の初期プロットにおける導入を勢いに任せて書いた。半端な駄作を載せたという意味で後悔はしてるが反省はしない。
もし、面白いと思いましたら評価をいただければ嬉しいです。
他にも作品(連載作をエピローグに向けて誠意取り組み中)がありますので、よければそちらもご確認ください。