6.キャバクラ編 ★体験入店
小さい頃から、たまにの贅沢で駅前のデパートでお惣菜などを母と買いに行っていた。
キラキラとした店内、きれいに盛り付けられたお惣菜、活気づいた全体に、お祭りに来ているかのような気持ちだった。
なかでも私が好きだったのがかまぼこや”魚浜”だった。
小さい頃からずっと接客をしてくれている店長の横山さんが大好きだった。
いつも小声で、「これ、おまけね。」とやさしくさつま揚げを手に握らさせてくれていた。
家庭の事情でおばあちゃんが居なかった私にとって、おばあちゃんみたいな存在だった。
いつかこの人みたいになりたい。から、この人と働きたい!
に気持ちが変わるまでは遅くはなかった。
高校卒業後、私は念願かなって”魚浜”に就職できたのだった。
そんな大好きなお店と、店長、同時に失ってしまうことは私にとっては大変なショックだった。
一社員としての発言力など無いに等しいので、この状況を飲み込むしかなかった。
10月末
終わりが見えてから、今日に至るまでとても早かった。
お世話になったお客様へのお別れの挨拶、お店の片付けなどやることが多い中で、毎日を大切に送って来たはずなのに
あっというまにこの日が来てしまった。
正直、この日のことは覚えていない。
ただ最後に横山さんと強く抱き合い、泣いたのは覚えていた。
11月1日
あさ起きると驚くことにお昼を過ぎていた。
驚いたからって特に用事もなかったが。
とてもショックを受けていたので、さすがの彼も「1っヶ月くらいゆっくりしてな」
といってくれて安心した。
とはいえ、とても時間があったので私は車の免許を取ることにした。
高校卒業間近になると、みんな車の免許を取りに行ったが、私にはそのお金がなかったのでとれなかった。
幸いにも今日まで電車通勤、駅直結のデパート勤めで不自由はなかった。
が、こうも暇となれば話は違う。
私は教習所に通うことにした。
学校を卒業して以来、誰かの授業など受けることもなかったため、教習所の授業にとてもワクワクした。
教習所に通っている生徒はほとんどが学生であろう人で、すこし羨ましかった。
そうそう、今でも忘れられないのが初めての実技だ。
自分の足で踏むアクセルはとても緊張する。
「踏みすぎて猛スピード出たらそうしよう・・・。」
なんて緊張していたころも懐かしい。
結局はビビって40キロも出せなかったけれど・・・。
教習所に通い、夕方にスーパーでお買い物をして、晩御飯を作り彼を待つ。
そんな新しい生活に馴染んできた12月24日。
この日はクリスマスだった。
今まで男性とクリスマスを24日に祝ったことがなかったので前日からドキドキしていた。
元職場”魚浜”はおでんも販売していたのだけど、なぜか年末は売れる、売れる。
12月の23日から12月31日までは休み無く働いていた。
そのため、まともに大人なクリスマスを過ごしたことは一度もない。
しかし今年からはその習慣もなくなるはずだった。
12月の24日彼の職場も忙しく、どうしてもと無理を言って半休をとってもらった。
「早く帰ってこないかな・・・。」
夜ご飯、どうするか聞いてないけどどこかに連れて行ってくれるかな?
そわそわとしているうちに彼が帰ってきた。
「今日、決めてきたよ!」
「ん?何が???」
「キャバクラ!もうそろそろショックも収まったでしょ?いつまでも呑気にしてたらお金たまらないから、俺が決めてきたよ。」
「え?」
「着替えとか、何もいらないみたいだから、徳川駅に19時に言ってね。あ、これ迎え来てくれる人の番号。」
そう言ってなぐり書きされた電話番号を渡された。
「いきたくないんだけど・・・。」
「わがままばっかり言ってないで準備して言ってきてね。」
「今日、クリスマスだよ?」
「知ってるよ、でも別にイベントなんて気にしたことないでしょ?そもそも前までこの日は仕事してたんだし。」
「もう、いいよ・・・。」
話が通じないとわかり、渋々準備を始めた。
このときに怒りに怒って、徳川に行かなければまだマシな人生を送ったかもしれない。