笑顔 あふれる 環状線
この作品はユーザー企画である「NiOさんチャレンジ」参加作品です。
「NiOさんチャレンジ」とは金髪幼女妖精や、童話、クイズや推理物をみごとにホラー作品に仕上げる作者のNiOさんの原案を元にして複数の人間が作品に仕上げるという企画です。
すでに何作かは発表されていますので、展開の違いなどを楽しんで頂ければ幸いです。
なおネタ自体は発表されてません(2020/08/10 6:00時点)ので、参加作品から元になったネタを考察するという楽しみ方もあります。
NiOさんからのネタ内容を見て……
くま「よし、妹は殺そう!」
NiO「ネタに妹でてないし、それに何時も殺してますよねー!?」
ではお楽しみ下さい。
あ、公式企画「夏のホラー2020」参加作品 その2 でもあります。
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人様に見せられない笑顔。
厳格な祖父が庭で遊んでいた私の笑顔をそう表現し、激しく罵るだけでなく暴力に訴えたのが始まりです。
それ以来私は人前で表情を表すことを極力我慢するように努めてきました。
愛想笑いすらも浮かべなくなった私は速やかに同年代からは異物と捉えられ排除の対象となりましたが、これ幸いと趣味へと傾倒したことにより溝は深まるばかりでした。
幼少の頃は比較的直接的なイジメの内容は年を重ねる毎に陰湿になり、この春を境に私の心境にも変化をもたらしてしまいました。
まあ具体的にいうと登校するのが辛くなったのです。
通学手段の電車で意地悪をされて最寄り駅で降車できず乗り過ごす羽目になり、車窓から離れていくホームを眺めた時初めてのずる休みを決行しました。
これで箍が外れたのか、以後たびたび私は一日中環状線から降りずに時間を潰す日々が増したのです。
ある日の事、持ち込んだ書籍も読み終えた私は何をするわけでもなくただ車窓から外の景色を眺めているとすこし不思議な事に気がついたのです。
各駅に停車したときに、反対側のホームの時刻表の横に立っている人がとても気になり出しました。
意識して確認しだしてからすでに4駅目。
気になり出しはじめてから7駅目だと思いますが、どうみても同一人物が立っているように見えるのです。
これが『飯田線チャレンジ』のように、降車して先の駅まで移動して同一車両に乗り込む事が可能な場所ならばなんでもなかったのですが、この環状線のように駅間の距離が短くほぼ直線な構造では各駅で間に合うのかは私にはどうしても理解不能でした。
意識すると気になる性分なので私は駅に停まる度に、反対側のホームにその人物が居ないか確認しだしました。
視線にはやはり見えない力みたいなものがあるのでしょうか? こちらが注視していると件の人物と目が合いました。
そして列車が次の駅に到着するごとにその人物の立ち位置はこちらに近づいてきており、その表情が確認できるほどになってきたのです。
私がその表情を確認したとき、祖父の「人様にお見せできない笑顔」という言葉を思い出しました。
それはとても不気味で嫌悪感に直接訴えかけるような、なんとも名状しがたい不安を煽るような酷い笑顔を浮かべているのです。
祖父がいっていた笑顔とはこういった表情なのではないのか?
私もあんな表情を浮かべていたのだろうかと不安にかられたときに気がついたのです。
後数駅でこの環状線で唯一の外回り線と内回り線のホームが共通になっている駅に到着してしまいます。
その駅にたどり着いた時、あの人物は私の車両に乗り込んでくるのではないのでしょうか?
背中にうすら寒い気配を感じた私は急いで降車の準備を始めます。
そして無事に降車できた私はホッと一息をつき安心することができました。
翌日、何日振りかの登校をする決意をした私は環状線のホームで到着するのを待っていました。
あれから一晩考えて、私はもう我慢することは辞めようと思ったのです。
ホームに車両が入るというアナウンスが聞こえる頃、改札のある反対側のホームに見知った顔をみつけました。
中学時代からよく相談にのってくれて、イジメられている私を何度も気晴らしに遊んでくれた大親友の増代ちゃん。
大きく手を振りながらとびっきりの笑顔を浮かべて彼女の名を呼びながら、私は待機場所の白線から大きく一歩を踏み出しました。
それは今まで我慢していた自分を脱ぎ捨てるが如く、とてもとても大きな一歩を踏み出したのです。
ぐしゃり。
ガタンゴトン、ガタンゴトン……。
都心部の交通の要の一つである某JRの環状線に、私は今日も始発から乗り込んでいる。
もう何周したであろうか。
日は既に傾き、下校時間と重なった車内は数多の制服姿の学生で埋まり寿司詰め状態一歩手前である。
優先席の横に座る私の近くに流れてきた学生の制服をみて心がざわめいた。
それは先日まで妹が着ていた制服。
なつかしさでガン見していたようだ。
「キモイ」という言葉に慌てて目を逸らすが、しばらくの間学生達の話題は私を不審者として盛り上がっているようだった。
有象無象の小娘等の評価など別段気にするものではない。
私が気にするのはただひとつ、妹からの評価以外にはないのだから。
暫くの小娘達の囀りを何とはなしに聞いていると、私の興味をそそる話題に移ったようだ。
「わたし明日からバス通にするの」
「マジで? まさかあの噂話を信じてるの?」
「う~ん、それもないってわけじゃないんだけどね。ほら、最近この環状線でちょっと嫌な事件が立て続けに起きてるでしょ? 親が心配しちゃってさ」
「うわ~、過保護だねえ」
そう。最近この環状線の駅を含む一帯で数多の新しい都市伝説が噂されるようになるにつれて、非常に不可思議な(しかも凄惨な)事件がが立て続けに起きているのだ。
私はその都市伝説になりかけの噂の真実を知りたくて、仕事を辞めて毎日始発から終電までこの環状線に乗り続けているのだ。
「ほら、わたしの降りる駅の手前の駅であんなことがあったし……ね」
「地下街が熱湯で水没したんだっけ?」
「それは別の駅かなあ。駅の中でいきなり地盤沈下して人が消えちゃうやつ」
「ああ、アリジゴク駅か。もうさあ。ちょっと他にも色々と有りすぎてどれがどこで起きたのか覚えてらんないわよ」
「ほんとにねえ。それでね……。ほら、あの噂話。後輩がみちゃったんだって」
「あははは、噂話もここ最近で一気に増えたけど……。 見たってことはアノ3年の先輩の?」
「うん……。ホームに佇んでいたんだって、3駅連続で。その子、部活一緒だったから間違いないっていうのよ」
「も~やめてよぉ。あの先輩がねえ。わたしもちょっと憧れていたからアノ噂だけは信じたくないんだけどねえ」
「でもさ……。こんなにオカシナ事が始まったのって先輩が自殺……」
「やめてっていったよね! 先輩がイジメられた仕返しに呪ってるとか馬鹿げた話、わたしは信じないんだからッ!!」
「ごめん……」
小娘達は黙りこんだまま降車していった。
小娘達が囀ずった内容の一部である、ここ最近立て続けに起こっている不可思議な怪奇現象の原因が自殺した少女の呪いだという噂が真しやかに流れている。
現代の科学では説明が付けられない現象に対して、イジメを苦に自殺したと言われている身近な先輩の呪いだと思い込んでしまうのは仕方がないのかもしれない。
本当に、そう本当に不可思議な事件なのだ。
『汚物は消毒よ駅』
地下6階層もある駅で起きた事件だ。
突然地下1階の登り階段全部から熱湯が突然湧きだし、全ての階層が熱湯により水没した。
出社時間とも重なったせいか、死者は5桁にも登ったこと世界的ニュースにもなった。
熱湯は通路にいた被害者達を飲み込みながら、さらに地下へ地下へと進み最下層のホームから排水されたと言われている。
この事件の不可思議な点は2つ。
熱湯が何処から出たのか? そして何処に消えたのか、である。
目撃者の証言から地下1階の登り階段から涌き出たのは確実なのだが、階段付近には熱湯がでるようなパイプ菅などが埋設されている事実はなかった。
それどころか階段周りを調べてみてもどこにも、床にも壁にも天井にも亀裂は一つも見つからなかったのである。
一体どこから熱湯が出現したのか?
そして最下層までたどり着いた熱湯だが、線路上に到達すると忽然と消えたというのだ。
ホーム圏内では水滴が着いていたのだが、ホームを外れると全く濡れていないという。
もちろん地下駅であるから排水溝などもちゃんと設置されている。
いるのだが、瞬間的にでも地下全層が水没する水量を処理出来たとは思えないし、装置の記録上はもちろん排水施設に熱湯が流れ込んだ形跡もみつけられなかったそうだ。
これは中間層に位置するホームでも同じであったという。
とあるSNSで「まるで蟻の巣にヤカンで熱湯を注ぎ込んだみたいだwww」などという不謹慎なコメントがあげられたのも物議を醸している。
なお熱湯が消えた後、駅の壁から床、天井に至りピカピカに汚れが落ちていた事から某匿名掲示板では『汚物は消毒よ駅』と呼ばれるようになり非公式な呼称として定着した。
『アリジゴク駅』
地下街の1階を歩いていた女性の足元が突然に、そう、まるで流砂のような状況で陥没したのだ。
女性は助けを求めたものの、そのまま流砂に飲み込まれてしまった。
この現象を聞くと「液状化現象」がまず思い浮かぶのだが、起きた場所がまずおかしい。
なぜならば地下2階が存在しているのだから液状化現象ではないといえる。
この事件も不可思議な点が多い。
まず第1になぜ流砂のようなものが発生したのか?
第2に、該当する地下2階の天井はなにも変わらなかったということ。
第3に、流砂化した床を全てさらってみたものの、未だに被害者の女性は発見されていないということ。
この事件が防犯カメラに一部始終映っており、またもや某匿名掲示板での『アリジゴク駅』という呼称が定着したのである。
『もぎり駅』
この事件は当事者達よりもパニックを起こした利用客の被害が酷かった。
事の起こりはホームでの乗車待ち列から始まった。
3番ホームの20番乗り場の列で先頭に並んでいた男性会社員の右腕が突然千切れて落ちた。
そしてその後ろに並んでいた被害者の左腕が千切れて落ちた。
周囲がその異常に気がついたのは被害者が7名にまで至った時であったという。
当然周囲はパニックに陥り、逃げ惑う群衆は転倒者を踏み潰し、ホームから弾きだされた運の悪い被害者は到着した車両に巻き込まれ、急角度なエスカレーターでは将棋倒しが起こりまさに地獄絵図となった。
死傷者は4桁近くになったが、事の起こりである体の一部を千切られた被害者達は死者は居なかった。
なぜかは不明だが千切れた瞬間の出血はあったものの、救助部隊が到着したときには綺麗な止血状態であったといわれている。
なお前日に熱愛報道がされた某イケメン男性俳優と巨乳グラビアアイドルの二人も被害者にふくまれているのだが……、千切れた部位が男性器と巨乳だったという噂が某掲示板でまことしやかに囁かれ、付いた呼称が『もぎり駅』となった次第である。
……なにをやっているんだ、妹よ……。
『バクチク駅』
タイトルからもう想像ができよう。
駅構内の至るところで、被害者の尻……臀部から煙があがったかと思うと突然爆発するのである。
そう、爆発するのである。尻が。
老若男女分け隔てなく爆発するのである。尻が。
幸いといっていいのか判別に迷うのであるが、この事件に関しては死者は発生していない。
肉体的被害は肛門の軽度の裂傷と火傷ではあるが、爆発時になぜか衣服類が綺麗に吹き飛ぶので臀部丸出しというある意味悲惨な状況に追い込まれている気がしないでもない。
某匿名掲示板においては『プリケツ駅』と最後まで熾烈な論議が交わされたが、幼い頃のノスタルジーに軍配があがり『バクチク駅』という呼称になった。
事件その物よりも某匿名掲示板における深い闇を感じることになり、日本のサブカルチャーの今後を心配するものでもある。
まあ、いまさらである。
他にもホームと車両の隙間(物理的に10センチもない隙間なのだが)に乗客が落ちて行方不明になる事件や、改札の切符投入場所に吸い込まれて行方不明になる事件、熱湯と類似するが高温の蒸気でみたされたり、ホームの連絡通路がコンクリで埋まったり、などがある。
これらは全て構内の録画カメラにその現象が記録されている。
なお某匿名掲示板ではこれらの件に関しての呼称は議論中である。
といった事件については正直なところ、私にとってはさほど大した関心ではない。
大方の予想はついているのだし。
関心のあるのは都市伝説のほうである。
曰、終電で寝過ごした社畜は深海の駅にたどり着く。
曰、ホームと車両の隙間からこちらを観察する目がある。
曰、ある時間にとある駅の階段を降りると無限に続いている。
曰、クイズに答えられないと降りられない車両がある。(なぜか出題者はウサギの着ぐるみをきてる)
曰、大塚駅で炭酸飲料を売り歩くヤンキーがいる。
曰、…………。
最近になって耳にするようになった都市伝説は、私が知る限りで10を越えている。
その中で私が追っている都市伝説というはの……。
『
環状線内回りの車内から各ホームを観察していると有ることに気がつく。
停車したホームの反対側のホームでなぜか目を引く『人物』を見かけるのだ。
なぜその『人物』がきになるのか不思議に思っていると、次の駅でもその『人物』を反対側のホームで見かける。
最初は勘違いの類い、他人のそら似、偶然の産物、ドッペルゲンガー? なんて気楽に物思いに耽っていると、やはり次の駅でも反対側のホームにその『人物』がいる。
多少気味が悪くなっているとやはり次の駅でも、その次の駅でもその『人物』がいる。
しかもだ。
その『人物』はある駅からこちらをみて微笑みを浮かべ、段々と乗車口に近づいているように見える。
いや、確実に近づいているのだ。
そして気がつく。
次の駅では乗車口はその『人物』がいる反対側が開くのだと……。
』
話のオチ的には色々とある。
そのまま次の駅で行方不明になる。
恐怖にかられてその駅で慌てて降車して逃げ切れる。
慌てて降車したが、改札口で捕まり行方不明になる。
その『人物』の笑顔をみると○日後に死ぬ。
などなど。
さて、オチなどどうでもいい。
注目するべきは『人物』である。
この『人物』にも諸説入り乱れている。
曰、どこにでもいるような男(女)だったり。
曰、絶世の美女(男)だったり。
曰、ウサギの着ぐるみを着ていただったり。
曰、スシ○ンマイのポーズをした金髪幼女だったり。
曰、緑色の生物を燃やしている少女だったり。
曰、熊だったり。
話を纏めると、遭遇した人によってその姿に変化があるようである。
……金髪幼女を求めるとか事案だろ。大丈夫かこの社会。
そして私が求める噂の『人物』とは都内のお嬢様学校で有名な某ミッション系女子高の制服を着た美少女である。
恐らく、いや間違いない。そう断言できる。
私の妹である。
私は妹を探してこの環状線に乗り続けている。
私には妹がいた。
身内贔屓を差し置いても、美少女といっても過言ではない妹がいた。
妹は中学までを地元で過ごしていたが、両親の死去もあり私が勤めている都内の高校に入学した。
1年、2年とその容姿や学力もあってか恙無い学生生活を送っていたようだ。
しかし3年になってすぐだったろうか。
妹の元気が日に日になくなっていくように感じられた。
折しも仕事で出張や残業が増えたことで妹との会話も少なくなりフォローをしてやれる余裕が私にもなかった、というのは言い訳にすぎないだろう。
後に分かったことなのだがどうにも、妹はイジメにあっていたらしい。
ひた隠ししていた嗜好がバレたのか、バラしたのかは分からないが、妹のちょっと変わった嗜好がイジメの原因になったようだ。
一体どの様な事をされたのか、未だ私には分からない。
3年になってからの妹はほぼ授業に出席するどころか、登校すらしてなかったと学年主任から聞いた。
そしてあの日。
学生達でごったがえすホームで事は起きた。
私としては未だに信じていないのだが、同級生や仲のよかった友人達を含めた目撃者は大勢いた。
曰、自発的に飛び込んだ。
曰、イジメをしていたとある人物に押されて落ちた。
曰、線路上からナニかが引っ張りこんだ。
様々な証言が飛び交ったが、結論は変わらない。
妹はその日からいなくなった。
ただ、それだけだ。
だが、妹は未だ見つかってはいない。
車両にや線路上にぶちかまれた致死量の血痕と学生証の入った通学鞄が妹がそこにいたと言う証拠になっただけである。
妹がいなくなってから暫くしたある日。
放心状態の私は環状線の車内で囀ずる小娘達の噂話を耳にした。
それは件の噂話で、妹が駅ごとに現れるというもの。
妹は学校関係者の前に微笑みかけるのだが、イジメに関与しなかった者には手を振るだけだという。
そしてイジメの関係者達は妹と遭遇した後、無惨な遺体となって発見されるというものである。
私はそれを聞いて憤慨した。
妹がイジメの関係者に報復をする?
あの妹が?
私の可愛い妹が、報復なんて事をするわけがないだろう!
妹が駅に現れるのはきっと、私に会いたいがために決まっているだろう!! と。
翌日、私は辞表を提出しその足で環状線に乗り続けることになる。
妹が居なくなってから七週間が経った日のことだ。
何時ものように始発から乗り込み昼を過ぎた頃だろうか。
私はとうとう妹を見つけた!
最初の駅では横姿だったが、二駅目には目が合いビックリした顔をしていた。
三駅目では眩しく輝くような笑顔を見せ、恥ずかしげに小さく手を振ってみせてくれた。
よん?駅目、五駅目と妹は乗車口の方へと移動してきてくれていた。
もうじきだ!
あと二駅で妹と会える!!
そしてあと一駅という次の駅で私は肩をつかまれて無理矢理降車させられた。
妹との再会を邪魔された私は怒りのままに、肩をつかんだ手を乱暴に振りほどき振り返るとそこには老婆がいた。
「あんた死にたいのかい? アレはもう人成らざるモノに成り果てた憐れな魂さ。関わっちゃなんねぇよ」
老婆は曇りなき眼でそう断言しやがった。
「それでも、それでも私は妹にもう一度会わなければならない理由があるのですよ」
忌々しげな感情を隠そうともせずに答えると、老婆は一度深いため息をついて言葉を続けた。
「ならばその理由って奴を聞かせておくれよ。アレは一度縁を切れば今日はもう会えんからの」
老婆の有無を言わさぬ迫力に押された私はしぶしぶとその後に続き、駅からほどよく離れた喫茶店で相対することになった。
「さて、小僧。人成らざるモノに堕ちたアレに会わねばならぬ理由とやらを教えておくれよ」
早坂と名乗る老婆は頼んだハイビスカスティーを一口含んだ後、切り出した。
「早坂さん。妹を人成らざるモノというくらいなのですから、オカルト方面に随分と詳しいのでしょう。私はね、妹が人成らざるモノになった事くらいとっくの昔に承知済みなんですよ。いま世間を騒がせている環状線の駅回りで起きている不可思議な事件の数々……。あれを起こしているのが妹なんだと、私は確信を持って言えます。だから私はもう一度妹に会わなければならないのです」
「なん……じゃと……。その確信はどこから来る? なぜそう言いきれる!」
「……妹の、趣味趣向なんですよ。むしろ性癖といってしまっても問題がないほど心根に染み付いているんです」
「……は?」
私は早坂老に妹について語り出した。
妹の性癖に気がついたのは、妹が4歳の頃だった。
当時幼い妹に度々せがまれたのはヤカン一杯の熱湯だった。
当たり前の話だが、流石に4歳児に火周りを使うことは止められていたため中学生だった私が代わりに沸かしてあげていた。
無論、妹が熱湯はもちろんヤカンで火傷をしないように最新の注意を払いながらナニに使うのかと毎回付き添った。
妹は庭に作られた蟻の巣にその熱湯を注ぎ込んだ。
私は妹のその行為に心震え上がるものの、楽しそうに笑う妹の笑顔を優先させた。
その後妹はスクスクと成長し、年頃の男の子が一度は通る昆虫の手足や翅をもぐ行為や、カエルの尻にバクチクを突っ込み点火(は私がやった)させるなどといった行為に飽きることはなかった。
そして転換期が訪れた。
妹が7歳の時、夏休みに母方の祖父の家に帰省したときだった。
大自然に囲まれた田舎という環境に妹のテンションは上がりに上がり、次第にエスカレートしていった。
たまたま私が所用で妹から目を離した時に妹は祖父が大事に育てていた錦鯉に仕掛けた。
練り餌にバクチクを混ぜて投げ込んだのだ。
そして間の悪いことに祖父がその現場を見つけてしまった。
可愛い孫の、それも幼少児のたわいもない悪戯として軽く注意して終わらせようとした祖父は妹の笑顔ををみて豹変した。
「この馬鹿者がッ!! 生き物を傷つけておきながらその様な表情を、人様に見せられぬような笑顔を浮かべているとは何事じゃッ!! 恥を知れ、このわたけがッ!!」
そう怒鳴り散らした祖父は妹の髪を掴み、水鏡に写る笑顔を妹に見せつけた。
呆然とした妹にさらにわめき散らす祖父の言葉はすでに人が理解できる範疇を越え、最後は妹の左ほほに平手打ちを食らわせたのだ。
華奢な妹の体はその勢いで浮き上がり、そのまま池へと落ちた。
祖父の怒鳴り声で異変に気づいた私は丁度現場を見ていたため、すぐさま池に入り妹を救いだすと祖父から逃げ出した。
ずぶ濡れの妹の手を引き近くの神社で腰を下ろした。
妹の左ほほは赤く腫れ上がっていて、とても痛々しかった。
社務所で借りたタオルで水分を拭い、水で冷やしたハンカチで左ほほを拭っているとき、それまで無表情で言葉をなくしていた妹がポツリと呟いた。
「ねぇおにいちゃん……。わたしっていつもあの笑顔を浮かべていたの? アレって人様には見せられないような表情なの……?」
妹のまなじりには大粒の涙が今にもこぼれ落ちそうに浮かんでいた。
「そうだね。いつもあの笑顔を浮かべてはいたよ。たしかに人様にはあまり見せない方がいいかなとは思うけどね。特に男性には。でも僕はあの笑顔は大好きだよ?」
「そっか、それならおにいちゃん以外には見せないようにしないとね」
そういって涙を拭うといつもの笑顔を妹は私に向けたのだった。
この日を境に妹は趣味を封印した。
……表だっては。
それから3日後、祖父が池に浮かんだ。
第一発見者は妹だった。
通夜の席で散々妹を罵った祖母は、その夜半に鴨居からぶら下がり翌朝妹がそれを見つけてしまった。
妹への疑念は親戚を始めとして周囲に広まっただけではなく、実の両親からも疑いの目を向けられるようになってしまった。
「困ったね?」と苦笑いを浮かべる妹を、当時の私は抱き締めることしかできなかった。
それからずっと妹は実家ですら針のむしろのような生活を余儀なくされて過ごした。
高校を卒業して社会人となった私は実家を出るときに妹も一緒に出ないかと誘ったのだが、妹は首を振った。
「忌み嫌われていてもね、やっぱりお父さんとお母さんは好きだから一緒に居たいの」
寂しげに微笑む妹の頭を撫でてやる。
猫の様に目を細めながら「やめてよお」と間延びした声で抗議するのもまた可愛くて堪らなかった。
そして表面上は何事もなく時は流れ、高校受験を目前に控えた中学3年の11月に目を真っ赤に腫らした妹が私の部屋に駆け込んできた。
「おかあさんに見つかっちゃった」
祖父に叱られて以来、鳴りを潜めていた妹の性癖は実はずっと続いていたのだ。
まあ、我慢を続けて日に日に憔悴していく妹の様子を見かねて、私が蟻の巣の観察用の水槽を買い与えていたからなのだが。
妹は自室でこっそりと蟻の巣の観察をしていた。
なぜか蟻の巣が完成すると数日後には真新しく入れ替わるのだが。
水槽はキチンと熱湯消毒を済ませてから入れ換えているようだ。
そんなマメな妹だが、私が家を出てから水槽の数を増やしたらしい。
そして、熱湯消毒中の場面を母親に目撃されたというのが、今回の顛末だ。
母は祖父を思い出させるように、烈火の如く怒り狂ったという。
私は直ぐ様実家に電話をし、両親と話し合った。
話し合いは難航し、結局のところ両親は妹を見捨てる事を決めた。
高校を私が勤めている都内し、実家から出ていく事を条件にそれまでの間世話をしてやると妹に突きつけた。
あの時の妹の困ったような悲しい表情は忘れてはならないと心に誓った。
今までですら針のムシロ状態な生活を過ごしていた妹の生活は一層過酷なものとなったと、後に聞かされた。
それでも妹は耐え、頑張りに頑張って無事に志望校に合格を果たした。
入学、入寮手続きも終えて移動の当日の朝、妹は両親に深々と頭を下げ別れの挨拶を告げた。
「今まで育てて下さりありがとうございました。このような誉められた性質に育ってしまい申し訳けありません。どうかお元気で」
と。
それを運転席で涙ながらに聞いていた私は、助手席に乗った妹をつれて実家を後にした。
都内の私の部屋に戻り一息着いていた時、携帯に着信が届いた。
地元の警察からだった。
実家がガス爆発を起こして吹き飛んだと言われた。
前日まで滞在していたために、所在確認のための連絡だった。
「あの……、両親は……?」
通話口の警察官は言いづらそうに「身元はまだハッキリしていないのですが、家屋後から男女の遺体が見つかっております。申し訳けありませんが、身元の確認に来ていただきたいのですが……」と言われ、妹にその旨を伝えると、また寂しそうな笑みを浮かべ「しかたがないよね」と言った。
「そいつはまた……。恐ろしい話だね。だがね……」
早坂老は憐憫の浮かべながらも言葉は否定を伝えている。
「今の話を聞いたところで人の世ではありふれた話さ。類似点は多いがアレが妹さんの仕業であるという確証は何一つありゃしないさね」
「なら尚更、妹ともう一度あって確認しないとならないのですよ」
「命に関わってもか!? たとえ兄妹という関係だとしても度が過ぎやしないかい?」
「……妹がいなくなった時の所持品が警察から返ってきたんです」
「それで?」
言葉を詰まらせた私に早坂老は続けろと促す。
「日記が有ったんですよ。日付をみたらね、高校3年に入ったあたりから毎日『辛い』とか、『我慢するのがキツい』、『助けて、おにいちゃん』ってそんな一言ばかり書かれているんですよ。妹が苦しんでいるそんな時に自分はのうのうと仕事に明け暮れて放って置いたわけですよ。日記の最後の日付は妹がいなくなった前日でしたよ。何て書かれていたか解りますか?」
「さあねえ」
「『おにいちゃん、私もう我慢しない』でしたよ」
「それがあんたが一連の事件を妹が起こしていると思う理由かい?」
「ええ。妹に我慢をさせたのは私ですから。我慢をやめたというのならば、後始末をするのは兄である私の役割なのは昔からの事ですので」
誇らしげな笑顔を向けられた早坂老は静かに目を閉じ、何かを思うように口を閉ざした。
どれほど……、無言の時が過ぎたであろうか? それはとても長いようでとても短いものだったのかもしれない。
早坂老は目を閉じたまま言葉を紡ぎ始めた。
「おぬし、『摩尼車』というものを知っておるかな?」
「はい。所謂法具の一つで経典が書かれた筒状の物ですね。一周回せば経典を一回読んだと同じ効果があると言われている。認知度でいえば『数珠』も同じような効果ですね。あちらは一周させる度に煩悩を昇華させる役割もあるとか」
「お、おう。若いのによう知っておるのお」
「で、その『摩尼車』が今回の件に何か関わりがあるのですか?」
「うむ。実はじゃな……」
そう前置きをして早坂老は重たそうに言葉を続けた。
「全国を走る電車を初めとする公的交通機関の車両には霊的な障害を避ける為のマントラ(呪い)が書かれておってな。一定の路線を走る分には何ら問題はないのだが、こと環状線のような循環する運行を行う場合マントラの影響で車両が一種の『摩尼車』の代わりと成ってしまうのじゃよ。
本来『摩尼車』を使う修行は、本人に修行するという意思があるために自然と高められた霊力の使い方も覚えるものなんじゃが、環状線『摩尼車』の様に本人が無自覚で修行を行った状態になった場合大変危険な事になるのじゃよ……。
お主がそうじゃな。この49日間、一体何回『摩尼車』を回した事になるやら……。そこらの自称霊能者なぞ歯牙にもかからんほどの霊力を蓄えておるのじゃぞ?
そんな霊力が高まった無防備な人間を見定め、その人間を呼び込むためにその者が描く人物に擬態するのがお主が追いかけておったアレじゃよ。
恐らくあれはお主の妹御ではおらぬよ。よう真似た擬態じゃ」
「…………」
早坂老の話を聞いた私は一つの疑問を問いかけた。
「早坂老、確認したいことがあるのですが……」
「なんじゃ?」
「『摩尼車』の効果がでるのは環状線の内回り線だけですよね?」
「ああ、そうじゃが……」
「それは内回りの方向が『摩尼車』の正順、正しい回し方向と同じ回りだからですよね? 恐らくですが環状線『摩尼車』は環内の霊的結界を担ってる……いや、それを見越して環状線を作った?」
「まてまてまて、待つのじゃ! 何を言っておる!?」
私の言葉で早坂老が慌てふためく姿は、言葉は悪いが実に滑稽であった。
「なれば外回り線は……外的からの守りを担ってる? ふむ……それならば。 早坂老、正順で能力が高まったり場の均衡を均すのであれば、逆順では?。 古来より死者をはじめとする人成らざるものに自ら会いにいく作法があることは……、早坂老、あなたなら御理解しているはずだ」
「ならん、ならんぞ。お主のような霊力が高まった人間がそのような行いをしてはならんッ!!」
老婆とは思えぬほど歯をむき出しに私を止めようとする早坂老。
だが……。
「無駄ですよ、早坂老。答えは得ました。……私は『逆打ち』を行い、妹に会いにいきます」
『逆打ち』。
それは本来、霊的行動において正しい手順を逆から行う手法である。
正順とされる行いの殆どは霊的均衡を正す事を目的としているものであるが、逆順で行う結果は詰まり……。
霊的均衡を崩すというものである。
均衡さえ崩してしまえば人成らざるモノを呼び出す事も比較的簡単に行える……はず。
まして今の私は疑似『摩尼車』によるブーストされた霊力がある。
そう考えほくそ笑む。
「そんななろう作品じゃあるまいし、俺Tueeeeeとか俺なにかしちゃいました?展開が現実に起こるわけがなかろうて! 眼を覚ますんじゃ。均衡を崩せば環状線一帯が、この世がどうなることになるかわかったものではないぞ!」
「妹がいない時点で私の中ではもうこの世なんてどうでもいいのですよ」
思い止めようとする早坂老を尻目に、最早用済みとばかりに私は席を立ち会計を済ませる。
「千風の婆ならもっと上手く丸め込めたじゃろうが、わしでは無理じゃったのかのう……」
店を出る瞬間、席から早坂老のそんな呟きが聞こえたがもう誰が来ようが私を止める事はできんよ。
ガタンゴトン……、ガタンゴトン……。
早坂老と別れて数日。
私は相変わらず環状線に始発から乗り込み終電まで反対側の車窓を眺め続けていた。
ただ今までと違うのは、乗り込む路線が内回り線ではなく外回り線なことだ。
思えば納得のいく話ではないか。
件の噂話では『人物』はいつも反対側のホームに居るのである。
それはつまり、内回り線の反対側は外回り線のホームであるわけだ。
正順を辿る内回りは霊的均衡が保たれるが故に、内回り線側ホームへ降車することで逃げる事が可能となっていたのだろう。
何ヵ所か存在する外回り線との共通の乗車口においてのみ、人成らざるモノたちも内回り線の乗員に手がだせるチャンスというわけだ。
最初の数日はかわりがなかった。
ある日を境に、外回り線で一周するたびに車内の、そして恐らくだが各駅の空気が淀んできているように思えるようになった。
そしてとうとう待ち望んでいた時がやってきたようだ。
内回り線で出会った時を繰り返すように、一駅目では横姿を。
二駅目では目が合い、三駅目では恥ずかしげに小さく手を振った。
それから駅を通過するごとに乗車口に近づいてきて、一周回った一駅目でとうとう乗車口の真ん前に妹は立っていた。
私は扉が開くのがもどかしく、無理矢理体をねじ込む勢いで妹の待つホームに降り立った。
「お兄ちゃん、また会えて嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべ、嬉しさで声が踊るように私を出迎える妹に向かい答えた。
「私が会いたいのは妹であって、紛い物のお前ではない。妹は”おにいちゃん”と呼ぶし、そんな誰もが浮かべるような笑みなど浮かべもしないさ。もっと人様にはお見せできないような笑顔をするんだ」
そう伝えると妹を装ったナニかは無表情になり、その輪郭が崩れていく。
後から現れたのはウサギの着ぐるみだった。
なぜかスシザンマイのポーズを決め「ざ~んねん」と楽しげに一言を残して消えていった。
……流行っているのかなあ、スシザンマイのポーズ。
そんな感傷に浸っていた私の背後からすこし怒ったような声がかかった。
「ねえ、おにいちゃん。 私の笑顔ってそんなに人様にお見せできないようなのかな?」
ああ、一体いつ以来だろう。
それほどたいした期間ではなかったが、もう二度と聞けないと思っていた、一番聞きたかった人物の声だ。
それが例え怒ったような普段とは違った声であろうと、先程の紛い物と間違える訳がない。
「そうだね。お前ももう年頃の娘なんだから。その笑顔は人様にみせるのはおにいちゃんもちょっと関心しないかなあ。おにいちゃんの前だけにしてくれると安心だよ」
頑張ってみたが、涙声になってしまったのは勘弁してもらいたい。
振り返るとそこには生前と変わらぬ笑顔をたたえた妹がいた。
「う~ん? まあおにいちゃんがそういうなら。それにしてもおにいちゃん、意外と早くたどり着いたね? もう少し掛かると踏んでいたのだけど……」
「それについてはおにいちゃんも聞きたいことがあるんだがな」
すでに帰宅時間にも関わらず無人のホームの待ち合いベンチに二人腰掛け、妹を問いただす。
「一連の、この環状線で起きてる事件。あれお前の仕業だな」
「うん。全部が全部私の仕業ではないけど、8割方は私がやったの。後の2割は他所の子が便乗した感じかなあ……。おにいちゃんはもう知っているはずだけど、私ね、我慢するのやめたの。だから感情の赴くままにば~~~~っとやっちゃいました! ……っていったらおにいちゃんおこる?」
ああ、やっぱりか。
想像した通りに、妹がやらかしてしまったのか。
覚悟はもう決まっている。
ここはおにいちゃんとして、不安げにこちらを上目使いで見つめている可愛い妹にガツンといってやらねばならない。
「当たり前だ。そんな楽しい事、おにいちゃんに内緒でひとりでするなんて悪い妹だ!」
目を丸くし驚いた様子の妹はやがて何時もの笑みを浮かべてこう言った。
「うん、ごめんなさい。これからは一緒に遊ぼうね! 素材はまだまだ山の様に残っているし、一番楽しめそうな箱庭はおにいちゃんが来るまで取っておいたんだ!」
「うんうん、おにいちゃんは嬉しいよ。こんなに良くできた妹を持てて」
「結構がまんしてたからねえ。私の笑顔のせいでおにいちゃんが無茶しちゃうから、がまんのし通しでしたよ~もう」
「ん? もしかして知っているのかい?」
「おにいちゃんの事はなんでもしってますよ~? 妹ですからね! お爺ちゃんから始まってお婆ちゃんにお父さんにお母さん並びに親戚一同とおまけでイジメっこたち。お片付けご苦労さまでした。いや~、イジメっ子たちで遊ぼうとおもったら先に片付いてて唖然としちゃったよ。」
「そうか、それはすまなかったなあ。俺的には毎回毎回お前が第一発見者になるから頭を抱えていたんだがなあ……」
「あれはその……。おにいちゃんの手際を確認したくてじっくりみてたら……ね。そろそろいこっか? 私ね、こっちで友達いっぱいできたんだ。おにいちゃんにも紹介したいの。まずはあかりちゃんでしょ、それに…………」
楽しげに笑う妹をみて改めて思う。
妹よ……。
年頃の娘なんだからその笑顔でダブルピースはおにいちゃんゆるしませんよ!
こうして、仲睦まじい兄妹はホームの雑踏の中へと消えていった。
その後、環状線を中心とした不可思議な事件は日々増え続け、数年後にはかつて首都と呼ばれた地はゴーストタウンと化した……。
興味本意で訪れる一般人、使命感にかられて訪れる霊能者は後を立たなかったが、彼らのその後を知るものは皆無であったという。
その末路は、幸運であれば自分になにが起こったのか分からないまま命が途絶え、不運であれば兄妹の凄惨極まる言葉を長く聞くことになったという噂が流れた。
真実を知るものはどこにもいない……。
蛇足
兄「問題です。 1~9駅で構成される環状線があります。 1駅からのった兄は妹を探すため環状線に乗り続けて8周し、1駅で降りました。 さて兄は幾ら払えばいいでしょう? 1区間の運賃は一律で100円で入場券(料)も100円です」
妹「うーん? 1駅でのって1駅で降りたのなら結果的に移動してないってことになるよね?」
兄「なりますね」
妹「なら入場券(料)の100円でいいんじゃない?」
兄「はい、正解であり、不正解です」
妹「どういうこと?」
兄「環状線って一度入場したら降りるまで乗り放題って思っているだろ?」
妹「え、ちがうの?」
兄「システム上では何周したかとかカウントされないので入場場所と退場場所の距離で清算されちゃうんだけどね」
妹「一人一人みてるわけじゃないしね」
兄「だが実際には車両に乗っている、利用しているわけだからその分の料金も支払わなければならない。不正に料金を支払わない行為を『キセル行為』といい、犯罪となります」
妹「え?」
兄「他にも1駅から3駅へ移動する予定が、うっかり寝過ごして5駅まで行ってしまったとします」
妹「あ、わたしも何回かやったことある。そのまま逆回りの車両にのって3駅まで戻ればいいよね」
兄「はい、それはキセル行為です。」
妹「ナンダッテーーー!?」
兄「まあ、寝過ごしたとか大抵の場合は多目に見てくれて見なかった事にしてくれるらしいけどね」
妹「よ、よかったあ」
兄「ただ、俺のように明らかに乗り越し目的と分かる何周もするような人物は悪質であるとされて、請求される場合があるんだ」
妹「……されたんだ? おにいちゃん」
兄「うむ……。4日目ぐらいだったろうか。終電になったので改札をでたらなあ……。駅員数人に囲まれて事務所に連行されて、俺も初めて知ったんだ」
妹「あちゃー。流石に4日連続で始発から終電までのりっぱなしだとマークされたというわけね」
兄「知らぬこととはいえ違法は違法。罪を認めて未払い分を払うことにしたんだ」
妹「うんうん、さすがわたしのおにいちゃん」
兄「キセルはなあ……。見つかると請求金額が3倍になるんだ……」
妹「え”!?」
兄「まあ、6桁まではいかなくてよかったさ」
妹「えええええ!? 翌日からどうしたのよ、おにいちゃん」
兄「毎日青春18切符を買って乗ってた」
妹「ぉぅ……」
兄「後日、一日乗り放題券ってのがあるのも知った……。一般人がそんなの知らねぇよ、俺は鉄じゃねーんだ!!」
妹「キセルコワイ」
※なお現行のJRのシステムと大分違っていますので鵜呑みにしないでくださいね! くまからのおねがいだよ。
人様の考えたネタを元に作品を作るという貴重な体験をさせていただきました。
同じネタ元なのに展開が作者毎に違っていて、自分にはない発想に作品毎に驚かされました。
拙作も同様に、ナニかに驚かれて貰えたら幸いです。
他人のネタを膨らませるのは感想欄でよくやってるので、実は得意なのかもしれません(面白いかは別ですが)
一応全部のネタを利用させてもらいましたが、駅毎の事件描写はクドかったかな?と思う反面一番ノリノリで書いた部分でもあります。
兄は妹を害する物は死んで当然と思うので直接手を下すのに躊躇がありません。
妹は愉悦部部員なので兄に迷惑がかからなければ何をしてもいいと思っていました。
そんな性格のとてもとても仲の良い兄妹のお話でした。
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