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3話彩芽さんは正直者

「お腹いっぱいです……」

 俺の作ったカレーを食べた彩芽さんは苦しそうだ。

 そんな彼女を見ながら洗い物を始めた。


「なんと言うか、凄い食欲で驚いた。サークルとかの飲み会に参加してた時は、そんなに食べてなかったよな?」

 俺と彩芽さんは同じ大学で同じサークルに所属している。

 ちょっとした飲み会の時に、彩芽さんを見たが、ここまで食べる子だとは思いもして無かった。


「人前ですからね……。食い意地を張ってるのを見られるのって恥ずかしいんですよ? 道人さんには食いしん坊だとバレたので遠慮しなくても良いかな~って感じです」


「思い切りの良い性格をしてるんだな」

 

「じゃなければ道人さんに結婚してくださいなんて、申し込みませんし。こんな私ですが、お嫌いですか?」


「好きでもないけど、嫌いでもない。まあ、どっちでもって感じだ」


「実際はそんなものですよね」


「っと、そういや、聞きたい事があるんだけどさ。俺って、本当にここに住んで良いのか?」


「嫌でしたか? もしあれだったら、偽装夫婦ですし私とそこまで積極的に関わらなくても良いんですよ?」

 どの口が言う。

 さあ、市役所へ。さあ、書類を。さあ、出しましょう。あ、今日は遅いので家に帰りましょう。私の家で良いですよね? と言った感じで強引だっただろうが。

 まじまじと見ていたら、なんとなく伝わってしまった。


「だって、その……。偽装とはいえ、好きな人と結婚できたんですよ? そりゃあ、このチャンスを逃したくないじゃないですか」

 可愛いというよりかは綺麗な顔。

だというのに、表情は豊かで子供みたいな言い訳をするのが可愛い。


「話しが逸れたな。まあ、あれだ。彩芽さんが良いって言うなら、しばらくはここで暮らしてみるか……。てか、さりげなくここに連れ込まれたけど、俺、携帯と服と財布以外に何も持ってないんだが?」

 

「明日、取りに行きましょう。今日はもう遅いですし。あ、でも、下着と服がありませんね」


「そうなんだよ。今日からここでって言うけど、何も無いんだよ。というわけで、今日は帰らせてくれ」


「分かりました。じゃあ、送って行きますね!」

 と言った感じで俺が住んで居るアパートへ帰ろうってなった時だ。

 なぜか地下駐車場に連れて行かれた。


「ここって、出口じゃないよな?」


「はい。せっかくなので、車で送って行こうと思いまして。っと、着きました」

 お高そうな車の前で立ち止まる彩芽さん。

 ま、まさか。


「じゃあ、乗ってください」


「あ、はい」

 やっぱり、お嬢様なんだなと再認識させられるのであった。

 で、メーカー純正の意味の分からない機能がたくさんついたお高いカーナビで俺の住んで居る部屋に向かった。


「彩芽さんって車を運転するのが好きなのか?」


「普通ですよ。車があるから、運転しようって感じですね。あ、道人さんも運転できるように保険の手続きをしましょうか」


「保険に入らなくても良いくらいのお金を持ってるのに?」


「確かにそうかもしれません。でも、お金があるからって、それに胡坐をかく人間にはなるつもりはないですよ」


「あ~、悪い。勝手に金持ちのイメージを押し付けた」


「いえいえ。さてと、道人さんの住んで居るアパート近くにつきました。あ、ちょうど、駐車場が近くにあるので、停められますね」


「ん、ああ」

 適当に返事をした。

 で、車はコインパーキングに停められる。

 今日はお別れ。

 なんとなく寂しい気持ちに支配されるまま、俺は彩芽さんにまた、明日と答えようとした。


「おっとっと。私としたことが、道人さんを送り届けるだけなら、コインパーキングに停める必要がなかったのに間違えて停めちゃいました」


「……」


「いやあ。馬鹿しちゃいましたよ。あれ? 道人さん。着きましたよ?」

 白々しく、ドジっ子アピールをする彩芽さん。

 なんと言うか、本当に良い性格してやがる。


「ったく。せっかくだし、俺の部屋でお茶でもどうだ?」


「はい!」

 ぱあっと花が開くような笑顔が眩しい。

 そう、彩芽さんはこうなって欲しいからこそ、わざとコインパーキングに車を停めた。

 意外と策士である。

 

「汚い部屋だけど、文句は言わないでくれ」


「言いませんって」

 乗った車から降りてアパートへ。

 カバンから鍵を取り出し、今住んで居る部屋へと入った。

 カチッと電気を点ける。

 そうして、明るくなった部屋は生活感で溢れかえっていた。

 あんな凄い家に住んで居る彩芽さんに不満を言われるかと思いきや、爛々とした目で俺の部屋のベッドを見つめている。


「道人さんのベッド。あの、あの! 触って良いですか?」


「ご自由に」


「お、お邪魔します」

 触って良いと聞かれたので手で触るかと思っていた。

 しかし、彩芽さんは体全体をベッドの上に預け、寝っ転がる。


「思った以上に豪快だな」


「だって、好きな人のベッドですよ? なんか寝転がりたくなりません?」

 ベッドに寝転がり、顔だけを俺に向けて答えてくれた彩芽さん。

 で、答えてくれた後、枕に顔をうずめて匂いを嗅ぎ始めたので、頭を小突く。


「変態か?」


「えへへ。そうかもしれません」


「てか、見栄はもう張らなくて良いのか?」

 俺に好きになって貰いたいから、見栄を張って料理を俺に振る舞ってくれた。それだというのに、今は見栄なんて張らず、欲望の赴くままって感じだ。

 変わりようについついツッコミを入れると、彩芽さんは俺に教えてくれる。


「はい。見栄を張るのは間違いだって気がついちゃいました。確かに、見栄を張れば道人さんに振り向いて貰えるかもしれません。でも、道人さんが私の事を好きになれるかちゃんと確かめてくれている。だったら、私もありのままの姿を見せようって。えへへ、なんか恥ずかしい事を言っちゃいましたね」

 照れてしまった彩芽さんは持っていた俺の枕で顔を覆い隠した。 

 俺が好きになると確かめるって言うのなら、ありのままを見て決めて貰いたい。

 そんな彼女に魅力を感じていく。

 これ、俺、かなり早くころっと恋に落とされるんじゃないか?


「これが道人さんの匂い……。ちょっと落ち着きます」

 俺の枕を嗅ぐ彩芽さん。

 気がつけば、そんな彼女に自然と手が伸びてしまった。


「よだれ垂らしただろ? 悪い子にはこうだ!」


「あたっ」

 ちょっと優しく頭をぺしんと叩いた。

 人と言うのは不思議なもので、あまり痛くなかったとしても痛いと言ってしまう。

 彩芽さんもそれに当てはまるのは言うまでもない。


 で、叩いた後、彩芽さんは楽しそうに言った。


「すみませんでした。ちょっと、興奮してよだれつけちゃって」


「さてと、お茶でもって言ったんだし、お茶を用意するか。粗茶しかないけど、そこは許してくれよ?」


「いえいえ。お気になさらず。わがままで、ここに上がらせて貰ったんです。文句は言いませんよ」

 俺はキッチンに向かいお茶を用意する。

 ベッドに堂々と寝転がってしまう彩芽さん。そりゃあ、おとなしくしていられるわけがない。

 勝手にベッドの下や本棚をチェックし始めた。

 大方、エッチな本でも探してるんだろう。

 お嬢様が持つ礼儀正しいイメージとかけ離れた姿が、面白くてしょうがない俺は教えてやった。


「エロ本は無いぞ」


「やっぱり今時はデジタルですか?」


「っぷ。お前なあ」

 堂々と突っ込んで来た。

 まさか、同じサークルに所属する女子とこんな話をすると思っていなかったからな。

 

 ダメだこれ。綺麗で可愛いし、話していて楽しい。

 もう、普通に彩芽さんが可愛くて好きになりそうなんだが?


 魅力しか感じない彩芽さんのために俺はお茶を用意するのであった。


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