CHAPTER 2.星夜祭に願いを (2)
「さて」
「この方達、どう致しましょうか」
場所は再び村の入口に戻る。気絶している男達をどさりと落とし、恰幅のいい中年男とひょろりと縦に長い青年を見下ろすとマイが隣に並んで尋ねてきたのでアレイズは首を横に傾いだ。
「咄嗟に連れてきてしまったのはいいものの。これでは誘拐犯みたいで後味が悪いものだな」
第一特に連れてくる必要などなかったのではないだろうか。要は喧嘩が収まればよかったのだし。そう考えるものの連れてきてしまったものはどうしようもなく、アレイズは溜息混じりに男達に視線を落とす。随分と年が違う二人だったが、姿が似ていないことから親子だという可能性は低い。どちらかと言えば白髪の多い男の髪の色は灰だったし、青年の髪は栗色だったことからもそれが窺える。恐らく面識のある村人同士が何やら口論でもしたのだろう。しかし、一見平和そうな村でなぜそんなことが?
見た所かなり熱が入っていたようだったし、ひょろりと長い青年はとてもじゃないが拳を振るうようには見えない。目を閉じ唸っている様子の二人の口の端には血が付着しており、頬は膨れ上がっている。それを見るだけで、本気の喧嘩だったのだと理解できた。
それならばティファが入る前に止めて正解だったとは思うのだが、いかんせん人間だった頃にこのような事態に巻き込まれることがほぼなかったアレイズはどうにも良心が疼いて仕方がなかった。しかしマイはあら、と言いながらにこやかに笑う。明るい笑みはどこか彼女の妹を連想させる物だったが、少しだけ違うように見えるのは声が理知的なものだからか。大丈夫ですわ。この程度で犯罪になるのでしたら、今頃私達はティファ様のせいで牢獄行きです」
それにしても存外酷いことを言うメイドだ。
化粧っ気のないあどけなささえ感じさせる唇から発せられる言葉にアレイズが戦慄していると、足元の呻き声が大きくなった。どうやら目を覚ましたようだ。脂の乗った瞼とそれとは対照的な瞼が震え、開けられる。
「大丈夫か?」
その様子をじっと見つめながらアレイズが声をかけると、目を覚ました男達は驚いた様子でアレイズとマイを見やる。丸い瞳が湛える驚愕が先程の喧騒に繋がり、やがて恐怖へと色づいていくのを眺めアレイズはやはり良心が痛むのを止められなかった。
「君達は……?」
「私達は、つい先ほど村に来た者です。別に危害を加えるつもりはありませんので、警戒なさらないでください」
あれほどのことをしておきながら危害を加えないも何もないだろう。という内心の突っ込みはどう頑張ってもこのメイドに届くことはないだろう。そう考えアレイズはさりげなく肩を落としながら、相手の警戒心を解くべく笑みを浮かべたマイの横顔を見つめ黙り込む。すると彼らは隣に喧嘩相手がいることに気付いたのか、先程喧嘩していたことから思い出したのか唐突に剣呑な空気で睨み合う。そうして再び一触即発の状態になったのを見て、アレイズが慌てて口を挟む。
「ところで先ほど何やら口論していたようだが、何を話していたんだ?」
すると、男達は互いの意見に同意してもらおうと必死に話し始める。
「実は今晩、星夜祭が行われるんです」
「星夜祭?」
恰幅のいい男が早口に告げ、それに対してマイが小首を傾げる。星夜祭、というのはマイも聞いたことがないらしい。無論、アレイズとて知らない情報だった。祭りの一種だということは理解できるのだが……。
「そうです。この村の者達は、時間も作物を作るための気候も全て星から読み取ってきたんです。だから年に一度、星々に感謝するための祭りを催しています」
マイの言葉に答えるのは、線の細い青年だった。ややゆったりとした口調は恰幅のいい男とは正反対だった。
お互いあまり裕福とは言えない薄布に土が付くことを厭わず、その場に座り込んだままマイとアレイズを見上げる。そこにはどちらが正しいか旅人に選んでもらおうという、ある種の負けん気が顔を覗かせていた。
「その聖夜祭に、何か問題でも?」
交代するようにアレイズが問うと、男達は顔を見合わせることなく二人して鎮痛そうな表情を浮かべた。相反する二人が浮かべる同じ表情に、アレイズとマイが顔を見合わせる。
「それが……祭りに使われる神器が奪われてしまったんです」
「奪われてしまっては祭りはできない。だから祭りを行うか否かで口論してたんです」
「――なるほど」
恐らく、男達は祭りを行うのを楽しみにしていたのだろう。
娯楽に飢えた村に起こる明るい行事と言えば、祭りぐらいのものなのだから。それは男達だけじゃない。この村の全ての人が同じ気持ちだったに違いない。子供のようにその日を待ちわびて、そして大事なものを奪われた。だから彼らの喧嘩を止めずに観衆となったのだ。それを娯楽として少しでも心を慰めるために。無論それはアレイズの推測であり、事実はどうかは分からない。だが最も真実に近い推測であることは確かだった、しかし。
「どうしてこんな小さな村に神器が」
ぽつりと呟いた声は、マイにしか聞こえなかったことだろう。彼らは低く響いた音に首を傾げるのみだったが、アレイズはそれに首を振ったのみだった。そうして、事実を伝えるべきかどうか思案する。
実を言うと、神器なんてなくても祭りが行えることをアレイズは知っていた。
むしろ神器なんて数少ないのだから、ある方が珍しいのだ。神であるアレイズでさえ見たことがないのだから。
とはいえ、祭りを行う村人達の中にその知識のない者がいるとは思えないのだが。
「神器がなかったら、祭りは行えないの?」
凛とした声が響く。心底不可思議そうな声に恰幅のいい男が肉を揺らして自信満々に答えた。
「はい。あれは祭りには欠かせないもので――え?」
しかし、その言葉はすぐに途切れ目が丸く開かれる。視線は線の細い青年同様アレイズ達の背後に向けられ、ぽかんと物珍しそうな色を湛えた目が一身に注がれていた。
「?」
アレイズはマイを見るが、先程の声はマイのものではない。それよりもずっと聞き慣れたものであるような気がして、アレイズはどことなく嫌な予感を感じつつも後ろを振り返る。その動作に合わせて、ぴくりと頬を引き攣らせたマイも同じように後ろを向いて、そして固まった。
「ティファ……」
「しくじったわね、メイ」
アレイズ達の眼前に立っていたのは、スカイブルーの髪にダークブルーの勝気そうな瞳を持った空のような少女――ティファだった。彼女は元聖女らしく慈愛を湛えた微笑を浮かべ、視線の先にいる男二人に問いかける。そこにささやかな殺気が宿っているのが感じられて、アレイズは顔に手の平を押し当てて深く長く息をついた。
(マイの言葉を借りるわけじゃないが、しくじったなあいつ)
「そんな大変な事態が起きていたのね。それで、奪われたのはいつ頃なのかしら?」
アレイズやマイの驚きは無視してティファが男達に問いかける。男達も唖然としているものの、アレイズ達の仲間だということが分かったのか怪訝そうな表情をすぐに解いて答えた。
「昨日の晩です。見張り番の話だと、見知らぬ男達が強奪していったみたいで」
「強奪、ね」
「えぇ。村に強盗が入ったと言う情報だけで女達は怯えて外に出てこないし、もうどうしたらいいのか」
ティファの呟きに、線の細い男が身を震わせる。それはそうだ。その男達がもし村人に害を為す心づもりだったのなら、彼らのうちの誰かが犠牲になっていた可能性が高い。喧嘩のせいで安易に村に入ることができたが、本来は排他的な村なのだろう。そんな場所で強盗があったなどと聞いて怯えぬ者はいない。
アレイズは男達の不安は即座に推したが、奪われた神器を今すぐどうこうできるわけもなく顎に手を当ててふむ、と呟いた。
「――分かったわ」
しかしティファにはそういう我慢強さはなかったようだ。凛とした声を挙げたティファの横顔は怒りを通り越して殺気さえ宿った不敵な笑みを浮かべていた。呟くと同時にふわりとスカートを舞わせて踵を返す。
「え? ちょっとあんた」
話を聞くなりいきなり歩き出したティファに何らかの不安を感じたのか、線が細い青年が慌てて立ち上がって彼女に声を掛ける。しかしそれに対して振り返ったティファは、不敵な笑みをそのままに翡翠の指輪を陽の光に照らしながら左手を振った。
「その神器、私が取り返してきてあげる。どうせまだこの近くにいるんだろうし、それに」
あぁ、やはりこういう展開になるのか、とアレイズが胸中で呟くと同じことを考えていたらしいマイがアレイズの肩を叩いた。
「星を讃える祭り、私も見てみたいもの」
そんな二人の心中など知らず、ティファが楽しげに笑う。軽やかなその声に男達がはっと息を呑むのを脳裏の端に追いやりながら、何度目かになる溜息を漏らした。それと重なるようにマイが深々と頭を下げた。こうなったティファを説得することなど不可能だと、その顔が告げていた。
「私も御供致します」
「えぇ、お願い。……アレイズは?」
「行けばいいんだろう」
アレイズもまた、諦めを湛えた横顔を男達に向けて踵を返した。陽の光には随分と似合わない、夜を宿したような外套がはためき揺れる。男達がそれをぽかんと凝視する中、背を向けた三人は村を後にした。
◇ ◇ ◇
「ところで、メイはどうした」
村を出て近くの山道を歩きながら、アレイズがティファに問う。ちなみに当てずっぽうに山道を歩いているのは、強奪をするような奴は大抵山に篭ってるのよというティファの偏見が原因だ。ティファはあぁ、と軽く声を発しながらじゃりっと土を踏みしめる。笑みを見て戦慄する二人をよそに続けた。
「ちょっと駄々こねるから縛ってきたわ」
「!?」
その言葉に、双子の姉であるマイの顔が青ざめる。
アレイズもそれを聞いて顔をしかめ、今頃宿屋のベッドの上辺りに縛られているであろうメイの姿を思い描く。緊縛だなんて破廉恥な、と考えたもののそれを口にしたらこちらが変態扱いされそうだから止めておく。代わりにマイの肩を叩いた。
「お互い大変だな」
その動作は先程マイがアレイズにしたもので、彼女は青ざめた顔をそのままに頷いてから亜麻色の瞳をきっと前方に向けた。歩幅が大きくなり、土煙など無視した強い歩みでマイはティファを追い越した。
ぐっと手を握り締める姿には悲壮感が漂っていた。
「急ぎましょう! メイが心配です」
「確かに。……ん?」
辛辣な言葉を笑顔で言えるメイドでも双子の妹は心配らしい。胸中で呟きながら言葉を返し同じく足早に山道を進むアレイズの黒瞳に、ふと不自然な岩肌が映った。
「何だこれは」
明らかに色が違うそこに手を当てると、やはりそこだけ質が違うことが分かった。大体茶や黒で統一された山の中で一つだけ白い岩を置く地点で間違いなのだ。
これでは見つけてくださいと言っているようなものじゃないか。
ぱん、と手に付着した土を払っているとティファがアレイズの後ろからひょっこりと顔を覗かせて口元に笑みを象った。
「ビンゴね。ちょっと退いてて」
したり顔は自分の勘が当たったことに対する満足感か。いずれにせよこの岩の運命はもう見えてしまったのでアレイズは言われるままに身を引き、マイの腕を引いて下がらせる。彼女は大丈夫かしらと言わんばかりの心配顔でティファを凝視していたが、彼女が自信満々な様子で左手を岩に向けたのを見て口を挟むことができなくなった。下手に声を掛けて集中力を欠いてしまうようなことになったら、それこそ事だとマイは知っていたのだ。
「契約神アレイズの名の下に、ティファニエンドが命ずる」
凛と空へと伸びていく声に呼応して指輪が翡翠の光を放つ。
きぃん、と細く伸びる甲高い音が辺りを見たし、指輪へと魔力が集まっていく。
ティファが本来持つ魔力とアレイズの魔力が合わさり、濃い空気が辺りを満たした。神とは違うこの世界を満たす存在――精霊が集っているのだと胸中で呟き、アレイズは空を見上げながら彼女が少しでも集中できるように自分を落ち着かせた。彼女だけの魔力ならそんなことをしても意味はないが、アレイズの魔力も含まれているのだ。落ち着かせるぐらいでティファの暴発を防げるのならと、彼は喜んで瞼を閉じる。一つに結ばれた黒髪がざわりと揺れ、彼女が最後の言葉を発するのを待つ。
ティファの感情が昂ぶっている時はどうにもならないが、こうして落ち着いている時に魔法を使うのは初めてのことだった。
静かに静かに、体の末端から鼓動が伝わってくる。それはアレイズ自身のものだけではなくティファのものと混ざり、まるで体を共有しているような錯覚に陥った。アレイズ同様ティファのスカイブルーの髪がたゆたうように揺れる。それは岩だらけで荒涼としたこの山を流れる川のように見えた。
「来たれ――風よ!」
力のあるダークブルーの双眸が岩肌を睨みつけ、強い声が鋭く響く――その刹那。
バァァンッ!
派手な音を立てて岩が木っ端微塵に砕け散る。精霊達が巻き起こした鋭利な風がそうしたのだとマイが理解したのはそれから数瞬後だった。目を開いて跡形もなくなった岩をじっと凝視し、アレイズがやりすぎじゃないかと溜息を漏らしていると、ティファはスキップでもしそうなほどに軽やかな足取りで歩いていく。しかしその背に何らかの憤怒が見え隠れするのは気のせいではないだろう。
消えた岩の中にはぽっかりと空いた洞穴が存在しており、陽の光に晒されても尚暗がりを宿したそれはティファ達を手招きするように深淵を広げる。本来なら女子供はこうした闇は怖がるはずなのだが――ティファは普通とは少し違っていた。
「行くわよ」
一切の逡巡も見せず、すたすたと洞穴の中に足を踏み入れるティファを見て心底そう思ったアレイズはしかしすぐにティファを追う。マイもそれに続き、三人の足音が洞穴内に響き渡ると彼女はアレイズにぴったりと体をくっつけて上目遣いに彼を睨みつけた。
「……アレイズ様」
「何だ」
妹とは違い暗い深青のロングメイド服が闇に溶けて、真っ白なエプロンと肌だけをくっきりと表すマイを見返すと、彼女は更に体を近づける。恐らくティファに聞かれないようにするためだろうが――それにしては色々と問題がある体勢だ。せめて腕に当たっている胸ぐらいはどうにかどけてくれないか、と口にしたくとも殴り飛ばされそうで怖くて言えない自分は神としてどうなんだとアレイズはがっくりと内心で肩を落とした。
近すぎる距離についぶっきらぼうな声を返すと、マイはアーモンド型の大きな瞳を半分に細めてティファに視線を向けた。アレイズの腕にマイのそれが絡む。
「あんな物をティファ様に御渡しにならないでください」
「仕方ないだろう。一応あれは契約の証なんだ」
そんなことより離れてくれ。
心底そう思いながらげんなりとした顔をするアレイズだったが、マイの言うことは最もだという自覚はあった。ティファ自身の魔力だけでも神と契約できるほどに強いというのに、その上神の魔力まで与えるのは問題だったのだ。いや、本来ならば何ら問題はないのだがティファはあまりに正義漢に過ぎた。まさかこれほどとは。
十歩以上先を進むティファの背中を見ると、彼女は誰の手も借りずに暗がりをどんどんと進んでいた。野生動物かと思うほどに夜目が利いているのだろう。その足取りに迷いはない。少し汚れた白のブラウスとスカートが遠ざかるのを見て歩く速度を早める。するとマイもそれに付いて歩きながらそっと瞼を伏せた。吐息と共に睫毛が揺れる。反響しないようにそっと呟いた言葉はアレイズにしか聞こえないものだったことだろう。
「ですが、契約をしてまだあまり時間が経っていません。それなのにあんなに強い魔法を使うなんて」
「魔力を増幅させる指輪だからな。加えて大聖堂から支給されたネックレスもある。まぁ、それがなくとも元々才能があるから問題はないだろう。今回も俺達の出番はなさそうだ」
「確かに、ティファ様の魔力量は大きいですし、昔から聖女として魔力制御の稽古を欠かさずしていらっしゃいました。……ですが、制御法だけです」
「どういう意味だ?」
石が多いせいか決して歩きやすいとは言えない道をブーツで踏みしめながら歩くマイは、秘め事のようにアレイズに囁きかける。
「ティファ様は御優しい方です。私達が武器を持つことすら嫌がる方が、どうして攻撃魔法を使ったりなさるのでしょうか。ですから私達だってティファ様が攻撃魔法を使っている所なんて見たことがありませんでした」
沈黙が落ち、同時に足が更に早くなる。強盗がどこに潜んでいるか分からないこともあり、足音はいつもより控えてあるが今の所人の気配を感じることはなかった。
恐らく洞穴の最奥にいるのだろう。どれだけの深さがあるかは知らないが、岩を木っ端微塵にされても人っ子一人出てこない所から察するにもう少し距離があることは理解できた。
「アレイズ様」
腕にぎゅっと力が込められる。囁き声はどこか希うような色を持ってアレイズの耳朶を打った。
「大丈夫だ」
マイが懸念していることを何となく理解したアレイズはその言葉に、なるべく神らしく聞こえるように返した。低く、天ではなくどちらかと言えば地に近い場所に響く声がマイに届くと彼女は何も言っていないのに、という風に目を丸くした。
「暴発はしない。俺の魔力が使われているうちは大丈夫だ」
恐らくはそこを気にしているのだろうとアレイズが考えていると、マイはますます目を丸くして驚愕を湛えた瞳でアレイズを凝視した。どうやら当たっていたらしい。
驚きでぱっと離された腕に開放感を感じる。するとマイは自分がしていたことにようやっと気付いたのか、洞穴内でも分かるほどに頬を赤く染めた。煙玉を投げつけたり殺気を漂わせて神を見るようなメイドだが、恥じ入るような顔をしていると年相応の少女に見える。――だからと言って不謹慎な考えを持とうものなら彼女の武器が唸りを上げそうだが。
「申し訳ありません……」
「いや、いい」
恥じ入り、口元を押さえながら消え入りそうな声で謝罪するマイにアレイズは苦笑を浮かべて首を振る。マイが我を忘れるほど主が心配だったのだということを理解した以上、責めるのはあまりに狭量だ。
闇に溶け込み、露出する肌しか見えていない彼の瞳はやはり暗くマイは彼の表情を推し量ることに苦心しているようだったが、やがて少し距離を置いて歩き始めた彼女は幾分落ち着いた表情でティファを追い始めた。
エプロンの紐が揺れる。それを頼りに前へと進みながらアレイズはふと遠くを歩くティファを見た。
契約神の存在さえ忘れて歩く彼女の魔力は確かに強い。だが、それは自分の存在を安易に人や神に知らせることになることをアレイズは知っていた。自分がかつて神に追われた時に魔力を探知されたことがあるからだ。世界の意志たるレイナは全ての人々の存在を感知しているせいか個々の魔力を掴めないらしいが、神や人は違う。
暴発の心配はない、自分が制御すればいいのだから。だがもしティファが誰かに目を付けられた場合、彼女は逃げることが困難になる。それがアレイズの懸念だったが、マイに伝えることはできなかった。下手に伝えようものなら、マイはまだ起きてもいない事態を想定して胃を痛めかねない。
(だが俺と旅を続ける限り、懸念では済まされない可能性は高い)
とはいえ魔法を使うなと言って、果たして聞き入れられるかどうか。
ふぅ、と息をつき一歩大きく踏み出す。小石がない場所を選んで踏みしめたそこはほとんど音を立てずにアレイズの足跡を残した。




