第10話 失われた数
東方連邦の境目と言われる不死者の塔。絶えず魔物が這いずり出る。国の兵士は近づかない。国境故に下手に軍隊など動かせないし被害も報告されていない。動かすメリットなど一切ない。
稀に冒険者が訪れる。ありもしない宝の噂に引き寄せられその結果、倒しても倒してもキリがないほどの魔物に襲われいずれ力尽きて嬲られる。
必然的にその塔を登れる者は限られている。
塔の一区画に全身傷だからけの男性が眠っている。傷を癒やすように。更に傷を増やすために。男は来訪者に気づきながらもたぬき寝入りを決め込んだ。
訪れたのはその場に似つかわしくない少女。眠っている男に近づき傷口をつんつん小突きながら
「エイジスが 帰って来ない。何処にいるか 教えて」
「…………」
「エイジスが 帰って来ない。何処にいるか 教えて」
「…………」
「このボロ屋を ぶっ潰して やる」
「……なに?是はロクシィとはあんまり関わりたくないんだけど?」
「タナトスが起きてるのは 知ってた。さっさとして。エイジスが帰って来ない。何処にいるか 教えて」
タナトスは嫌そうな顔を隠そうともせずに床に手を置いた。
「最後に会ったのは何処?」
「左」
「…………是から見て?それともロクシィ?」
「普通に あたしから見てに 決まってる。なんで タナトスは そんなに頭が悪いの? なんで 姉様の 聡明さを 見習わなかったの?」
目の前の少女に呆れつつも反論はしない。変人になにを言っても無駄だから。タナトスからしてみればさっさと終わらせて帰ってもらいたい。
『SearchDrive』
「左……西……ダロス王国にいる……違った…これ人間だ………いないよ。ロクシィが嫌いになったんじゃないの?ニーチェが姿を消してからエイジスに依存しすぎたんだよ」
「そんなことは ない。 姉様も エイジスも あたしのことが大好き。 ちゃんと探して。エイジスが帰って来――」「それはもう聞いた」
タナトスは諦めたように腰をあげる。ロクシリーヌとの付き合いは長く次に出る行動などわかりきっている。
「ジュデッカの ところに 行くから一緒に 来て」
「だから立ってる」
「ジュデッカは どこに いるの?」
「に…………左だよ」
「左じゃわからない どうして タナトスは 馬鹿なの? ニーチェ姉様なら――」
ロクシリーヌの小言を聞き流しながら塔を降り始めた。周りには百を超える魔物達。それらを無視するように下に地上へと降りていく。
こんなのと常に一緒にいたエイジスには尊敬せずにはいられない。多分エイジスは嫌気がさして逃げたのだろう。そんな事を考えながらタナトスは地上へと降りていく。
「ちなみに嫌って言ったら是は寝ていられたの?」
「無理 タナトスは変人だけど ジュデッカは もっと変人」
「ロクシィも大概変人だよ。まともなのは是だけ」
塔の扉を開けると男女混合の一党がギョッとした表情で駆け寄ってきた。
「この塔から生きて戻れたの!?でも傷だらけ……お宝!お宝はあった!?」
「何階まで昇ったんだ?魔物はまだいるのか?」
「こんなに小さな女の子でも平気なんて……案外対したことないのかな?」
ロクシリィーヌは顎をしゃくるようにタナトスを促した。面倒な会話すらしたくはないのだろう。しかしそれはタナトスも同じ。
タナトスは下を向きながらゴニョゴニョと呟いた。
「……2階に使える物は何もない。
……4階には生命に関する書物があるよ。
6階に……魔力を増幅する指輪
8階に……ドッペルゲンガーの鏡
10階には……魂の薬……」
「スゲー!本当にあるのか!」
「早く行きましょ!まだあるのよね?……あれ?」
「消えた……幽霊?……まあいいか!行くぜ!」
その一党は結局2階への階段すらも見つけられなかった。しかし全員が塔から出られたのは奇跡とも言える。
「忘れてた。ジュデッカはお土産ないと是をこき使うんだった。ロクシィ、半分持ってよ」
「しかたないから 軽そうな 頭だけになったやつ………… やっぱり 重いからやめた 死体は1つで十分 でしょ」
…………
……………………
「タナトスにロクシィじゃないか、久しぶりだね」
「ジュデッカ、研究は進んでるの?」
「必要な検体の確保が済めば召喚できるよ。僕一人じゃ時間がかかるし厳しいかな」
二人の来訪に全身を血まみれにした男は笑顔で出迎えてくれた。真新しい血の匂いと腐った死臭蔓延る地下室。
「エイジスが 帰って来ない 何処にいるか 教えて」
「是は付きそいで来ただけ。なにか知ってたら教えてあげて。是にまで付きまとわれたら迷惑だから」
ジュデッカは二人が知らない事実。世界では常識になった真実を告げた。
「知らないのかい?……エイジスは死んだ……死ねたみたいだよ」
「嘘!そんなわけ無い! 嘘つき! ジュデッカは嘘つき! 変人のクセに! 」
「ロクシィ落ち着いて……誰が殺したの?ニーチェ?」
「黙れタナトス!姉様はあたし達を殺してくれない! あ あ あああぁぁぁぁ!!!なんでなんでなんでなんでなんでエイジスが!……あたしが見ててあげなかったから……ちゃんと面倒見てあげなきゃダメって言われてたのに姉様に言われてたのに!」
ロクシリーヌは頭を抱えながら膝から崩れ落ちた。それを見る二人の目は同情こそすれどどこか冷めきっている。
今のロクシリーヌに声など届かないがジュデッカは念の為に小声でタナトスに語りかけた。
「タナトス、ニーチェが姿を出現したこと言ったのかい?」
「エイジスには伝えたけど知らないみたい。ニーチェにロクシィが危ない事を伝えようと出向いたけど凄い形相で睨んできた。是は怖いから逃げちゃった」
「ニーチェは変人だからね。まぁ、キミたち全員だけど。なにが刺激になるかもわからない…………あぁ、そうだ。せっかく来たんだから手伝って帰りなよ。暇だろ?」
「……やっぱり……だからジュデッカに会うのは嫌だったのに。終わったら帰るしロクシィも引き取ってね」
おまけ 昔の人たちの腕相撲ランキング(魔法無し編)
1位 シグ (周りが遠慮している。掴んだら折れそう)
筋力S↓
2位 サタン
3位 クリーヴァ
筋力A
4位 エイジス
5位 セス
筋力C
6位 ブイ
筋力E
7位 タナトス
8位 ジュデッカ
筋力F〜G
9位 ロクシリーヌ(普通に非力)
10位 ニーチェ(華奢な女の子ぶってわざと負けている。まともにやっても7位ぐらい)




