第4話 ごめんなさいの気持ち
「シノブさんって困っている人を助けてるんですよね?」
朝の日課を済ませている最中にメイデン(乙女殿)に声をかけられた。周りに人の気配はない。ならば、
「そのように心掛けているな。乙女殿はなにか困っているのか?」
二人きりの時は極力乙女殿と呼ぶようにしている。
「私ではなくお嬢様です。よろしければ力になってあげられませんか?」
レイラか、困っている事は薄々気付いていたが他人に指摘されるのも恥ずかしいかと思うが……
「拙者に出来ることなど少ないぞ?」
「シノブさんならば大丈夫だと私は信じています」
…………
………………
扉を叩く前に気配を確認する。
起きているな。…………大丈夫だろう。
「レイラ殿、シノブ.ヒイラギだが今大丈夫だろうか?」
「シ、シノブ様!?大丈夫ですわ!」
勢いよく扉が開かれ笑顔で出迎えられる。着替えを済ませこれから朝食と言うところか。1年前と違い下着姿でうろつかないあたりに成長を感じられるな。
「助言を……2つ。拙者に言えることは少ないが聞いて貰えんだろうか?」
「シノブ様がわたくしに!?慎んでお受けいたしますわ!」
自らの汚点を受け入れる覚悟は十分と言うことか。聞けばレイラはもう時期11歳。いつまでも子供ではなく、子供ではいられないのだろう。立派な心構えだ。
「まず1つ。寝る前に水分は取りすぎない事だ。口に含み口内を潤す程度で十分だ」
「え?シノブ様?」
「そしてもう1つ。寝る前に用を足す。尿意がなくとも癖として身につけることが出来る。今夜あたり試してみるといい」
「シノブ様……なに、なんの……なんのことをおっしゃってますの?」
「いい歳して寝小便をすることに困っているのだろう?個人差はあるが誰でも通る道だ。恥ずかしがることはない」
レイラの顔がみるみる紅潮していく。
「だ、だ、誰!誰に聞きましたの!?」
……乙女殿と言いたいが依頼人の名を明かすことは忍者にとっては最大級の失敗。SEPPUKUなどでは済まされん。
「風の噂で聞いてな」
「風!?風の噂ですの!?つまり……みんな知ってますの?」
シーツを取り替えているのだから屋敷内の住人は知っているだろう。
「そうだな。拙者が知る限りは全員知っていると思う」
「……うっ……ヒック、ぴ……ぴぇ…………ぴぇ」
横隔膜を痙攣させ、目に力を入れ意識を集中し始めたな。次に来る行動はわかるが理由がわからん。
「ぴぇ〜〜ん!!もう生きていけませんわ!上手に隠してたのに……もう恥ずかしくて外を歩けませんわ〜〜!ぴぇ〜〜ぴ……ヒック、スゥ〜ッ……ぴぇーー!」
なんと言うか……レイラの泣き声は……鳴き声だな。雛鳥を連想させる喉を持っている。
見事なものだ!
…………
………………
「うぅ〜メイデン、町の皆様がわたくしを馬鹿にしてるんですわ」
「大丈夫ですよ、お嬢様。私が全員の記憶を破壊してきますから。後遺症が残るぐらい破壊しますので、お嬢様はいつも通りでよろしいのです」
泣きじゃくるレイラをなだめる乙女殿。背中を優しくさすりこちらに向かって口をパクパクと……読唇術か、
『シノブさんはなにをやってるんですか!?お嬢様の悩みがお漏らしな訳がないでしょう』
『拙者の勘違いか?困っているように見えたのだが?』
『お嬢様がお漏らしする姿は自分で乗り越えるべき壁です。今は放っておいて問題ありません!』
あれだけ泣きじゃくるレイラを見ると……申し訳ないことをしたと思うな。
その後レイラのお漏らしは幽霊騒動にまで発展するのだがそれはまたいずれ。
…………
……………………
「お嬢様、今日のヒイラギ様ならどんな悩みも解決してくれますよ」
「あの……実は……」
モジモしながら周りを気にするレイラ。ここにはワシと乙女殿しかいない。
「実はニーチェ先生様にいただいた宝石を無くしちゃいましたの。それで謝ろうかと思いますけど……その……怒られるのが怖くて」
ワシも覚えがあるな。先代様が大事にしているキセルをへし折り、大事にしている刀をナマクラにした。
それを自ら告げる勇気は尋常の精神では不可能だ。
フフフ……思い出すだけでも身の毛がよだつ。
しかし言いたいことはわかった。
「レイラ殿……暫し待たれよ……あ〜……あ!いろはにほへと!アメアラレ……ッス!」』
「あ!ニーチェ先生様の声ですわ!」
まだ、もう少し甲高く……女の声色は疲れる。
『「イエスイエス!ニーチェちゃんッス!ニーチェちゃんッス!あっしをあっしと思って謝ってみるッス!」』
ニーチェのマネは毒にも薬にもならん。レイラが困ってなければ時間の無駄しか残らない。
『「……外見も変えられるッスけど、長髪はまだしも毛染めを急には用意出来んからな。とりあえず謝ってみろ」
「ヒイラギ様……戻ってますよ……ププ……しっかり……ニーチェ様の真似を……フフフ……フフ」
乙女殿?楽しんでないか?




