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 全てを狂わす存在




 ニーチェを隊長とするパーティーに入って半年が経過した。それまではワタシも噂を聴く側で語る側だったが噂と言うのはまるで当てにならない。


「聞いたか?ニーチェ様が来てるらしいぞ」

「え!?あの美少女で天才で非の打ち所がないニーチェ様が?一目お会いしたいわ!」

「今酒場に向かっているらしい。ニーチェ様に会えるなんて幸福だ!」




「これでよし!今日こそモテモテになるッスよ!」



 ニーチェは意気揚々と酒場へ移動する。いつものことだ。町中で自らニーチェの良さを噂しながら酒場へ行く。しかし待っているのは……


「タナトス様……お顔の傷が痛々しくて……凛々しいわ。なにかに目覚めちゃいそう」

「あれがロクシリーヌ様……噂通りの美少女……数年後はどんな絶世の美女になっているんだ?」

「最近入ったエイジス様か……ニーチェのパーティに入れるとはさぞ凄いんだろな。それに……美人だ」

「ジュデッカ様〜こっちをお向きになってー!」



 みんなが会いたいのはニーチェ以外の人々。最近ではワタシも噂されている。それにニーチェは不満顔。当たり前だ。


「おいお前たち!悪魔を滅ぼしてるのはほとんどあっしッスよ!なんであっしを崇めないッスか!ひれ伏せ!ひれ伏せッス!」



「……あれが……サタン様の娘……親の七光り」

「どうせ父親の意向で隊長なんでしょう」

「厳格なサタン様と違って噂通りの傲慢な女で……髪はボサボサ。身なりも汚らしい」


 ニーチェは何故かどれだけの功績をあげても周りから称賛されなかった。ワタシもセスに『ニーチェは凄い』とは聞かされていたが、実際に目の当たりにするまでは噂の方を信じていた。


「クッソー!この町も腐ってるッス!みんなちゃんとあっしの良さを言ってくれたッスか?おかしいッスよ!」


 ニーチェは酒を一気に煽りダンダンとテーブルを叩き喚き散らしている。


「ワタシはいつも通り言ったわよ。今日もニーチェに助けてもらったし」

「是も」「僕も」「………ちゃんと 言った」



「……ロクロリ、お前はなんて言い回ったッスか?」


「お前たち下賤な存在には 興味がない そう言ってた ってちゃんと言ったよ 」

「お前は毎回じゃないッスか!なんでこんな簡単なことができないッスかー!この!この〜!」


 ロクシリーヌの頭をブンブンと振り回すニーチェ。ロクシリーヌはニーチェに触れてもらいとても嬉しそうにしている。



「あぁ〜!!七光りがロクシリーヌ様を虐めいる」

「俺が相手になってやるからロクシリーヌ様から手を離せ!」

「帰れ!お前に出す酒も食い物もねぇんだよ!木の根でも食ってろ!」


 散々な言われようだがニーチェはなにも気にしていない。ワタシなら怒っているし、他の仲間も一緒だ。一度わからせるか、懲らしめようというか話しも出たがニーチェ本人が


『みんな悪魔やら魔物のせいで不安で眠れなくてストレス溜まってるッスからこのくらい許してやるッス。世界が平和になるまでの我慢ッスよ。あと本当に可哀想と思うなら男紹介しろッス!同情するなら現物を寄越せッス!お前達ばっかりモテやがって……』




 


「相変わらず貴女がいると騒がしいのね」


 喧騒な酒場が一人の女性の登場で静まり返った。 



「賢者様……」

「賢者様がこの町に」

「賢者様、どうか我等に道を指し示して下さい!」


「ごめんなさいね。今日は用事があるのよ。通していただけるかしらん?」



 縫い目のない衣を纏った美女。ロクシリーヌも美少女だが可愛らしいに属している。


 しかし現れた女性は同性が敵わないと……嫉妬もバカらしくなる程の女性。



「空いてるかしらん?」


「空いてないッス。向こ〜の隅〜っこでチビチビ飲むのがお似合いッス」

「相変わらず連れないわね」



 賢者……ワタシも会うのは初めてだが、始まりの魔法使いシグ様唯一の弟子。それがこの町に……違う。ワタシ達に会いに来た。


「みんなコレを持ってくれる?」


 賢者が差し出したのは水晶のような……石。なにか力が込められているがワタシにはわからない。


「あ……色が…………変わった」


 賢者が瞬きもせず虹色に変色する輝きを確かめると心底ホッとしていた。他の者が触っても同じ。虹色に輝くだけの石。


 賢者が最後に石を胸元へと押し込むとき……確かに見えた。



 黒く濁った石に変色する様を。




「んで?コレがなんスか?」


「コレはドミナートル。……お師匠様が……ニーチェのお婆様が創られた物よ。

『この石を黒く染め、ふさわしい名を持つ者にアタシの(すべて)を与える』その人を捜すためにこれを複製してほしいのよん」


「婆ちゃんの言う事なら聞かなきゃダメッスね。叩かれたくないッスし。あと一瞬触っただけじゃ複製できないッス。婆ちゃんが創ッた物なら1ヶ月ぐらい貸せッスよ!」


 

 ドミナートルが大量に複製されて悪魔や魔物を退治しつつ、黒色に染める者を……全てを支配できる人間を探し始める。


 誰一人見つからなかった。悪魔を滅ぼしても、魔物を滅ぼし世界に平和が訪れても見つからなかった。



 ワタシ達の目的は終わり散り散りになり、結婚して子どもをつくり孫ができて……死期が訪れて、ワタシの人生は何1つ悔いのない最高の人生だったと胸を張って言えた。



 この言葉を聞くまでは。




 あの時からなに1つ変わらぬ姿の賢者から世界中の人々に命令が下った。ワタシは意味がわからなかった。





『その石を黒く染める者は悪魔の王。魔王の因子を持つ者よん!見つけ次第……処刑なさい!』




 ドミナートルの名は……現代では意味を変えている。魔法適正を測る道具として。

 


 その賢者は現代では姿を見せず、名前を変えずこう呼ばれている。



  加護を授ける女神 インユリア。





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